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This is the moment ④

 翌日早朝。遠慮のない勢いでインターホンが連打された。起きたばかりで不機嫌そうな涼が、晃良をちらっと見る。その視線を受け、晃良はダイニングテーブルから立ち上がると応対へと急いだ。  尚人も今日は1日休みなので、まだ起きてきてはいなかった。晃良はモニターで相手を確認すると、オートロックを解除した。数分後、玄関のインターホンが鳴らされる。 「おはよう、晃良くん」  玄関の戸を開けると、まず飛び込んできたのは有栖の笑顔だった。 「おはよう」 「朝早くごめんね。だけど、フライトが早いのしかなくて」 「いいよ。もう慣れた。上がって」 「うん、お邪魔しまーす」  そう言って元気よく入ってきた有栖の後ろに。 「……いらっしゃい」  約1ヶ月振りに見る、黒崎の姿があった。優しいというよりは熱のこもった視線でじっと顔を見られる。 「どうした?」 「……やっと会えた」 「は? え? おわっ」  隙のない動きで引き寄せられ、抱き締められる。 「黒崎?」 「もう~凄ぇ長かったわ~。アキちゃんビデオだけじゃ耐えるの無理~」 「アキちゃんビデオ?」 「なんでもない。それより、会いたかった、アキちゃん」  更に腕に力を込められる。 「……俺も、会いたかった」  そう(ささや)いて、黒崎の背中に腕を回して抱き締め返した。  しばらくの間、ずっとそうしていた。ふと、リビングから誰かの視線を感じてはっと我に返る。 「とりあえず上がって」 「え~、もうちょっとこうしてたいんだけど」 「そんなの、後からいくらでもできるだろ」 「……いくらでもなんでも?」  ふと黒崎の顔を見上げると、悦の入ったニヤけた笑顔とぶつかった。 「……相変わらず、変態さは変わんねぇな」 「アキちゃんにはいつも全力で素の自分を見せたいと思ってる」 「なんだそれ」  わけ分かんねー、と言いながらするりと黒崎の腕から抜け、さっさと先に歩き出した。え~、もう、アキちゃん、そういうとこは冷たいよなぁ、相変わらず。とブツブツ言いながら黒崎も付いてきた。

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