162 / 239
No matter what ①
簡素なホテルの一室。4月にしては冷房が効きすぎていて肌寒い。防音対策がされていないのか、隣の部屋の物音がひっきりなしに聞こえる。
そんな部屋の中央。立ったまま距離を取って向かい合う晃良と黒崎。
ホテル特有の乾燥した空気がその2人の周りを漂う。晃良は静かに口を開いた。
「お前が本当に必要なのは、俺じゃないだろ」
黒崎は表情を変えない。沈黙が続く。ふと、黒崎が小さく笑って答えた。
「そうなのかもな」
覚悟はしていたのに。黒崎が肯定した言葉に深く傷つく自分がいる。
晃良はその感情を黒崎に悟られないよう、拳を握り締め、必死で無表情を貫いた。
ともだちにシェアしよう!