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第13章
ニコラスの屋敷は敷地の一番奥にある。サリネの屋敷の真横に建てられていたが、足を踏み入れるのは初めてで、サリネは少しだけ緊張している。
その屋敷の主寝室にサリネは誘われた。
「んっ……」
頭から花冠を取り、テーブルの上に慎重に置いたニコラスに抱きすくめられ、サリネは口付けされた。今度は額ではなく、唇が合わせられる。拒むようなことはせず、唇を綻ばせると、そこからニコラスの肉厚な舌が入り込んできた。
サリネは入り込んできた舌に自分の舌を絡ませる。口付けは片手で足りるほど、しかもニコラスとしかしたことがない。拙いサリネの技巧ではニコラスを満足させることなどできないかもしれない、と不安に思ったものの、すぐに何も考えられなくなっていく。
湿った音が響く。息継ぎがうまくできなくて、サリネが苦しくなってきたのを感じたのか、ニコラスが口を離した。
「ん、はぁっ、ぁ」
「サリネ」
唾液が口の端に垂れていたので、サリネは慌てて服の袖で拭う。すると今度は唇をぺろと軽く舐められた。
「僕はあまり余裕がない、優しくしたいけれど、途中で我を忘れて貴方を傷つけるようなことがあれば、殴り飛ばしてでもやめさせてほしい」
髪紐が解かれ、サリネの長く豊かな黒髪がはらりと背に落ちた。
ニコラスの声は低く掠れていて、いつもとのギャップを感じ、サリネは顔が赤くなる。また髪が解かれたことにより、一層淫靡な雰囲気を感じ、サリネは期待と緊張とで胸を高鳴らせた。
腰を強引に引き寄せられると口付けだけで、臨戦態勢になったニコラス自身がサリネの腰に当たる。口付けの時からその大きさに気がついていたので、今更驚きはしない。
サリネはニコラスの頰を両手で包み込む。
ニコラスの瞳は早くも濃い青色に変わっていた。それに加えて今日は酷く、野生的に濡れていた。
きっと捕食者の瞳というものはこういうものなのだろう。跡形もなく食べられてしまうのはサリネの方だ。
だが、それでも良い。早くニコラスのものになりたい。
「そんなことはしない、私もお前が欲しいんだ」
背伸びしてニコラスの唇に自分の唇を合わせる。そして先ほどのニコラスと同じようにぺろとニコラスの唇を舐めた。
「っ」
「わっ!」
足が床から離れ、思わずニコラスの首に抱きつく。ニコラスがサリネを抱き上げたのだ。「もう我慢できない」
余裕のないニコラスの独り言にくすり、と笑う。
すぐ側の寝台の上に優しく降ろされた。
足の間にニコラスの身体が入り込み、上衣シャツのボタンが外されていく。
「んっ……」
シャツの前を開かれ、現れた平らな胸にニコラスは吸い付いた。
既に桜色の乳首がぽちりと固く勃ち上がっている。片方は唇に含まれ、もう片方は手で弄ばれて、サリネはその刺激に耐えた。
「ぁ、は……」
甘噛みをされると、腰の奥がきゅんきゅんと疼く。サリネ自身はズボンの中で勃ち上がり、窮屈さを訴えている。
触れられている乳首も、時折歯を立てられる乳首も気持ちいいが、射精をするにはまだ足りない刺激だ。
物足りなくて、無意識にニコラスの身体へ腰を擦り付けていると、それに気がついたニコラスがサリネのズボンの腰紐を解き始めた。
「もう我慢できないのか?」
笑いを含んだ声に少しムッとしてしまったが、サリネは素直に頷いた。
「腰上げて」
指示された通り、腰を浮かせると、下着ごと下衣ズボンが取り去られる。そしてついでのようにシャツも脱がされてしまった。
サリネは一糸纏わぬ姿で、ニコラスに押し倒されている。裸を人前で晒すのはあまり慣れていない。入浴や着替えなど、侍女や使用人に任せる者もいたが、サリネはほぼ全て自分で行っていた。
特に下半身が心許なかった。
身体が密着しているので、勃起している自身は隠せないし、後孔は潤み、愛液が尻たぶに垂れてきているのか冷たい感触がある。
対してニコラスはシャツのボタンを緩めただけだ。胸元はチラチラと見えているが、ズボンはまだベルトさえ抜いていない。
「お、お前も脱げ……、私ばかり裸では恥ずかしいだろう」
ニコラスは最初、きょとんとした顔をして、サリネの裸体と自分の身体を見比べていた。しばらくして、何かに気がついたように、笑顔になる。
「僕の裸が見たい、と?」
「ちがっ……」
ニコラスの言葉にサリネは思わず大きな声で反論しようとした。
裸が見たいなど、淫らな考えだ。そんなことではなく、私だけ裸なのは恥ずかしいからだ、と説こうとしたが、やめた。
