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Out of control ㉑

 空港は2月という閑散期に当たるせいか比較的空いていた。車もターミナル近くの駐車場に停めることができた。急ぎ足で国際線の出国ターミナルへと向かう。黒埼たちの乗るエアラインのチェックイン場所へと着くと、きょろきょろと辺りを見回した。 「アッキ―?」  後ろから声をかけられて振り向くと、驚いた顔の有栖が立っていた。 「どうしたの??」 「ジュン……黒埼は?」 「ああ、今チェックイン済ませたとこだけど、売店行ったよ」 「分かった。ありがとう」 「あっ! アッキ―!」  売店エリアへ向かおうと足を踏み出したところで有栖に呼び止められた。振り返ると、満面の笑みの有栖がこちらを見ていた。 「ありがとう」  その、色々な意味が込められた『ありがとう』を晃良は理解した。返事の代わりに笑顔を返して、踵を返した。  売店やカフェなどが並ぶ通路を足早に歩きながら黒埼の姿を探す。黒埼が行くとしたら菓子が買える場所だろうと、コンビニや土産屋を中心に注意深く目を走らせていると。  いた。  土産屋の一角に。菓子が並ぶ棚をしょんぼりとした顔をして眺めている黒埼の姿があった。どれにしようか悩んでいるというよりは、半ば放心状態のようにぼうっとただ見ているだけのように見えた。そんな黒埼に近付いていく。いつもなら気配ですぐに気づきそうなものなのに。後ろに立っても晃良に全く気づいていなかった。 「黒埼」  そう声をかけると、びくりと肩を震わせて黒埼が振り返った。 「アキちゃん……」  捨てられた子犬のような目で晃良を見た。 「お前、なに捨てられた子犬みたいな顔してんだよ」 「だって……アキちゃんに捨てられたみたいなもんじゃん。愛想尽かされたし」 「……極端だな」 「そうじゃん。昨日からぜんっぜん話してくれないし。ジュンにはめちゃくちゃ怒られるし。アキちゃん一緒に寝てくれないし。バイバイもなかったし」  といじけた様子で黒埼がぶつぶつと言った。晃良は、はあっ、と大きな溜息を吐いて黒埼を見た。 「もう怒ってないから」 「……ほんと?」 「ん」 「……愛想尽かしてない?」 「ない」 「アキちゃん」 「何?」 「……俺のこと好き?」 「……それはどうだろう」 「えー、そこは好きでいいんじゃないの? この流れだったら」 「ノーコメント」  アキちゃん、そういうとこはブレないな、と黒埼が苦笑いした。 「まあ……出発前に間に合ってよかったわ」  そう言うと、お互い笑顔で見つめ合った。ふと、思い出して時計を見る。 「あ、もう俺行かないと。午後から仕事だから」 「えー、もう行くの?」 「うん。挨拶だけできればと思って来たから」 「寂しいなぁ」 「またすぐ会えるだろ。どうせお前、なんやかんや言って現れるし」 「そうだけどぉ」 「そしたら、またな」  これ以上一緒にいると、自分も離れがたくなりそうだった。晃良はあっさりとしたフリをして黒埼から離れようとした。そこで、自分の手の中にある買い物袋に気づく。  そうだった。 「黒埼。これ、やる」 「え? 何?」 「大したもんじゃない。後で開けて」 「え? ちょっと、アキちゃん!」  買い物袋を無理やり黒埼の胸に押しつけて受け取ったのを確認すると、晃良はさっと踵を返して足早に離れた。アキちゃんっ、ともう一度自分を呼ぶ黒埼の声を無視して歩き続ける。今振り返ることは絶対にしたくなかった。なぜなら、自分の顔が自分でも引くぐらい赤くなっていることを自覚していたからだ。  このまま振り返らずに行こう。それでも大丈夫。自分には分かる。今、黒埼は満面の笑みでこちらを見ている。  その黒埼の子どもみたいに喜んでいる笑顔を想像して、晃良はふふっと笑った。

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