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6 レンタルオナホ

 威勢のいいことを言っていたが、和泉は今後一切俺に逆らえない。歯向かったら最後、どうなるかわかっているはずだ。そしてこの日々には終わりが見えない。いつか太陽の元へ戻れると信じて足を踏み入れたトンネルがまさか地下深くへと繋がっていたなんて、和泉は思いもしなかっただろう。俺だってそうだ。けれど一旦転がり始めたら止まれない。    今日もまた、朝早くからホテルに入り、干からびるまでヤリまくった。昼前にはお互い疲れ果て、和泉はベッドにぐったりと突っ伏している。   「おい……まだ、やるのか……?」    和泉が掠れた声で言う。俺はソファに深く座って、タバコに火をつけた。疲れた体にニコチンが染み渡る。和泉は、信じられないという目で俺を見た。   「……タバコなんか吸うのかよ。優等生のふりして……」 「親父のを二三本拝借してるだけだ。どうせお前だって吸うんだろ」 「おれは吸わねぇよ……背が伸びなくなるんだぜ。癌になるし……」 「いい子ぶるなよ。仁くんに嫌われたくねぇからってよ」 「そんなんじゃねぇって……」    嫌がる和泉の口に、タバコを無理やり差し込んだ。煙を肺にまで吸い込んだのか、一気に顔色を悪くして激しく咽る。   「何だ、マジで吸ったことねぇのか。初心だなァ」 「うるせぇ……こんなの、吸う方がおかしいんだ……っ」    和泉は涙目を擦る。突き返されたタバコを、俺は大事に吹かす。その時、チャイムが鳴った。和泉は怪訝な顔をするが、俺はすぐに立ち上がる。   「お前はそこで大人しくしてろよ」    ドアの外で待っていたのは、いかにも平凡そうな成人男性が二人。平日朝の電車に乗ればいくらでも会えるような見た目、背格好をしている。俺を見るなり、二人は顔を見合わせた。   「なんか、写真で見たのと違うけど」 「てかタバコって。高校生だよね?」 「お互い様でしょ。あと、アンタらの相手すんのは俺じゃなくてあっち。ベッドで待ってんぜ。早く行ってあげなよ」    二人はいそいそと部屋に入り、全裸で横になる和泉を見て感嘆の声を上げた。和泉はいまだ怪訝な表情をしたまま、俺と男達とを交互に見つめる。   「いやぁ、こりゃとんでもない上玉だな」 「高校生なんだよね? あ、でも処女じゃないのかぁ、残念」 「非処女でも十分だろ。実物はマジでかわいいなァ、感動した!」    などと好き勝手に感想を述べて服を脱いでいく。   「ちょっと、ヤる前に金払ってくれよ」    俺が言うと、男達は思い出したように財布を開いて一万円札を取り出した。   「こんなかわいい子と、ほんとにいいの?」 「いいんすよ。でもゴムは着けてくださいね。ナマでやったらその都度追加料金いただくんで」    二人分で二万円儲けた。この中で唯一状況を理解できていない和泉は、困惑しきった面持ちでしきりに俺を見る。   「な、何なんだよ、これ……お前、これ、どういうつもり……」    すると男の一人がクスリと笑う。   「なに、彼氏に聞かされてないの? かわいそうに」 「は? か、彼氏……?」 「そーだよ。あっちの子と付き合ってるんでしょ? 最近流行りの、素人カップルエロ動画? よく上げてるじゃん。いつも見てるよ」 「は……? え……?」    和泉の声が微かに揺らぐ。ちらりとこっちを見るが、俺は敢えて視線を外す。   「オレら、結構熱心なファンでさ。よくオカズに使わせてもらってるんだけど」 「今回たまたま連絡取れて、ヤらせてくれるっていうからさ。キミ顔かわいいし、超タイプだよ」 「いやオレの方が好みだって。ねぇ、ハヤトくんは、オレとこいつどっちが好き?」 