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Trac04 Bring Me To Live/エヴァネッセンス②
カホとアリサがしっかりパフェまで食っていったけど、ユウジから飯代貰ったっつって店長は奢ってくれた。
アリサはカホにすっかりヤられたみたいで、
「アリサちゃんバイバイ」
てニコニコしながら手を振られて悶えてた。
店長に礼を言って、カホと手を繋いで家に向かう。
帰ってからは風呂に着替えに歯磨きにと怒涛の時間だ。一通り1人でできるようになったものの、目を離すとすぐ遊び始めやがる。
布団の中に入る頃にはクタクタになってた。
まだ帰って来ねえのかよユウジのヤツ。てかカホはなんでこんな元気なんだよ。誰々ちゃんがどうだったとか保育園で何したとかずーっと喋ってやがる。
「うっせえ、いいから寝ろ」
「わかった!」
それでね、とまたお喋りが始まった。付き合っていられなくて、スマホを手に取るとダメ!と画面を伏せてくる。イラッとしたけど我慢して、無心になって相槌を打ちつつ聞き流していた。
ふと目を覚ますと、カホは隣で寝ていた。俺も一緒に寝ていたらしい。やれやれとスマホで時間を確認すればもう日付を超えている。リビングから音がした。
ユウジだ。
目が覚めて、リビングに向かう。明るさが目に染みて瞬きしながら見渡せば、ユウジが電子レンジからなんか取り出しているところだった。ジャージに着替えているから風呂に入ったらしい。
「おかえり」
「おう、悪かったな。先輩、何だって?」
店長はユウジの大学の先輩で、バンドのメンバーだった。
「社員やんねえかって」
ユウジはやたら嬉しそうによかったじゃんって言ったけど、断ったっつったらすげえビックリしてた。
「なんでだよ、お前みたいなヤツにそこまで言ってくれるとこなんて早々ねえだろ」
「・・・カホはどうすんだよ」
ユウジはハッとして、悪かったな、と気まずそうに目を逸らした。
「でもさ、もう、気にしなくていいから」
ユウジは眉を下げて、少し寂しそうな顔をする。なんだか、胸が騒ついた。それから
ーーー転勤するから
って言葉が、やけに遠くで聞こえた気がした。
「は?マジで?」
「そうだよ。カホと俺が家出るから、後は好きに使えばいい。あ、変な男連れ込むなよ」
何ヘラヘラ笑ってんだよ。
家を出るって?好きにしろって?今まで誰のためにーーー
ユウジは箸や茶碗を机に並べながら、引き継ぎとかでバタバタしているだの、それでしばらく帰りが遅くなるだの言ってたけど、ほとんど頭に入ってこなかった。
なんか頭の中に色んな考えがいっぺんに浮かんで、ぐちゃぐちゃになって、ついポロっと
「俺を置いてくの?」
って情けねえことを言ってた。ユウジは目を丸くする。
「置いてくって、お前俺たちに付いてくるつもりだったのか?」
溜息が出た。やっぱり俺は部外者なんだな。ユウジにとって、本当に大事なモンはカホと姉ちゃんだけなんだ。昔から。分っちゃいたけど、本人から示されるとな。
ユウジはまだ何か言おうとしてたけど、もう寝るって寝室に戻った。
カホが布団のど真ん中でなんにも知らない顔で寝息をたてていた。蹴り飛ばしてやろうかとも思ったけど、そっと身体を浮かせて退かして布団を掛けてやった。こんなこともあと少しか。
そう思ったらなんだか名残惜しくなって、ユウジが帰ってくる前のように隣で寝てやった。
次の日、店に行くとロッカー室に行く途中で店長と鉢合わせた。蛍光灯が灰色の廊下に大きな陰を作る。店長は巨躯のてっぺんから何か言いたげに俺に目線を送ってきた。
たぶん返事待ちなんだろうけど、まだもやもやしていて、考えがまとまなくて、挨拶だけしてスルーした。でも、すれ違い様に
「ユウジ、引っ越すんだってな」
って言葉に引き止められた。
「忙しそうだな、カホちゃんまた預かって欲しいってさ」
「そ」
じゃあ今日はピアノはお預けだな。ユウジもギターを弾く暇がなさそうだ。最後にユウジと|演っ《やっ》たのいつだっけ。
あのなあ、と店長はスキンヘッドをなでつける。
「ユウジ離れしろよ、いい加減」
「なんだそれ」
「ユウジだって、お前のこと何だかんだ考えてんだよ。付き合いが長えからな。俺達にとっちゃ、弟みたいなもんだ」
「それじゃ嫌だ」
「付き合うっつっても義理の兄貴と弟だろ?」
「付き合う気はない。ノンケだし。無理だろ普通に考えて」
分かってんだよ、そんなこと。
でもユウジと離れて暮らしたら、疎遠になるのが目に見えている。カホがいなけりゃ俺とユウジは赤の他人だ。だから、せめて好きにやらせろ。
じっと睨んでやったら、店長はため息だけ残して店頭に出て行った。
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