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Just the beginning ㉓

 こうして、監視も含めて黒崎の面倒は涼に任せ、章良は有栖から詳しい事情を聞き出そうとしたのだが。章良の怖れていたとおり、有栖との会話は、有栖の謎のほんわかペースに乗せられてなかなか進まなかった。  しかしそれでも、なんとか理由は判明した。ただしそれは、章良にとって理解の範疇を超えており、受け入れがたい事実だった。 『あの、乾さん』 『なんですか?』 『敬語、止めません? 今、勤務時間外ですよね?』 『そうですけど……』 『だったら、止めましょ。乾さんのほうが、俺より年上だし。乾さんがタメ口、大丈夫だったら』 『はあ……別に大丈夫ですけど……』 『で、何が聞きたいの? アッキー』 『……アッキー?』 『俺が考えたニックネームだよ。そうやって呼んだほうが仲良くなれるから』 『はあ……』 『あ、俺はジュンで。ジュンジュンとか、ペイペイとか、オーソドックスに順平でもいいし』 『…………』  お前はどっかのパンダか、とツッコみたくなる気持ちを抑えてそこはスルーした。  ニコニコ笑顔で有栖が章良に微笑んだ。 『それで? なんだっけ?』 『だから、今回の依頼の本当(・・)の理由と目的』 『本当の理由と目的?』 『そう』 『えーっと、理由は、ガッちゃんは一応ああ見えて結構スッゴい研究をアメリカでしてるんだけど、それがバレたらヤバイから情報源になるガッちゃんが誘拐されたり、狙われたりしないように、常に警護をつけてるだけだけど……』 『だけど、今回は、勝手に来てるだろ? 依頼も国からの正式なもんでもなかったし。大体、そんな重要人物だったら、民営じゃなくて、シークレットサービスがついてもおかしなくないよな?』 『まあ……。そこは色々込み入った事情があって、シークレットサービスは使えないから。大統領命令がないとだめだし。それに、今回は、ガっちゃんが日本に行きたいって言っただけだから、公務でも何でもないし。でも、それは言ったよね? 「休暇」って』 『確かに「休暇」とは聞いてるし、警護が必要な身の上なのはわかる。まあ、シークレットサービスが使えないってのもそっちの事情なんだろうし、俺には関係ないから別にいいんだけど。疑問がいくつかある』 『何?』 『その手の警護なら、俺よりも適任がいるはずだろ。もしくは、いつものエージェントから連れてきたらいい。なのに、わざわざ会ったこともない俺を指名するのが理解できねぇんだけど』 章良が目当てだったと知っていることはあえて伏せて、有栖を問い質す。 『ああ、だからそれは……実は前からアッキーのことは知っていて、警護をお願いしようってことになって……』 『それに』 章良は、有栖の言葉を遮って、更に疑問をぶつける。 『黒崎は相当腕が立つみたいだけど。お忍びのこんな平和ボケした国への旅行だったら、黒崎1人にあんたがつけば十分だったんじゃねぇか? 逆に警護つけたほうが余計目立つだろ』 『あれ? 気づいてたの?』 有栖が嬉しそうに答えた。

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