1 / 1
第1話
「ーー痛っ!」
『げっ!にーにー、ちーごーごーしてるよー』
開かないお菓子の袋をカッターで開けようとして、指を傷つけてしまった俺に間延びするようなゆったりした口調で弟の蓮 が言う。
「蓮、もっかい言って?なんて言った?」
『ん?にーにー、ちーごーごーしてるよーって』
「にーにーは、わかる。けど、『ちーごーごー』って何?」
弟の蓮とは血が繋がってない。
二ヶ月程前に親が再婚して家族になったばかりだ。新しいお母さん、玲香 さんの連れ子で半年前までは沖縄に住んでいたらしい。
なので、蓮は方言が全く抜けていない。というか、『生まれて十五年使ってる言葉が自然に出てくるのは当たり前じゃない?簡単にぬけるわけないだろー』と言っていた。
それはごもっともなのだが、標準語しか使わない俺には、蓮が時々何を言っているのか分からない。
蓮は十五歳、今年十六歳になる高校一年生。俺とは二つ違いで同じ高校に通っている。
この歳で兄弟ができても仲良くはなれないだろうと思っていたが、意外にも蓮とはすんなり打ち解けられた。
兄弟というより、友達感覚に近いのかもしれない。
『ちーごーごー?怪我とかして、血が出てる時に使う言葉』
「なるほど。ちーは、血でしょ?でも、ごーごーって?」
『知らん。ちっさい時から使ってるから、気にしたことない』
「……そっか」
使ってるのに意味わからないのか…と苦笑を見せる俺に、何故か蓮がニヤつく。
『てか、その指貸せ。血垂れてるよ』
ゆったりした口調から、突然強い口調の言葉を使うのも沖縄の人の喋り方。
汚い言葉を使ってても、怒ってる訳では無い事が多いと蓮は言っていた。
蓮は怪我をした方の俺の手首を掴み、指を自分の口へと導く。
「ーーっ!痛いっ、れん」
その行動自体に呆気に取られている俺をよそに、蓮はお構いなしに指に吸いつき、傷口に舌を這わせる。
まるで見せつけるかのように、ゆっくりと丁寧に指に舌を這わす蓮に目が釘付けになり、心臓がドクっと音を立てる。
「んっ……止まってる、からっ!…やめて」
『だってさー、にーにーがどんな顔するのかが見たくて。可愛いよね、にーにーって』
男に、しかも兄貴に可愛いとか頭の中どうなってんだよ…頭沸いてるのか?からかい過ぎだ
「…っ、馬鹿!ふざけるな」
『ごめんって。怒らんで?ね、もうちょっとだけ』
楽しそうに笑う蓮は、未だに掴んでいた俺の手をまた口元に持っていきパクりと咥え舐める。
「んっ…れ、ん…いやっ」
振り解きたい一心で反対側の手で蓮の顔を押し返そうとするが、逆に掴まれて抵抗する術をなくした俺はされる行為を見ているだけしかできなくて、それを見ているうちに、だんだんとなんとも言えない感情だけが競り上がってくる。
指を舐められているだけなのに頬に熱がこもり、鏡を見なくても自分の顔が赤く染まっているのは容易に想像できる。
続く行為に体温が上昇していき、自然と息があがりだす。
なんだろう…この感覚は
「ぁっ…、れ、ん」
『にーにーってさ、男なのに欲を掻き立てるよね』
クチュっと音をたて指から口を離した蓮の言葉に、頭の中が疑問符だらけでいっぱいになる。
「……え?」
てか、俺はなんで弟に指舐められて赤面して、感情昂らせてんだよ
頭沸いてるのは俺の方か?
『冗談、気にしないで。ごちそうさま』
『じゃーね』と手を振りながら俺の部屋から出ていく蓮の背中に向かって、おもいきり枕を投げつける。
「…馬鹿れん!」
何がご馳走様だよ…
というか、欲を掻き立てるってなんなんだよ
俺は悶々と残る疑問に頭を抱えた。
ともだちにシェアしよう!