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This is the moment ㉜

「アッキー! 意識が戻ったの??」  後ろから声をかけられて、そちらへと顔を向ける。有栖が嬉しそうな笑顔でこちらを見ていた。 「良かった……」 「ジュン……」 「心配したんよ」 「……ごめん」  ふと、有栖の後ろに人影が見えた。中年の外国人男女が立っていた。その視線に気づき、有栖が2人を紹介した。 「アッキー、こちらガッちゃんのご両親。今、2人を連れてランチ食べてきたところ」 「黒崎の……」  黒崎の養父母は、有栖から晃良を紹介されると、ああ、とこちらに笑顔を向けた。母親の方が英語で話しかけてくる。 「あなたが、アキ、ね?」 「……はい」 「まあ、やっと会えたわ。ヒョウガの大好きな『アキちゃん』」 「昔からよく君のことは話してくれたんだよ。大事な人だって」  父親も口を開いた。ニコリと笑う。晃良の中に申し訳ないと思う気持ちが膨らんでいく。思わず、床に土下座して頭を下げた。 「本当に……本当にすみませんっ。大事な……息子さんなのに……俺のせいで……」 「まあ、ちょっと、そんなことよして」  母親が驚いたように晃良の両肩を持って、顔を上げさせた。 「あなたのせいじゃないわ。ヒョウガが自分で選んで、自分で行動したことなのよ。だから、あの子の責任なのよ」 「だけど……」 「……ヒョウガはね、今までの人生、あなたのために生きてきたようなものなの」 「…………」 「あなたのために、あなたを守るために、必死で勉強して医者になって、記憶障害の研究をするために科学者になって、軍隊にまで入っちゃって。どれだけ本気なのか分かってたから。私たちも止めなかったわ。好き勝手やりなさいって背中を押したの」  ね。と同意を求めるように母親が父親へ笑いかけた。父親が頷く。 「その代わり。そこまで覚悟があるんだったら、中途半端はするなとは言ったけどね。全て極めて、『アキ』を最後まで守ってやれって」 「だから。こうしてちゃんとあなたを守り切ったことに、私たちはヒョウガを誇りに思ってるわ」 「……だけど……嫌なんです」 「え?」 「俺が、嫌なんです。俺のために、黒崎が犠牲になるのが」 「…………」  母親は同情するような表情を見せて、晃良を優しく抱き締めた。 「そうよね……。あなたにとっては、辛いわよね」  これが、母親の温もりというものなんだろうか。自分の母親ではないけれど。動揺していた気持ちがゆっくりと落ち着いていく感じがした。晃良が始めて味わう感覚だった。黒崎の母親はゆっくりと腕を緩めて晃良に微笑みかけた。 「大丈夫。ヒョウガはこんなことでくたばりゃしないから。きっと何もなかったみたいに目を覚ますわ」 「…………」 「だから。傍にいてあげてくれる? 私たちもずっといられたらいいんだけど……。今回の件で後処理に追われていて、一旦アメリカに戻らなきゃいけないの」  だから。お願い、ね?  ああ。なんて強い人なんだろうと思う。血の繋がりはないにしても。大切に育ててきた一人息子がこんな状態にある時に、他人を気使って笑顔でいられるなんて。黒崎の根底からくる意志の強さは、きっとこの両親から培われたものなのだろうと思う。 「はい……」  1人だけうじうじしてはいられない。自分はどんなことがあっても黒崎から離れないと決めたのだから。どんな状況も受け入れる。もし。黒崎の目が覚めて、黒崎が晃良のことを忘れてしまっていても。黒崎がしてくれたように。今度は、自分が黒崎を信じて、黒崎を守るのだ。  尚人たちの優しい視線を感じながら晃良は心の中で強く決意した。

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