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第94話

「もう、つくぞ。」 その声で、目が覚める。 瞳を開けて車窓から外を見ると見慣れた風景にもう変わっていた。 出来れば起きていてずうっと百目鬼を見ていたかった気もする。 「百目鬼、ずっと起きてたのか?」 「いや。俺も少し寝てた。」 「また、アラームか?」 百目鬼は首を振る。 それはそうか。昨日は一日色々あって百目鬼もさすがに疲れているのだろう。 「俺も丁度起きたところだ。」 そう言われてから、百目鬼にすり寄るように体重をかけて寝ていたことに気が付いて、姿勢を戻す。 そうやって体を預けている感じが恋人っぽくて離れがたい。 「駅でタクシーに乗るか?」 百目鬼に言われて首を振る。 俺の体を気遣ってくれているのだろうけれど、そういうのはいらない。 いつもの交差点まで二人でゆっくり歩きたい気分なのだ。 繋いだ手は、繋ぎっぱなしだった。 それが嬉しい。 手を放してしまうのは寂しいけれど、そっとお互いに握る手を緩める。 夏の日差しは相変わらず暑い。 アスファルトを反射する熱が、じわりと体を照らす。 お互いに態とゆっくりと歩いていることにお互いが気付いている。 ゆっくり、ゆっくり歩いて、離れがたい気持ちを少しずつ落ち着ける。 いつもの交差点。 百目鬼はこちらを見てる。 もしかしなくても、いつもこうやって見てたのかもしれない。 「また、明日。」 俺が言うと百目鬼は笑顔を浮かべる。 「明日も、明後日も毎日。」 百目鬼が返す。 ずっと続いていく日々を百目鬼の口からきけて、嬉しかった。 泣けちゃう位。 昨日から涙腺は緩みっぱなしだ。 だけど嬉しかったんだ。 あのとき、最初に俺が『また明日』って言ったとき、百目鬼も同じ気持ちだっただろうか。 涙の滲む目で、一人で家に帰る。 パーカーを借りっぱなしにしてしまったことに家に帰ってから気が付く。 脱ぐのも惜しい気がして、そのまま自分のベッドで横になった。 パーカーからはまだ百目鬼の匂いがする気がした。

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