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This is the moment ⑬

「凄ぇ、美味かったな」  黒崎が連れていってくれた焼き肉屋は、夜景が綺麗な小洒落(こじゃれ)た店だった。味も絶品で酒も美味かった(黒崎はウーロン茶)。ただ、周りは男女のカップルばかりで、自分たちはかなり浮いていた。が、そんなことをいちいち気にしていては楽しめるものも楽しめない。もちろん周りに配慮は必要だが、段々と日本もLGBTに対して理解が増えてきたことだし、ゲイカップルが堂々とデートできる日もそう遠くないかもしれない。 「これからどうする?」  ショッピングモールの駐車場に停めておいた車に乗り込むと、黒崎が聞いてきた。 「そうだなぁ。うち帰ってのんびりするか? 車だと黒崎、呑めないだろ?」 「別にそれはいいけど、うち帰るの嫌だ」 「なんで?」 「久間くんと酉井くんとジュンがアキちゃんにつきまとってきて、ゆっくりイチャイチャできないから」 「お前、そんなあいつらを犬みたいに……」 「犬じゃん。大型犬と、どう猛犬と、小型犬」 「はあ……」 「だから。今夜はどっか泊まろ」 「だけど、なーんにも泊まる準備してないぞ」 「一晩くらいなんとかなるって。 必要なもの、コンビニとかで買ってから行けばいいじゃん。明日は家に帰ったらいいし」 「……分かった、そうするか。だけど、高級ホテルとかは止めよう。お金使わせたくないし」 「そんなの別にいいのに」 「俺が嫌なの。払うって言っても絶対受けとらないし」 「じゃあ……ラブホ?」 「ん、それでいいよ」  そうして、コンビニで必要そうなものを購入し、少し車を走らせて都内にあるラブホテルの1つへ入った。そこは最近改装されたばかりらしく、ラブホテルとは思えない広さとモダンな造りになっていた。その代わり少し値が張ったが、高級ホテルに泊まるよりは断然安かった。  とりあえず酒を注文してのんびりとテレビを見て過ごした。ソファに並んで座って、同じものを見て、同じことで笑う。楽しい時間だった。こんな何気ない2人の空間がこれからずっと続けばいいなと思いながら。

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