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This is the moment ㊷
数ヶ月ぶりのボルティモア・ワシントン空港は、観光シーズンとぶつかったせいか混み合っていた。飛行機は定刻通り着いたものの、入国審査でかなり待たされ、晃良が荷物を受け取って到着出口へと向かう頃には、随分と時間が経ってしまっていた。
焦る気持ちを抑えつつ、早歩きで出口へと向かう。黒崎には到着する日付は伝えてあったが、フライトの詳細はわざと言わずにおいた。相変わらず忙しい身の上の黒崎に迎えに来てもらうことは忍びなかったからだ。自分で黒崎のアパートまで行くからと話してあった。
混んでいるのでタクシー乗り場でもかなり待つかもしれない。やっと黒崎に会えるのに。黒崎のいるここまでやってきたのに。こんなところで時間を取られるのがなんとなく悔しかった。しょうがないことだけれど。
晃良と同じようにせわしなく歩く他の乗客と一緒に到着口を通った。そこは、出迎えの人たちで更に混雑していた。が。そんな中、真っ先に視界に飛び込んできた人影に晃良はぴたりと足を止めた。
「……いいって言ったのに」
晃良より少し背の高いすらっとしたシルエット。細身のジーンズにチェックのシャツ。その上に黒のライダーズジャケットを羽織っている。いつもの眼鏡に今日は黒のハットも被っていた。晃良が出口から出てきてその存在を認めたと同時に目が合った。
「…………」
数メートル先に立っている恋人としばらく無言で見つめ合う。
黒崎がそっと微笑んだ。いつものあの笑顔で。静かだけれど鋭い、情熱的だけれど優しい、晃良が世界で一番好きな笑顔。
やっと会えたな。
ゆっくりと笑顔に変わる自分を自覚しながら、これから濃い時間を一緒に過ごすであろう愛しい恋人の元へと、逸る気持ちと共に歩き出した。
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