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第1話 重要な部分を全部割愛されてしまった
ある日突然、それはやってきた。
唐突に、頭の中に蘇ったそれは、俺の日常を大きく変化させた。
僕は、俺に変わった。
「兄さん、どうかしたの?」
後ろから弟に声をかけられて俺は振り向いた。
違う。いや、違くない。でも、一分前なら普通に接することが出来たのに、今は出来ない。
だって、コイツは確かに弟だけど、そうじゃない。
「エイ、リ……? 俺……」
「あれ。もしかして思い出した? 白瀬《シラセ》」
「……お前……高藤《タカトウ》、なのか?」
弟は、何でもないような顔で笑ってみせた。
なんでそんなに冷静なんだ。
頭がこんがらがって何が何だか分からない。
俺が困惑していると、弟が、いや高藤が口を開いた。
「まだちゃんと思い出してないのかな。正直、昔の話なんて今の僕たちには関係ないから思い出す必要もないと思うんだけどね」
「な、なにを……だって、俺達は」
「そうだね。元々は別世界の人間だった。そしてある時突然この異世界に召喚されて、魔王と戦ったね。ふふ、漫画みたいな展開だったよね。今思い出しても壮絶な旅だったね」
「なんでそんな笑っていられるんだ! 魔王はどうなった! 俺は、俺達はあの時……」
「うん、死んだよ」
何でもないことのように、高藤は言う。あっけらかんと。
なんでこんな軽く言える。
どうして、笑っていられるんだ。元の世界に戻れていないってことは、俺達は負けたのか。
ああ、もう何もかもが分からない。
「混乱しているね。ちゃんと説明してあげるから落ち着きなよ、兄さん」
「……お、お前は覚えているのか? 全部?」
「勿論だよ」
ああ。まるで小説の巻数を一、二冊くらい飛ばしてしまったような感覚だ。アニメなら一期を丸々飛ばして二期から見てるようなものだ。
状況を整理するために、ちゃんと一から話をしてもらわないと困る。
「まず、俺たち二人がこの世界に召喚されたときのことは覚えてる?」
「あ、ああ」
大学の帰り、俺達はコンビニに突っ込んできた車に轢かれそうになったところを不思議な光に包まれて、この世界に召喚された。
そして何故か異世界の勇者として扱われ、ラノベ展開になって魔王を倒すことになったんだ。
うん。ここまでは辛うじて覚えてる。
「俺達は魔王と戦った。魔王と倒せば元の世界に戻してくれると王様が約束してくれたから」
「ああ。でも、俺は……あのとき……」
「そう。白瀬は魔王の剣に刺されて死んだ。でも白瀬も直前に魔王に極大魔法を打って、相打ちになったんだ」
「じゃあ、魔王は死んだのか?」
「俺達が戦った魔王はね」
「は?」
どういう意味だ。魔王って他にもいたのか? そんな話は聞いてないけど。
「話の本題はここからだよ。このままだと白瀬は死んで、俺だけが元の世界に戻される。そう思った俺は、一つの賭けに出たんだ」
「賭け?」
「僕自身が魔王になればいいって」
「は?」
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