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第26話 人魚伝説って!
本格的な冬も近付いてきて、王都での社交シーズンが始まった。
お屋敷はいつもの年よりバタバタと忙しそうだ。
「可愛いリオン、1ヶ月後に社交界デビューだね。おめでとう。皆も張り切って可愛いリオンを最高の形でデビューさせよう。」
お父様の話を聞いた屋敷中のみんなの目が、いっそうギラギラしてきて怖い感じがする…。ふぅ。
そういえば先日お母様とお兄様とのお茶会でドキドキする話を聞いたんだけど。
今王都で人魚伝説ってのが大流行りなんだって。
お母様は興奮して少女の様に目をキラキラさせてお兄様の話を聞いてたけれど、僕は反対にどんどん顔色が悪くなっていくのがわかった。
「ふふ、可愛いリオン。どうしたんだい?怖くなっちゃったのかい?
人魚は本来は魔物の部類なんだろうけど、今回キリウム殿下が会った人魚はとっても魅力的だったようだよ。」
お兄様は僕を蕩けるような優しい眼差しで見つめると頭を引き寄せてチュっと口づけた。
最近のお兄様は僕への甘々ぶりが加速気味だけど、今の僕はそれを堪能する余裕がないほどに動揺してた。
だって!人魚伝説って!聞けば聞くほど僕のことじゃないかーい!
ラグーンで泳ぎを堪能してた時に、僕を人魚だと指差して騒いでた浜辺の人間どもをからかって楽しんだのって、うん。僕だ。
あの人間どもって殿下達だったの?
ああ、からかっていたのがもしバレたら、僕不敬罪で捕まっちゃうんじゃないのかな?
「目撃した殿下曰く天使のようだったらしいけれど、僕たちの天使には負けるだろうね。ね、リオン。」
僕が冷や汗をかきながら頭の中でぐるぐるしていたら、お兄様がさらに追い討ちをかけてきた…。
今更、あ、それ僕ですけどなんて言えないっ。
話が大きくなりすぎてるもの!
「んっ…。…ふぁ…。ぁ…」
僕は腰の辺りがビクつくのが止められなくて、思わずお兄様の胸元にしがみついた。
お兄様の手が僕の腰骨の下を撫でおろしそのままお尻を柔らかく掴むもんだから、僕はますますゾクゾクして震えてしまう。
僕の狭い口の中を、優しく舌で撫で回しながらお兄様はかすかに微笑んだ気がした。
お兄様が僕の舌を甘噛みしたり、上顎の奥を何度も擦るとますます僕は身体が熱くなってしまって、声も我慢出来なくなる。
ボーッとしながら僕から離れていく艶めかしいお兄様の赤い舌をうっとりと目で追うと、お兄様はグッと息を呑んで僕の肩に顔をうずめた。
「はぁ、まだリオンが足りないけど今は時間切れだ…。」
階段の踊り場で僕を柔らかく抱きしめながら、お兄様はゆっくり深呼吸してる。
お兄様の爽やかで甘い呼気で僕は酔ってしまったようにますますボーッとしてしまう。
領地から帰ってきてからお屋敷でゆっくり出来ないお兄様は、踊り場に僕をいざなっては甘い口づけをしてくれる。
いつからこんなに甘い口づけに変わったかは覚えてないけれど、僕はこの口づけが大好きなんだ。
僕の顔にチュッチュと口づけの嵐を振り巻いてから学院に戻るお兄様を見送ってから、お部屋へ戻った。
いつものように従者セブに寝支度を手伝ってもらいながら、僕はなにげない風を装って聞いてみた。
「ねぇ、セブはさっきの人魚の話どう思った?」
セブは手を止めてちょっと考え込むと、セブが何て言うのかと息を殺してる僕を優しく見ながら言った。
「ふふ、リオン様も人魚伝説が気に入ったようですね。
たしかに人魚が目撃されたのは500年前以来で、ましてや目撃したのがキリウム殿下ですからね。
王都で伝説になるのも当然でしょう。
先ほどリュード様のお話をお聞きしていて、ふと思い浮かんだのはリオン様のことでしたけれど…。
目撃された場所もちょっとズレてるようですし、髪の色もオーロラ色で違いますし。
私達は殿下方をラグーンでお見かけしてませんしね。
1番はリオン様にはお魚の半身が有りませんしね?ふふ。」
うん。セブは入り江のスポットに居たから殿下達が見えなかったんだよね。
セブを誤魔化せるなら、ギリギリばれないかな?
僕は急に色々大丈夫な気がしてきて、安堵のため息をついたのだった。
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