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第14話村長の想い
「えっ…」
追い出されるのは覚悟だったから思わず気の抜けた声を出してしまった。アリンも隣で驚いた顔をしている。
「2人ともそんな顔をしないでくれよ。私が自分のこともわからない人間を追い出すと思ったのかい?」
ニコニコと優しく微笑む村長はアリンの言うように『優しいおじちゃん』そのもので、俺は頭を下げ素直に村長の言葉を受け取った。
「ありがとうございます。恩にきます。」
「頭を上げてくれ。まぁ君を受け入れるにしてもここには人間を怖がっている猫獣人がいるのも確かだからね。いくつか条件は出させてもらうよ。」
俺は今朝のレイの威嚇した姿を思い出し、まぁそれは当たり前だなと納得した。
「わかっています。受け入れてくれただけでも感謝しています」
「わかってくれてよかった。では条件なんだが…」
村長の告げた条件は3つあった。まず1、ここにいる間は働くこと。2、猫獣人を怖がらせるような行動はしないこと。3、アリンの家で暮らすこと。これを必ず守りなさい、と念を押された。
どうやら村長はレイから話を聞いたあと、働き先を予め目星をつけておいてくれたらしく、「明日はここに行ってね」と地図まで渡してくれた。アリンは「僕の家ですか!?」と慌てふためいていたが「君たち会って一日なのにとても仲が良さそうだからね、よろしく頼むよ」と言われてからは無言になっていた。
そして村長は「最後に」と先程までのニコニコと打って変わって真剣な表情で話し出した。
「私はね、これは神様が与えてくれたチャンスなんだと思うんだ。…長い間猫獣人は、人間から迫害を受けていた事は知っているかな?数ある獣人の中でも猫獣人はとりわけ差別をされていた。さすがにもう、表面的な差別はないが未だに人間の住む町には行けないと思っている猫獣人も多いんだよ。行ってはいけないなんて決まりはないのにね。……でも私たちだって夢や希望を持っていろんな場所に踏み出してみたいと思ってる。だからフェアン、君の存在で何かが変わると思うんだ。……それとアリン、フェアンを連れてきてくれてありがとう。」
村長はそう言うと席を立ち、これからよろしく頼むと片手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
そう言いながら差し出された手をぎゅっと握った。
ーーー
「さぁさぁもう帰りなさい、レイが待ちくたびれてるよ。」
帰るよう促され玄関に向かう途中、村長は俺だけをちょっとちょっと、と呼んだ。
「君はアリンのご両親の事は知っているのかい?」
「…5年前に事故で亡くなったとしか…」
それを聞いて村長は困ったように視線を逸らした。
「そうなんだね。これから一緒に暮らして行くうちに聞く事になるかも知れないね。まぁそうなった時…どんな話だったとしても受け入れてあげなさい。」
外からレイがギャーギャー叫んでるのが聞こえる。おそらく自分がアリンの家に暫く住む事に腹を立てているんだろう。
「さぁアリンとレイが待ってるよ。」
そう言って曖昧な笑みを浮かべ村長は俺の肩をポンと押した。
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