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第25話
リュドラーは目を開けた。
鏡の中に秘部をさらして縛られている男がいる。薄いシャツが鍛え抜かれた筋肉に添って波打ち、膝裏にかかっている手首は絹のリボンで縛られていた。首輪をしているその姿に騎士としての面影はすこしもなく、贄に似た風情がある。己の力ではどうすることもできない、意志など存在させてはならない道具。――リュドラーの目には、そう見えた。
「ふふ、リュドラー。しっかりと目を見開いて、刻みつけておくんだよ。これが君の職業だ。そして君は、その身に与えられるものをきちんと受け入れて、正直な反応を返さなくちゃならない」
ティティはナイフを手に取って、リュドラーのシャツを首元からまっすぐに、ゆっくりと刃を滑らせて切り裂いた。リュドラーは鏡の中のティティが、自分によく似た男のシャツを丁寧に布切れにしていく姿をながめていた。
(あれは、俺じゃない)
リュドラーの理性がちいさく叫ぶ。あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない、あれは俺じゃない――。
シャツを切り終えたティティは、ナイフとともにそれをきちんとサイドボードに置いて、無表情に天井を見上げるリュドラーの姿に、唇を舐めた。
「さあ、リュドラー」
ティティの指先がリュドラーの胸乳に触れる。クルクルと色づきを撫でられて、リュドラーの肌がわななく。
「……う」
「そう。そのまま、感じるままに声を出して」
歌うようにティティが言う。指が滑るごとにリュドラーの理性はたわみ、細く薄い息が唇からこぼれ出た。ティティはリュドラーの肌を指先でなぞりながら、もう片手で彼の唇を開き、口内をまさぐった。
「んっ、う……、うう、う」
「リュドラーは口の中が好きなんだよね」
「んっ、んぅ」
指で舌を挟まれたり、上あごを猫の喉をあやすようにされたりするうち、リュドラーの肌は熱を増し、下肢に血液が集まった。鏡の中でも屈強な男が、しなやかな男に触れられて、股間を硬くさせている。
「ふ、んぅ、う、うう」
ふっとリュドラーの鼻を、なにかの香りがくすぐった。それはどこかで嗅いだことのある、甘い花の香りのようで――。
(これは、蜜酒の匂いか)
部屋に多量に置かれていた蜜酒とおなじ香りが、どこからか漂ってくる。それは肌の熱が上がれば上がるほど強くなり、リュドラーの理性をほどよく溶かした。
「ふふ。あのお酒、もう体に浸み込んでいたんだね」
あれにはやはり、なにか薬品が混ざっていたのかと、リュドラーはティティに目を向けた。
「だめだよ、リュドラー。ちゃんと鏡の自分を見て」
やさしく叱られ、リュドラーは視線を戻した。鏡の中の男は、陰茎の先端を濡らしていた。口内からティティの指が離れる。ティティは小瓶を手に取ってリュドラーの足元に座った。瓶の蓋が開くと、花の香りが強くなる。
「ちゃんと自分を見つめているんだよ、リュドラー」
言われるままに、リュドラーは持ち上がっている尻に小瓶がかたむけられるのを見た。とろみのある液体が尻にかかり、冷たさに身をこわばらせる。
「すぐに、熱くなるから」
ティティは花の蜜に似たそれを垂らしながら、リュドラーの秘口のシワをほぐして慎重に指を沈めた。
「ぐ、ぅ……」
「力を抜いて」
そう言われても、意識をして力んでいるわけではない。顔をゆがめるリュドラーの内腿に、ティティは舌を伸ばした。
「う、は……、あ、ああっ」
快感が全身を駆け抜ける。こわばりが薄れたリュドラーの秘孔に、ティティの指が深く沈んだ。グニグニと動く指に内壁を拓かれて、蜜を塗りつけられる。ヒクつく入り口はティティの指にすがりつき、内壁はティティの指をやわらかく受け入れた。
「うん。――やっぱり才能あるよ、リュドラー」
「ふっ、んぅ、う」