「あ……え……」    助けを求めるように、和泉がこちらを見る。しかし俺は無視を決め込む。   「お前、変なこと言ってハヤトくんを困らすなよ。どっちがいいかは、体に訊けばわかることだろ」 「そうだな。まぁでも、オレのチンポの方が気持ちいいだろうけど」 「粋がるなよ。オレの方がデカいんだぞ」 「デカさが全てじゃないんだって。お前はいつもそうやってデカチンに胡坐を掻いてるからだな……」    男達は何やら楽しげに言い合い、和泉を仰向けに引っくり返す。舐めるように裸体を凝視したかと思うと、文字通り体中を舐め回し始めた。和泉は不快感に耐えるように、眉を顰めて目を瞑る。   「はァ……すごい、若い子の味がする……」 「汗の匂いもいい……腋毛、ちゃんと生えてるんだね……高校生だもんね、うん……」    体中を舐め回しつつ、最も際どいところには触れない。例えば胸なら、乳輪のギリギリまで舌を這わすが、決してそれ以上は踏み込まない。陰毛スレスレまで舌が這っていっても、ペニスやアナルには決して触らない。代わりに、鼠径部や太腿、膝小僧、足の指なんかを丹念に舐めていく。俺もつい目を見張る。   「ふゥ……かわいい乳首、勃起しちゃってるね」    一人が足の指をしゃぶりながら内腿を撫ぜている時、もう一人がいきなり左右の乳首を強めに抓った。   「んっ……!」    和泉の腰が跳ねる。男は気をよくして、勃起した乳首を指先で弾く。   「敏感なんだね……おっぱいで感じちゃうなんて、女の子みたいだ」 「ちがっ……これは……」 「気持ちよくないの?」 「よく……ないっ……」 「うそー。腰ビクビクしないように踏ん張ってるの、こっちからは丸わかりだよ」    足をしゃぶっていた男が言った。内腿をふんわりとくすぐられ、堪え切れなかったのか和泉はまた声を漏らす。   「はァ、ほんとかわいい。声もかわいい。生で聞くと違うなァ」 「けど、そろそろこっちも欲しいんじゃない?」    男がカバンから何かを取り出す。かなり小さいディルドのようでもあるが妙な形をしていて、変な取っ手が付いている。男はそれを、優しく和泉の尻に埋め込んだ。   「何すか、それ」 「ああ、知らない? エネマグラだよ。ちょうど前立腺に当たるように設計されてるんだ。お尻でイかせるなら必須だよ。キミも今度使ってあげなよ」    そんなものがあるとは知らなかった。しかし初めてだから違和感が勝るのか、和泉は眉間に皺を寄せている。男は次にピンクローターを二個取り出し、左右の乳首に取り付けてテープでしっかり固定した。スイッチを入れると、小さな振動音が空気を震わす。和泉は声もなく喉を反らす。   「おっ、なかなかいい反応。じゃあお次は……」    さらに電マを取り出す。独特の形状をしたそれは、どぎついピンク色に塗られている。アダルトビデオなどで目にしたことはあるが、本物を見るのは初めてだ。いつか使ってみたいと思ってはいたが、この格安オンボロホテルではそういったサービスをやっていないので、結局試したことはない。まさかこんな奴らに先を越されることになるとは。    スイッチを入れると、モーター音が鳴り響く。電マの丸いヘッド部分が振動しているのがわかる。男はそれを、和泉のしなやかな尻に優しく当てる。閉じようとする脚を開かせて、尻や内腿や鼠径部などに当てていく。焦らしプレイが好きなのだろう。エネマグラとローターの刺激で緩く勃ち上がってしまったペニスにはなかなか触れない。   「ハヤトくん、どうかな。ぶるぶる気持ちいい?」 「いいわけ……なっ……」 「強がりなのもかわいいねぇ」    男は電マの振動を一段階強くし、いきなり中心に押し当てた。   「ひっ……!?」    和泉は空気を呑み、体を弓なりに撓わせる。