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Just the beginning ⑧
「は?? 依頼??」
「うん……。章良くん、ご指名」
「俺?」
3人の依頼窓口担当の尚人が、旅行に行く予定だった週の月曜に急遽依頼が入ったと章良に告げた。
「はああああ?? 尚人っ! それ、いつ??」
涼が噛みつくように尚人に確認する。
「それが……今週末」
「…………」
「もおおおっ!!! なにそれ!! 誰の依頼だよ!!」
「涼ちゃん、落ち着いて。新規なんだけど。アメリカ在住の日本人みたい。あんま、資料ないんだよね」
「男?」
「うん。エージェントからの説明だと、どっかの研究者みたいなんだけど、理由があって警護対象らしいよ」
「理由って何?」
「それが、よくわからないんだよね。ほとんど情報公開されてなくて。こっそり調べてみたんだけど、がっちり守られてて、ちょっとしかわかんなかった。この人、表向きは別の研究してるみたいだけど、裏ではおそらく、軍事がらみの重要な研究してるみたい」
「……てことは、科学兵器かなんかか?」
「たぶん……。だけど、情報が少なすぎて詳しいことはわかんない」
「まあ……結構な科学兵器作ってんのだろうな。その情報が漏れるのも駄目だし、そいつが死んでも駄目ってことだろ?」
「うん。たぶん、その人しか作れないなんかなんだろうね」
「だけど、そいつ、日本人なんだろ?」
涼が機嫌悪そうに、テーブルに置いてあったおやつの煎餅を乱暴に引っ掴むと、バリッと音を立てて噛みついた。
「うん。でも、アメリカに帰化してるみたい。子供の頃にアメリカ人夫婦に養子として引き取られてる」
「その、アメリカ人は?」
「……父親はアメリカでは大富豪の1人として有名な人物らしいよ。政治家とも繋がってるみたいだし。色んなところに資金提供してて、力もあるみたい」
「その日本人の経歴は?」
「それが、日本でのデーターはほとんど消されてて、もっと謎なんだよね。もらった資料にも名前も年齢も載ってなくて俺も深く調べらないし」
「なに、それ。怪しくね? クライアントの名前も教えてくれねーって」
「たぶん、アメリカで重要人物になったせいだと思う。国に隠されてる感がめちゃめちゃするよね」
「その大富豪の親から辿れないのか?」
「親の名前も資料では伏せられてる。たぶん、会うまでは余計な情報は一切渡さないつもりなんだろうね。アメリカ渡ってからの経歴も、簡単な略歴しかわかんないし。有名学校出て、有名大学出て、そこからメディカルスクールに入って医者の資格を取ったみたい。その後数年空白があって、今は国立衛生研究所に入って研究員になってるって、それだけ。大学は主席で卒業してるみたいだから、頭はいいんじゃないかな」
「まあ、国極秘の秘密兵器作ってるぐらいだからな」
「で、なんで、そいつ、日本くんの?」
「それが……」
そこで、尚人が苦笑いしてこちらを見た。
「休暇、だって」
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