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第32話
俺の事を好きなのか、それとも男が好きなのか。
酷い質問をしたと自分でも思う。
百目鬼は何も答えない。
見下ろした首筋と喉仏。なんとなく目が離せなくてそのままかがむ様にくびもとを舐める。
さすがにしょっぱい。
シャワーを浴びてもらうのが多分配慮ってやつなんだろうけど、このまま逃げられそうなのでそんなことは言わない。
「何、舐めてるんだ。変態かお前は!!」
百目鬼が慌てた様に言う。
なんで今更慌てるのだろう。もっと過激なことをいくらでも言っていただろうに。
「別に、百目鬼がしたいって言っていたことだろ?」
ゴクリと唾を飲み込むと、喉仏も動く。
そこをもう一度舐めると百目鬼はぎくりと固まる。
「……一ノ瀬は、前彼女がいただろう。」
絞り出すような声で百目鬼が言う。
一体いつの話だ。俺に恋人がいたのは随分前の事だ。
誰かから聞いたのか。それとも、百目鬼自身がその時からずっと。
自分に都合のいい考えに思考をやられそうになって、そこで止める。
「それが? 今の話とは何も関係ないだろう。」
俺と百目鬼の事に、それはなんの関係も無い。
そう思ったからそう答えたつもりだった。
「普通に女性と恋愛できるなら、そうすればいいだろう?」
自嘲なんて言うのが生易しい声だった。
これが百目鬼の本音なのかと思う。
恨み事の様な言葉なのに、本音が聞けたことが少しだけ嬉しい。
こちらが踏み込んでも一歩引かれていない。
「俺は百目鬼、アンタと恋愛をしようと思ってるんだけど。」
それだけ伝えると回した手で背中を二度ほど撫でる。
やっぱり、しっかりと筋肉が付いていそうな体だ。
そのままTシャツの裾を持って上へめくる様に脱がせる。
「ほら、万歳して」というと素直に手を上げてしまう百目鬼が面白くて、少し声を出して笑ってしまう。
それから、上半身裸になった、百目鬼の筋肉のくぼみを撫でる。
単純な筋肉量なら多分百目鬼の方が多い。
少しだけ憧れる体形だ。
脇腹を撫でると、腕をつかまれる。
そのても指も男の手だ。ちゃんと分かっている。
「それは本気で言っているのか?」
百目鬼の言葉に「当たり前だろ。」と答える。
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