ずれてしまったローターを、和泉の頭上に陣取る男が元の位置に押し戻す。勃起した乳首がぷるぷる震える。   「あぅ……っ、あ、ぅあ、ぁあ……っ」    すっかり勃起した陰茎もぶるぶる震える。男は責めの手を緩めない。裏筋と亀頭を電マでぐりぐり責められて、和泉はあっという間に射精した。白い精液が引き締まった腹部にかかり、うっすら割れた腹筋の隙間を埋める。   「ちゃんとぴゅっぴゅできるんだね、えらいねぇ」    男が頭を撫で、口を吸う。   「せっかくだから、違うのも出してみよっか」    もう一段階、振動を強くする。ヴィィィィ、という甲高いモーター音が、和泉の喘ぎを掻き消す。   「ほぉら、もう一回がんばれ」    優しい声で励ましながら、達したばかりの敏感なそこを電マで執拗に責め続ける。なかなかの鬼畜っぷりだ。激しい振動と甲高いモーター音とが相まって、何か凶悪な生物のようにも見えてくる。   「やっ……、はっ……っ、あぁ……んっ……、くっ……っ」    声はどうにか我慢して抑えている。きつく目を瞑って、歯を食い縛っている。しかし体の方は全然抑えられていない。陸に上げられた魚のごとく、ベッドの上でのたうっている。しかし下半身は電マを持った男、上半身はもう一人の男に押さえ込まれているから、逃れようにも成す術がない。ただもう、男達に導かれるまま上り詰めるしかない。   「ひっ――ンん゛っ……っ!!」    ぷしゅ、と水の噴き出すような耳慣れない音がした。おお、と男達から感嘆の声が漏れる。   「えらいえらい、潮吹きできたね。ハヤトくんはえらいねぇ」 「さすがだねぇ、えらいねぇ、優秀だねぇ」    口々に褒め称えながらもモーター音は止まず、敏感になりすぎた亀頭を容赦なく嬲り続ける。和泉は息も継げないほど喘ぎ、溺れそうになりながら闇雲に藻掻く。   「ひっ……ぐ、っ……やめっ、……ン゛っ……っ、やっ……やめ゛、ぇ゛……っ」 「ハヤトくんならもう一回くらいイけるよね? ほらほら、がんばって」 「むり゛……っ、ひ……っ、むり゛ぃ゛っ……っ」 「大丈夫だよ、何も出さなくてもいいからね」    おじさん達の猫撫で声は気持ち悪いが、それは置いておくとして。和泉の腰は見事な曲線を描いて反り返っていた。脚はM字に開かれ、逞しい筋肉が絶頂に抗って痙攣している。しかしそれも時間の問題だろう。爪先は小さく丸まって、弱々しくシーツを引っ掻く。アナルが収縮しているのか、尻に埋まったエネマグラがピクピク震えている。   「ほぉら、強がってないでイけ、イけ。ハヤトくんのやらしいお顔、おじさんに見せてくれ」 「……あ゛っ……ぁあ゛っ……っ」    和泉は息を詰めた。刹那、ビグンビグンと体が波打つ。思いっ切り腰を反らしてくねらせて、潮を吹いた。一回目よりもっと水っぽく、さらさらしていて、勢いがある。綺麗な放物線を描いて噴き出したそれは、和泉の顔面に降り注いだ。もちろん男の顔や手にもかかったが、彼は嬉々としてそれを舐め取る。   「すごいッ、これが、現役男子高校生のお潮……ッ!」    もう一人の男も電マを放り出し、股の間から這ってきて和泉の顔を無遠慮に舐める。旨いだの甘いだのしょっぱいだのと言いながら、やたらと有難がって舐める。    玩具で強制的に連続絶頂させられた上、自身の体液を頭から被り、しかもおっさん達に顔面をべろべろ舐められている和泉は、堪え切れずにとうとう泣き出した。啜り声さえ上げないものの、伏せられた眦からぽろぽろと涙を零す。涙なのか汗なのか潮なのか、はたまたおっさんの涎なのかわからない液体が、和泉の頬をしとどに濡らす。   「ン……? アレ? ハヤトくん、泣いちゃってるじゃん」 「潮吹き嫌だった? ごめんね、かわいいからつい」 「こういうプレイNGだっけ? イジメられるの好きって聞いてたんだけど」 「ちょっとキミ、彼氏くん。