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Trac04 Bring Me To Live/エヴァネッセンス④
いや、ソレ はねえだろ。ユウジはノンケだし。ユウジはやめとけって言ったのは店長だし。
もしかして、告ってもいねえのに引導を渡されるのか?
ヤバイ、心臓が痛いほどバクバクしてきた。
「家を出るっつったけど、お前を利用するだけして放り出すとか、そんなんじゃねえからな」
全然予想していなかったセリフが飛び出して、頭に入って来なかった。頭ん中で何度か反芻するけど、飲み込めない内にユウジは次の言葉を放つ。
「・・・お前さ、ユカリが死んで、役立たずになった俺と赤ん坊だったカホの面倒みてるうちに、結局進学も就職もしないでここまで来ちまっただろ」
言っているうちに、ユウジの頭は段々下がってきて、表情が見えなくなった。
「今だって、俺達のこと優先してんだろ?
・・・俺、お前の人生歪めちまったんじゃねえかって、お前に悪い事したなって思ってきたんだよ」
ユウジの声は少し震えていた。
すげえビックリした。そんなの考えたこともなかったし、ユウジはどこかで俺のこと疎ましく思ってんじゃねえかって思ってたから。
ユウジはチラッと俺の顔を伺う。俺はただ次の言葉を待っているだけだった。
「俺達がいなけりゃ、もっと自由にやれたのにな。大学行ったり好きな仕事したりさ。悪かった」
ユウジが、俺の目の前で頭を下げてんのが、信じられなかった。
「勉強したいことがあるんなら少しは援助してやれるし、音楽やりたいっていうんならバンドやってた時のツテを紹介する。
これからは、お前がやりたいことやって欲しいんだ」
なんかそれだけで胸が熱くなった。ユウジが俺のこと考えてくれてたんだって思うだけですげえ嬉しかった。
だけど、俺がユウジから欲しい言葉は、それじゃない。
「ハジメ、」
ユウジは、顔を上げて、俺の顔を真っ直ぐ見つめる。俺が何を考えてんのか探っているように見える。
昔っから散々、何考えてんのか分かんねえって言われてきたしな。
「俺は、やりたい事なんてない」
ユウジの目に疑問符が浮かぶ。
「音楽だってアンタを捕まえておく為だけにやってきた。ピアノなんて、弾けなくていい」
ユウジが息を飲むのが分かった。
「俺は、ユウジだけが居ればーーー」
「ちょっと待ってくれ。お前、何言ってんだ?」
ーーー「ユウジが欲しい」
気がついたら、ユウジの手首を掴んで引き寄せていた。それは、言葉の綾だとか冗談だとか、もうそんなんじゃ取り返しがつかないことを意味していた。
もの凄い後悔が襲ってきた。すでに、ユウジの目に嫌悪や軽蔑が滲み出してきている。
「結局は、それか・・・?」
ユウジは、勢いよく手を振り払う。
「お前にとって、俺はそういう対象でしか無かったってことか?」
咄嗟に違うって言えなかった。でも、アプリで会うヤツらみたいに、セックスだけできればいいとかそんなんじゃない。それを上手く言葉に出来ない内に
「正直ショックだよ、一緒に頑張ってきたと思ってたのにな」
ユウジはギターを持って、寝室に引っ込んでいった。
違う、そうじゃないって叫びたいのに、やっぱり駄目だった、言っても無駄だっていう諦めが足を引っ張る。
なんかすげえ悔しくて、「クソッ」と悪態を吐いた。俯いた目線の先に、規則正しくならんだ白鍵と黒鍵があった。力任せにぶっ叩いて壊したくなって、拳を振り上げたけどすぐ力が入らなくなって、腕がだらんと垂れ下がる。ユウジがくれたやつだし、こういう時に俺が縋るのは、やっぱり音楽しかなかった。
鍵盤を見つめながら、曲は何にしようか考える。
散々迷ったけど、今はこれしか思いつかなかった。
エルビス・プレスリーの"Can't Help Falling Love ".鍵盤に指を置いて、ゆったりとしたメロディを音と一緒に記憶から引き出していく。
ーーーーYou don't have
to say love me
Just be close at hand
You don't have to stay forever
I will understand
Believe me, believe me ・・・
久しぶりにユウジと演 りたかったんだけどな。ユウジのギターの音も聞きたかった。カホや姉ちゃんに話しかけるような、優しくて温かい音なんだ。
もう寝てるか?まあいいか。カホも寝てるし。
弾き終わったら落ち着いたけど、身体の中が空っぽになったみたいに虚しかった。
別の曲も弾いてみる。知らず知らずのうちに、ユウジの好きなQueenを弾いてたのに笑える。
電子ピアノの電源を切って、スマホを開いた。
アプリのアイコンをタップする。
ものの見事にフられて、音楽でも満たされなくて、その次に俺がヤることと言ったら、もう決まってんだろ?
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