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第40話「その夜の出来事」
月曜日だと言うのに疲れ切った夜になってしまった。
(明日遅刻しそう)
鷹夜は深くため息をついてから、片付けが済んだベッドに潜り直して目を閉じ、寝の体勢に入った。
それにしても初めて本格的な後ろの穴での自慰行為に及んでしまったな、と考える。
そうするとまだ胸がざわつくが、これで少しずつでも芽依とのセックスに近づいて行けるなら、やっておくに越した事はない。
結局、午前2時半近くになってやっと意識が遠のき、フッと眠りに落ちた。
その後、30分も経っていないと思う。
玄関の方から物音が聞こえて、ビクンッと身体を強張らせながら鷹夜は目覚めたのだった。
(え、、え?)
ガタガタ ガチャ ガチャ
(え???)
鍵を開けようとしている音だ。
「ぇ、、、?」
明らかに何者かがドアを開けようとしている。
しかも強引に、無理矢理に。
その異常な雰囲気に圧倒されて、鷹夜は心細くなっていた。
もしも知人でも友人でもなく、本物の異常者だったらどうしようか、と。
「ぃやいやいや無理〜」
こう言うとき、声を出したくなるのは何故だろうか。
できたら誰かにこの音を一緒に聞いていて欲しいし、更に言うなら返事が欲しい。
何なら、「何か音するよな」とか、ちょっと冗談っぽく言って欲しい。
(こわ、、どうしよ、、え、芽依〜、こういうときいてくれよぉ、って、あれ?)
布団の奥へ潜ろうとしていた鷹夜だが、ニュッと出てきて逆に起き上がる。
(あれ?もしかして、芽依?)
こんな時間に来るのだから、そうであって欲しい。
そうであって欲しいが、携帯電話の画面を見ても彼からの連絡はなかった。
まだ飲んでいるのか、それとも酔っ払って家に帰って連絡を忘れているか、どちらかだ。
玄関の方からの物音は止まない。
相変わらずガチャガチャ、ガタガタと、廊下と部屋を仕切るドアの向こうから鍵をこじ開けようと言う音が響いてくる。
(芽依じゃないとなるとかなりヤバい人だ。と言うか、鍵こじ開けようとしてねーか?無理、むりむり、怖すぎる。いや、もう、開けさせてたまるか!)
ガバッと布団を身体から剥がしてベッドから降りると、ダッシュで廊下へと向かって行く。
こじ開けられる前にドアの前に着いて、ドアスコープから向こうを見て、知り合いでないなら相手の顔を携帯電話で写真に撮って、通報。
鷹夜はきちんと相手を訴えるところまで考えてから急いで玄関の前に辿り着いた。
(1発までは正当防衛と言いますし。とりあえず、ドア破られたら、殴る)
ゴクンッ、と唾を飲み込んで、明らかにガチャガチャと揺すられているドアへと近づき、ノブに手を伸ばす。
鍵を回されたらすぐに戻せるよう、内鍵を摘みつつ、ドアスコープの被せをめくった。
(ヤバいおっさんだったらどうしよ、、、お?)
狭く丸い穴を覗く。
直径1センチ程しかないその穴の向こうには玄関前の狭い通路が見えていて、そしてそこに、芽依が首を捻って立っていた。
「芽依?」
小声だったせいか、ドアの向こうには鷹夜の声が聞こえていない。
ギリギリ顔が見える高さにある芽依の表情は曇っている。
何かあったのか、と同時に、何で鍵を使わないんだ?と疑問になりつつ、思わずガチャン、と内鍵を回した。
「ぁ、?」
ガチャ
「、、、芽依?」
ドアを開けると、ポカンとしたような顔になった芽依が立っていた。
「どした?鍵は?なんで来たの、なんか忘れもん?」
「、、、」
「芽依?」
ポカンとしたままで、芽依は鷹夜を見つめて硬直していた。
寒くなってきたからか、芽依の家のクローゼットで見た事のある薄手のシャツをTシャツの上から羽織って着ている。
秋服の芽依がこの頃増えて来たな、と季節の移り変わりを感じつつ、彼の手に鍵がない事を確認する鷹夜。
もう一度顔を見上げる。
頬は赤くはないが、酔っているのだろうか。
「た、」
「ん?」
「鷹夜、くん」
震えた声が聞こえて、正直驚いた。
見上げた先の芽依の視線が、自分を見ているのかどうかもよく分からないように思えた。
ただ何か、物凄く、激しく、欲している目ではあった。
「、、、、、芽依?」
名前を呼んだ後、どうしてその体勢に雪崩れ込んだのか詳細は覚えていない。
少し、ドアを開けなければ良かったな、と思ったのは記憶にある。
「芽依ッ!?」
初めに感じたのは肩。
強い力で掴まれ、痛くて鷹夜の表情が歪んだ程だった。
その痛みが続き、次に尻と腰、後は脚だ。
玄関の中に押し戻されて、そのまま廊下に押し倒されたのだと気がつくまでは時間がかかった。
叫んで再び芽依を見上げると、鼻先が触れ合いそうな距離に芽依がいる。
乗っかられた重さで下半身が苦しく、両腕は床に押さえつけられ、縫われたように動かせなくなっていた。
「何してんの、どうしたの」
様子がおかしい。
あの震える声も、今目の前にある強張った表情も、彼らしくないものばかりだ。
「鷹夜くん、、鷹夜く、た、、鷹夜、くん」
怖いだとか恐ろしいだとか言う思いはない。
ただ、鷹夜は芽依の様子が変だな、と感じている。
それはその通りで、彼はやたらと悲しそうに切なそうに鷹夜の名前を呼びながら、ベタベタと身体に触れてくるのだ。
大きな手で、まるで鷹夜がそこに存在しているか必死に確かめているように。
「、、芽依、なに。どうしたの。言葉にしてよ、分かんないよ」
仕方なさそうにされるがままになった。
鷹夜自身、彼に触れられる事は嫌いではないからだ。
「鷹夜くん、、」
「うん。どうした」
相変わらず、こうなってしまうと鷹夜は芽依よりも幾分も大人で、芽依は鷹夜の背中を追えるのかと言う程にまだ子供のままだった。
それは、芽依自身にもよく分かったのだろう。
「ッ、!!」
「芽依?」
「出して」
「は?、え?え?!何してんの、ちょッ!」
一瞬だけ悔しそうな顔をした次の瞬間、芽依は鷹夜に馬乗りになったまま、彼の履いているスウェットのズボンを下着ごと引き下げた。
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