唇を閉じ、サリネは押し黙った。そして顔を赤らめ、ゆっくりと再び口を開いた。
「そうだ、お前の全てが欲しいから、お前の身体も何もかもが見たい……、だめ、だろうか?」
言葉は慎重に選んだ。やはり淫らで浅ましい妻だとは思われたくなかった。
「だめな、わけがない……、僕は貴方のものだ、貴方が見てはいけない場所なんてあるわけがないから」
恥ずかしくて目を合わせられないでいると、頰へ口付けられる。その口付けの優しさに安堵感を覚え、ほっと一息をつく。
サリネの身体の上でニコラスが服を脱ぎ始めた。
白いシャツのボタンを全て外す指先が爪まで綺麗で目が離せない。がばりと豪快に脱ぎ捨てられたシャツは無造作に寝台の下へと投げ捨てられた。
裸の胸や腹は影を落とすほど、たくましく鍛えられていた。オメガのサリネでは終生つかない類の筋肉が呼吸と動きにうねったり、波打ったりしている。羨ましくもあり、またあの時の、少女だと思っていた華奢な子供がこのような立派な男性になり、今からサリネを抱くのかと思うと性的な喜びも湧き上がってくる。
期待でどうにかなりそうだ。
次に黒い皮のベルトが引き抜かれ、ズボンの前が開かれる。ニコラスは下着ごと、ズボンを下げると、それも寝台の下へと投げ捨てた。
下着越しでも大きく張り出していたのがわかったものの、やはり実際に見るとかなり大きいのがわかる。
髪の色と同じ金色の陰毛は薄く透けている。その淡い金色の中でニコラス自身がしっかりと頭を擡げ、天を向いていた。
あまり凝視するのは良くない、と思いつつも目が離せない。そんなところまでサリネのものとはやはり全然違う。
「そんなに見られると、流石に恥ずかしいかな」
「あ、す、すまないっ」
慌てて目線をあげ、ニコラスと目を合わせる。
気まずくて、この空気を何とかしようとサリネは口を開いた。
「その、あまりにも……立派、で。私とは違ったから……、アルファの、なんてお前のものしか見たことなくて、その」
「気に入ってもらえそうかい?」
「あ、ぅあ……」
なんという質問なのだろう。流石に答えることはできなくて、サリネは耳まで赤くなった顔を両腕で隠した。
「わ、わから、ない……そんなこと」
「そうか、ならこれから好きになってもらうよ」
太ももを持たれ、両足をがばりと開かれる。腰の下にクッションを敷かれた。
「うぅ」
おそらくニコラスの眼下にはサリネの恥ずかしいところの何もかもが丸見えだろう。
「良く濡れている」
「恥ずかしい……」
そう言われ、期待で後孔がひくついてしまった。それもおそらくバレている。
「とっても嬉しいよ、サリネも僕とのセックスに興奮してくれている。今はそれだけで十分だ」
膝裏を持たれ、更に開かれた。顔が近づき、ふっと息を吹きかけられ、何をされるのか察したサリネは慌てて阻止しようとしたが、間に合わなかった。
「あっ、待っ……ぁあっ」
濡れた後孔に吸い付かれる。舌で窄まりを突かれ、驚きで身体を跳ねさせると、逃げると思われたのか、膝裏の手の力が強くなった。
そんなところを舐められたことはない。自分でも必要最低限しか触れないし、自慰でも使ったことはないところをニコラスの舌が這っている。
性行為とは、セックスとはこんなにも恥ずかしいものなのだろうか。
時折、じゅる、とはしたない水音が下から聞こえてきて、余計に居た堪れない気持ちになる。
だが決してやめて欲しいとは思わなかった。顔から火が出るほど恥ずかしいが、サリネはニコラスのしたいようにやりやすいよう、自ら足を広げた。
腹に反り返った自身が当たる。もうイきたい、と思ったが、やはり言えない。自分で触れることも考えたが、できずにいる。
「ひあっ」
逡巡していると、前触れもなく後孔に指が挿入され、サリネは驚きで、素っ頓狂な声をあげてしまった。
(い、いきなりっ、クソっ)
抗議しようと口を開きかけると、またもう一本、具合が良かったのかもう一本指を挿入される。
「ん、んぁ、はぁ」
最初、指先だけを含まされていたが、愛液の力を借りて、三本の指を奥へと進めてくる。
ニコラスの花や植物を慈しむ美しい指先がサリネのひくつき濡れる淫らな後孔へ埋められている。
温室でのニコラスの姿がサリネの脳内へと浮かんだ。
昼の眩い日差しの中、微笑み、楽しそうにホースで水を撒いている。サリネが来ると、手を止め、こちらに向かって手を振るのだ。
「あ、締まった」
「ぅ、そ、それは……はぅっ」