たっぷりと蜜を吸わされたリュドラーの秘孔は、増やされるティティの指をなめらかに包んだ。拓かれる肉が淫靡にうごめき、ティティの指を締めつける。体感と視覚の両方で己の身に処されていることを認識するリュドラーの陰茎は、先走りをこぼしながら震えていた。
「は、あ、ああ……、あっ、ふ」
「気持ちがいいんだろう? リュドラー。やっぱり体の使い方を知っている人間は、呑み込みもはやいね」
ティティは指を抜いてリュドラーの耳に顔を寄せた。
「ねえ、ほら。ビンビンに勃起して震えている熱の奥に、ヒクついているちいさな花があるの、見えるだろう? 僕たちはあそこで相手を喜ばせるんだ。だから、どこよりも一番あそこを鍛えておかなくちゃならない。なに、大丈夫だよ、リュドラー。君ならきっと、すぐにでも慣れるさ。なんせ、あのオルゴンが認めたんだもの」
「オルゴン」
かすれたリュドラーの声に、ティティが目じりをとろかせる。
「そう、オルゴン。彼はとっても誇り高いんだ。その彼が君を認めたってことは、それだけの素養を君が持っているってことなんだよ、リュドラー」
チュッと軽い音を立ててリュドラーの頬に親愛のキスをしたティティは、ベッドから降りてどこかへ行った。引き出しを開く音を聞きながら、リュドラーは鏡の中の自分を見つめる。
(あれは、俺か――?)
下肢をあさましく奮い立たせ、肌身を熱くしている男は俺なのか。――俺なのだろう。脈打つ陰茎も、ヒクつく秘孔も俺のものだ。触れられていないくせに、淡々とうずいている胸も間違いなく、俺の持っている感覚だ。そうか、これが性奴隷というものか。ティティが自由のないものと言っていた理由は、これなんだな。飼われるもの。いくら愛玩されていても、すべては飼い主の望むままに。その範囲内でなら、好きにできると言いたいのか。
リュドラーの胸に、自分はオルゴンやティティとおなじ境遇なのだという概念が生まれた。
「さあ、リュドラー」
戻ってきたティティの手には、ドアノブに似た真鍮製の道具があった。それは子どもの手の中に入るほどちいさく、裏側は指輪に似た輪がついている。ティティは輪に指を入れて、取っ手と思われた部分をリュドラーの秘孔に埋めた。
「ひっ、ぁ、ああう、う」
「しばらく、こうやって入り口だけを刺激するんだ」
「ふぁ、あっ、ああ」
抜き差しされると、ぬぽ、と濡れた音がした。
「ねえ、ほら見て……。君の中に、出入りしているよ」
リュドラーはあえぎながら、銀に輝く無機質なものが、自分の秘孔を押し広げるのを見た。ブルル、とリュドラーが体を震わせると、ティティはクスクス笑った。
「ふふふ。ねえ、もっとよく見て。こうやって、僕たちは犯されるんだ。命じられたものをここに受け入れて、快楽を得る。初日に後ろだけでイかされたろう?」
質問に答える余裕を、リュドラーは持てなかった。秘孔がヒクつき、奥が淫らにうごめいている。抜き差しされるたびに陰茎が震え、先走りをあふれさせる姿を見ながら、己の立場を実感するだけで精一杯だった。
「あっ、あ、は、ふ、くぅう」
「ふふ。かわいいよ、リュドラー」
幾度か抜き差ししたティティは、指を離した。
「しばらくはこれで、咥えるってことを覚えてもらう。この次はもっと長いものを使って、奥の訓練だ」
ごろりとティティは横になり、リュドラーの胸に円を描いた。
「すばらしい体つきだねぇ、リュドラー。いくら見ても飽きないし、触れたくさせる魅力があるよ」
ため息交じりの声を聞きながら、リュドラーはヒクヒクと動く真鍮の輝きを見ていた。触れられていないのに動くのは、秘孔が動いているからだ。
しばらくすると秘孔に小刻みな震えが走り、内壁が道具に吸いつくような動きをはじめた。
「は、ふぅ……、う、はぁ」
リュドラーの息の変化に気づいたティティが身を起こす。
「慣れたみたいだね。それじゃあ、もっと大きなもので、奥までしっかりほぐそうか」
甘いティティのほほえみに導かれ、リュドラーはティータイムだと呼ばれるころにはすっかり秘孔をトロトロにさせていた。
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