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第67話さようなら

アリンは結婚を決めた時家をどうしようかと悩んでいたがそれは迎えに来てくれたフェアンの一言で解決された。 「大切な思い出がある家なんだ、残しておこう。時々帰ればいい。」 ただどうしてもベッドは持っていきたいというフェアンの希望でベッドだけは王宮での二人の部屋に置かれることになった。 「いいの……?ベッド小さいとフェアンが辛くない?」 「小さいからいいんだ、引っ付いて眠ることが出来るだろう?」 フェアンはフッと笑うとアリンの肩を引き寄せた。 その逞しいフェアンの肩に寄り添ったままアリンは物が少なくなった部屋を見渡した。 ――ここにあるのはソファとテーブルとチェストだけかぁ。……ここには思い出がいっぱいだ。 両親と過ごした思い出、両親がいなくなって一人歯を食いしばりながら頑張って過ごした思い出、そしてフェアンと出会い過ごした思い出……。どれも忘れられないかけがえのない思い出だった。 アリンはフェアンにもう行こうと声をかけるとコートと鞄を持ち足早に玄関まで歩いた。 玄関に着くと一回振り向き部屋全体を忘れないようにと眺めながら声を出した。 「今まで素敵な思い出をありがとう!」 ――― 家の外には既に王宮から来た馬車や荷馬車がたくさんいていつでも出発できる状態だった。 「アリン様、お荷物はこれで最後ですか?」 「さ、様!?……あ、はい、荷物はもう大丈夫です……。」 従者にアリン様と言われ萎縮するアリンだったが、今日からはこういう生活に慣れていかないといけないと思うと緊張で体が強張っていた。その様子を見たフェアンはおもむろに馬車へと向かいあるものを手に取るとアリンの前で片膝をついた。 「フェ、フェアン……?どうしたの?」 フェアンは背中に隠し持っていた花束をアリンに向かって差し出した。そこには赤やピンク、紫のチューリップが溢れんばかりに目の前で咲き誇っていた。 「これ、え……?こんなにたくさん……僕に?」 「アリン、このチューリップの花束は99本あるんだ。これには『永遠の愛』という意味がある。これから君は初めての場所で新しい暮らしに戸惑うこともあるだろう。でも私はアリンを永遠に愛し続けるし必ず守る。俺を信じてついてきてくれ。」 アリンは突然の愛の告白に顔を真っ赤にしながらもそっと花束を受け取った。 「こちらこそ、よろしくお願いします……。」 王宮の護衛や従者は二人の空気を邪魔しないようそっと身を隠していたが、それは突然の大声で無駄になってしまった。 「あー!フェアン!私に挨拶なしで帰るつもりかい!?」 そこにはリンダさんをはじめ村長やロバートさん夫婦、校長先生、そしてレイとレイの家族が見送りに来てくれていた。 「リンダさん!それにみなさんも。今日はありがとうございます。アリンを必ず幸せにします。」 フェアンとアリンはそれぞれお世話になった大切な人たちとお別れの挨拶をしていたが、楽しい時間はあっという間に終わりが来てしまった。 「陛下、アリン様、そろそろ馬車に……。」 「みんな、来週の結婚式で待ってるから!」 馬車に乗り込む直前アリンがそう叫ぶと、突然レイがアリンの腕を掴んだ。 「アリン!お前絶対幸せになれよ!これ以上ないってくらい幸せになれ!約束だからな!」 あまり泣いた姿を見たことのないレイの瞳は涙で潤んでいてそれを見たアリンもつられて涙で瞳が潤んだ。 「うんっ……!約束する……。」 アリンは手の甲で涙をぬぐうとニッと笑い馬車へ乗り込んだ。 ――もう僕は大丈夫。ノスティアのみんな、ありがとう! 馬車の中でフェアンの手をぎゅっと握ったアリンの顔はもう泣いてなどはいなかった。

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