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第24話 もう一度勇者になってみます

 怪我も完治して数日後。  そんなこんなでエイリが両親に上手く言ってくれたおかげで、俺たちは旅に出ることになった。 「お前、なんて言ったの?」 「兄さんを襲った人物を探しに行くって。騎士の息子として捕まえないと示しがつかないって」 「そんなので納得したのかよ」 「その辺は上手く説明したよ。人を丸め込むのは得意なんだ」 「親に対してなんてことを……」  どうやら俺を襲ったのは山賊ということにしたらしい。そいつらの魔法攻撃で俺は死にかけたと。  本当にそんなので納得してくれたのかは分からないけど、父さんは男なら一度は旅に出たくなるものだよなって言ってたし、もしかしたらその嘘はバレてたのかもしれないけど許してもらえたからいいか。 「魔物とだけは戦うなって言ってたね」 「その魔物を倒しに行くんだけどな」 「討伐部隊と鉢合わせにならないように気を付けないとね」 「そっか、そうだな」  確かにそうだ。見つかって父さんに知らされたらメチャクチャ怒られる。外出禁止にされる可能性だってある。気を付けないとな。 「…………兄さん」 「何だ?」  エイリは何か迷うように目を泳がせている。コイツがこんな風に何かを躊躇うなんて珍しいな。俺に何か言いにくいことでもあるんだろうか。  そう思っていると、何かを決心したように両手を前に翳して光の玉を出現させた。  何をしようとしてるんだ。分からず黙って見ていると、その光の玉から一本の剣を取り出した。まさか、お前が持っていたとは思わなかったぞ。 「お前……それ、月明かりの剣じゃないか」 「そう。君が魔王と戦って死んだあと、僕がずっと持っていたんだ。この剣がなければ、もう君は勇者として戦わずに済むと思って……」  エイリの両手に握られた、勇者だけが扱える剣。俺が前世で持っていたもの。  偽物なんじゃない。その剣から放たれるオーラは、転生したこの体でも分かる。魂が覚えている。 「……この剣を手に取ったら、君はまた勇者になる。僕のことを殺すことも出来るよ?」 「アホか。俺は魔王を退治しに行くんじゃないの、魔物退治に行くだけなの。そんで凶暴化してる原因を調べるだけ、分かったか」 「はいはい」 「ったく。それと、お前はあまり魔法を使うなよ。魔王だってバレると面倒だし」 「気を付けるよ」 「本当に分かってんだろうな」 「大丈夫だって。僕は調子に乗って行動したがる兄さんのストッパーだからね」 「……昔のこと根に持ってんの?」 「まさか」  本当かな。なんか今、ちょっと嫌味を言われたような気がしなくもないんだけど。  まぁいいや。俺はエイリから月明かりの剣を手に取った。  懐かしい重さ。かつて俺と共に戦ってくれた、もう一人の戦友。 「……またよろしくな」 「…………はぁ」 「何だよ」 「その剣を持った君をまた見ることになるとは思わなかったからさ。本当にそれを返して良かったのかなって、なんか複雑な気分なんだよ」  お前がそう思う気持ちも分からないこともないけど、今回の目的は魔王じゃないんだ。  それに俺だってもう死にたくないよ。 「約束するよ。もうお前を残して死んだりしない、無茶はしない。お前の言うことを尊重する。これなら良いだろ?」 「……約束できる?」 「おう。何だ、指切でもするか? それとも契約の印とか刻むか?」 「必要ないよ。もし君が僕の言うこと無視したら、強制的に連れ帰るから」  そう言って笑うエイリの目が怖かった。そうだよな、前回と違って今のコイツは魔王なんだからそれくらい出来るだろうな。怒らせないように気を付けよう。

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