これいいの? ハヤトくん、泣いちゃってるよ」    突然俺の存在を思い出したのか、興奮しきった顔のおっさん二人がこちらを向く。正直あまり見たいものでもないが仕方がない。   「いいんすよ、別に。そいつ、ドがつくマゾなんで、泣くほど感じてるんすよ」 「そうなの? ハヤトくん、ちゃんと感じてる?」    男に覗き込まれ、和泉は顔を背ける。   「ドMでドスケベのくせにプライド高いから、感じてても感じてるなんて言わないすよ。そういう奴なんです。でもかわいいでしょ?」 「うん、超絶かわいい」 「けどいいの? キミ、一応彼氏なんでしょ? こんなかわいい彼女がこんな目に遭ってて平気なの?」 「ぜーんぜん。むしろ興奮しますね」    普通そうな見た目をして狂った性癖を持つおっさん二人に慰み物にされている和泉なんて、見ているだけでヤバい。想像だけでも射精できそうだ。   「ネトラレ願望ってやつ? 若いのに難儀な性癖してるねぇ」 「俺のことなんかどうでもいいんで、そいつのこともっと苛めてやって――」    ふと目が合った。和泉が俺を見つめていた。涙に滲んだ、縋るような目で、じっと俺を見つめていた。腰にぞくぞくっと快感が走り、自然と笑みが零れる。   「――死ななけりゃ、何してもいいっすよ」    男達は順番に和泉を犯した。まずは正常位で挿れてゴムに射精し、騎乗位は下から突き上げて射精し、後背位の時は同時に口淫も楽しみ、疲れてきたら側位や座位で、復活してきたらガンガン突きやすい体位で楽しむ。最終的にやっぱりナマでやりたいと言うから、俺はさらに儲けた。    夕方になり、男達はすっきりした顔で帰っていった。おっさん二人分の体液に塗れてどろどろのぐちゃぐちゃになった和泉は、指一本も動かせないとばかりにぐったりとベッドに倒れている。帰る準備をしろとせっつくが返事がなく、まさか死んじゃいないよなと息を確認すると、よかった生きていた。   「まだ帰らねぇんなら、延長料金はてめぇで出せよな」    俺が言うと、和泉はぼそぼそと何か呟く。聞こえねぇぞと言うと、のそりと頭をもたげる。   「……どうが……」 「あン?」 「動画……しろうと、なんとかって……」 「あー、素人カップルエロ動画な。最近流行ってんだよな。エロ版ユーチューブみてぇな? そこまでメジャーでもねぇけど」 「……じゃなくて……」 「んだよ、はっきり言えよ。あー、もしかしてあれか? 顔バレ心配してんのか? 一応モザイクかけてっから、大丈夫だろ」 「……先生には……?」 「沢井にはまだ何も送ってねぇよ。ネットに上げてんのも俺とヤッてるやつだけだし。お前が口出すことじゃねぇ、黙ってろ」 「……そう……」    安心したのか何なのか、和泉は再び頬をベッドにくっつけた。湿ったベッドで気持ち悪くないのかとも思うが、そのままゆるゆると瞼を閉じる。   「おい、寝るのかよ。俺ァ帰るぜ」 「帰れよ……おれは、少し休む……」 「ふん、いいけどよ。また明日もだからな。せっかく休みなんだから、がっぽり稼がせてもらうぜ」    またもや返事がない。和泉は既に寝息を立てて微睡んでいた。        それから、休みの度に客を呼んでウリをやらせた。初日会ったようなサラリーマン風の男もいたし、軽薄そうな大学生や女装趣味の青年、ハゲのおっさんやら中年太りのおっさんやら脂ぎったおっさんやら、とにかく色々な男の相手をさせた。餓えた男共に好き勝手犯されながら和泉が何を思っていたのか、俺には知る由もない。

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