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第74話
「歯、先磨かねえ?」
そんな風に提案する日が来るとは思わなかった。
部屋に備え付けの小さな洗面所で並んで歯を磨く。
それからしいてもらった布団の上に、バスタオルが敷かれてることに気が付いて赤面する。
百目鬼がしいたのだろう。
初めてするときより何をされるのか分かってる分恥ずかしい。
これから、はしたない事をするって知っていて、歯を磨いて二人で布団に行く。
自分が嬌声を上げてしまう事も、自分の中側に官能があることも知っていて、お互いに性行為をするって知ってる。
態々遠くの旅館まで来て、こんなことばかりしている。
そんなことは自分でだってよく分かってるのに、今一番したいことがそれなんだからしょうがない。
二つ並んだ布団の片方。バスタオルが敷いてある方で二人で向き合って座り込む。
こういう時に始まりの言葉は何を言ったらいいのか。
『優しくして』だろうか。
別に優しくしてほしい、なんて思ってもいない。
言葉が思い浮かばない。
何も言葉は無かった。
お互いもう、今は話さねばならない事はない。
口付けをする。
同じ、歯磨き粉の味がする。
それだけで、風呂の時の疼きがまた、じわじわと体に広がるようで、唇を離された瞬間、はあという熱い吐息を漏らす。
百目鬼は帯結びが上手い。
だから、こうやって褄下《つました》を開いてもほどけない。
「何を――」
しようとしている、と百目鬼が言いたいのは分かっていた。
下着越しに、そこに唇を落とす。
それから、トランクスを下にずらして、勃起しかけている部分をむき出しにする。
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