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第58話 人魚の僕、人間になる
「…リオン君、もう大丈夫?そろそろ戻れそう?」
リッチー先輩に抱えられて微睡んでいた僕はハッとすると、慌てて立ち上がった。
「…先輩ありがとうございました。僕、結構人魚の事秘密にしてたのがきてたみたいで…。
何だかスッキリしました。」
僕はホントにいい笑顔だったと思う。自分一人で秘密を抱えるってほんと大変なんだなぁ。
リッチー先輩は僕を眩しそうに見た。
「リオン君、私も嬉しいよ。僕が君の心を助けることが出来て。」
僕たちが皆の居る野営地に戻ると、キースが大きな声で言った。
「リッチー先輩、リオン!おーい、人魚!13班はこっちだよ。」
キースがあからさまに僕を人魚呼ばわりしたおかげか、クラスメイトや先輩達はチラホラ見たけど特に何かを言ってくることはなかった。
「キース、ありがと。」
キースの隣で作業を手伝いながら、僕はこっそりと囁いた。
「ひとつ貸しだな。…あと、ユアにはお前から話しておけよ。心配してたから。」
「…わかった。」
野営地で班ごとにキャンプを張って、携帯食を食べて、自由時間のち睡眠。
僕はスケジュールを確認すると食事後、9班へ行きユアを呼び出した。
「昼間、心配してくれたってキースから聞いた。ごめんね。
僕、自分が人魚に間違えられてたっていきなりバレて、秘密にしてたからパニックになっちゃって。
どうしても落ち着く時間が必要だったんだ。」
ユアはいつもと違って僕から少し離れて立っていた。
「…直ぐ追いかけたんだけど、見つからなくって。探してたら先生にリッチー先輩が見てるからって言われて…。
リオンが困ってる時に側に居たかった。…僕が側に居なきゃダメだったんだ。
でも1番辛いのは…リオンにも理由があるんだろうけど、僕に相談してくれなかった事だよ…。」
僕はユアの強張った顔を見つめた。ユアの辛そうな顔を見て胸が締め付けられた。
「僕が、自分の事ばかりで、1人で全部抱え込んで…。結局爆発しちゃって。
ユアがいつも僕の事1番に考えてくれてたの知ってたのに。なんかごめん。
僕、ユアに甘えすぎてるね。」
ユアはパッと俯いてた顔を上げると、僕を怖いくらい真っ直ぐに見て言った。
「謝ってなんか欲しくない!リオンより僕の方が好きなのはしょうがない!
リオンの心はリオンのものだからっ。
でも側に居るのはリッチー先輩じゃなくて僕であるべきだ!」
ユアは僕に手を伸ばして抱きしめたかと思うと、乱暴に口づけた。
僕はユアの苦しい気持ちを只々受け止めたんだ。
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