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第96話
百目鬼の母親は思ったより普通に接してくれた。
夏休み何度かお邪魔して、宿題をして、それから百目鬼の本を読む。
だんだん二人で過ごすのが当たり前になっていく。
時々キスをして、花火大会にも一緒に行った。
それから、週に一度うちの道場で百目鬼も鍛錬することになった。
百目鬼の動作は綺麗だ。
「ふーん。彼のために柔道覚えようとしてたのか。」
カナタさんにニヤリと笑われる。
「まあ、今はまだ柔道“では”勝てないですけど、いずれは。」
俺がそう返すと「あれ?もしかして春秋君ちょっと雰囲気変わった?」と聞かれる。
心境の変化があったかはよく分からない。
柔道の鍛錬はそれほど進んでいない。
勝負をもう一度って話はお互いにしない。
けれど、足は思うままに動く様になっている。
筋肉がこわばる症状は出ていない。少なくとも今のところは。
「まあ、彼相当強そうだから、頑張らないとダメだろうね。」
筋トレも増やした。
今はまだそのつもりはないけれど、いつかまた。
そう思う。
「じゃあまずはこの組手、集中しようか。」
カナタさんに言われて頷く。
勝つことは好きだ。
だけど、負けたからこそ次がと思えることがあることも知った。
……勝っても次をと思ったことが始まりだったから、俺と百目鬼にとって勝ち負けは同じ価値のものなのかもしれない。
集中する。
目の前の相手とそれから型の事だけを考える。
その日から、いつもより無駄が無く動けるようになった気がした。
「綺麗だった。」
その日いつもの交差点まで百目鬼を送っていく際、百目鬼に言われた。
もし、そう思うならそれは百目鬼のおかげだよとは言えず、ただ照れて、百目鬼の髪の毛に手を伸ばして撫でる事しかできなかった。
「百目鬼の方がよっぽど綺麗だ」
俺が返すと百目鬼は変な顔をしていた。
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