温室の中の神々しいニコラスは今、ベッドの上でサリネを抱こうとしている。
それを考えると、どうしようもなく身体が昂った。
早くニコラスが欲しくてたまらない。
後孔の力も抜けず、強請るように締め付けてしまい、サリネは慌てるが、ニコラスはサリネに対してにこりと笑いかけ、片方の手でサリネの頬を撫でた。
その笑顔が温室でサリネに笑いかけるニコラスの表情とも重なる。
「大丈夫、僕も貴方の全てが欲しいから」
言葉が出てこない。サリネは嬉しくて、けれど締まりのない顔を見せるのは嫌で、再び両腕で顔を覆うと、こくこく、と頷いた。
はしたなく追い縋る後孔の襞を振り払い、ニコラスが指を引き抜く。
すぐに後孔に熱く、硬いものが触れ、サリネの後孔はその先端にくちゅ、と吸い付いてしまった。
「挿れるぞ、力を抜いて」
「ふ、ぁ、あぁ……」
サリネの背がしなった。指とは比べ物にならないほど、太く長大なものが身体の中心を割り開いていく。
圧迫感で、自分がうまく息を吸えているのかさえ、サリネは定かではない。
「っ、息を止めないでくれ、ゆっくり吐こう」
「ふぅ……、ん、はぁ」
両腕の隙間からニコラスを見ると、金の太い眉を顰め、唇を引き結び、ずいぶんと余裕がなさそうだ。
「はぁ……全部挿入った、顔を見せてサリネ」
「い、嫌……ぁっ、こらっ」
腕を取られ、顔の横に両手首を固定される。
「ふふ、やっと会えた」
睨みつけると、また笑われた。
「どんな貴方でも欲しいって言っただろう」
「私は恥ずかしい……」
「それならもっとセックスにも慣れていこう、たくさんしよう、子供もいっぱい作ろう」
「か、回数の問題じゃ、ひあっ、あ、あ、あ」
ニコラスが腰を引いた。そしてそのまま動き出す。腰を押し込められるたび、ニコラス自身が奥にあたり、そこから重たい衝撃が走り、サリネは意味のある言葉を紡げなくなっていった。
「あ、あぁっ」
「苦しいところはないか? 痛いところは?」
ここでサリネが苦しいだの、痛いだの言えば、優しいニコラスは例え自分に余裕がなくとも、この行為をやめてくれるだろう。
サリネは首を横に振った。初めてだからか、苦しさもあるし、いらぬところが引き攣っているのを感じる。
だがそれ以上にようやくニコラスと身体を繋げることができた喜びで胸も身体もいっぱいだ。
この苦しさも痛みもニコラスからのものだと思うと、もっと欲しい、ニコラスにも自分を与えたい、と思ってしまうのだ。
「大丈夫だ……、本当に嫌なら蹴り飛ばしてでもやめさせているから」
ニコラスはおそらく初めてのサリネを気遣って、加減をしている。サリネは足でニコラスの腰を引きつけ、絡ませた。
「だからもっと来い……、私はちょっとやそっとじゃ壊れない。もっと本気を出してもいい」
色気はないかもしれない。だがこれがサリネができる精一杯の誘惑だった。
「言ったな……」
「あぁ、や、待っ……、ひあぁっ」
ぎゅ、と手をシーツに押し付けられ、ニコラスが容赦なく腰を使い始めた。
尻たぶがニコラスの腰にあたり、肉を打つ音がぱしん、ぱしんと何度も部屋に響く。腰を押し込められるたび、サリネは重たい響きを中で受け止めた。
以前に指で教えられた中の気持ちいいところも、奥の腰に響くところも余すところなく全て擦り上げられ、突き抜かれ、まだ一度も前に触れていないのに射精感が募っていく。
ニコラスも限界が近くなってきたのか、律動のスピードがだんだん早くなっていった。
「も、もうっ、だめっ……、イっちゃ、ああぁ」
「くっ」
一際強く奥を突かれ、サリネは絶頂に達する。中でびくついているニコラス自身を締め付けながら生ぬるい白濁で自分とニコラスの腹を汚した。
サリネの絶頂よりも少し遅れて、ニコラスが達する。少し苦しげに息をつめたニコラスはサリネの腹の奥に熱いものが注ぐ。その濡れた感触にサリネは興奮した。
「あ、は、ぁ、え、ちょ、ちょっとっ」
お互い達し、一旦休憩でもするのかと思っていたら、乱暴に腰を掴まれ、身体をひっくり返される。
ニコラスに尻を向け、四つん這いの体勢になる。困惑しているうちに、腰を持たれると、今度は一気にニコラス自身が挿入された。
「あ、やっ、待って」
「待たない」
挿入されると今度は容赦なく、後ろから突かれる。
「あ、あぁっ、あ、ぁっ、ひあ」
「っ、サリネっ」
ニコラスの身体が覆い被さっている。先ほどとは違うところに当たり、未知の感覚と、乱暴にされている、という初めての経験にサリネは溺れた。
「サリネ、サリネっ」
ニコラスに何度も名前を呼ばれる。その度に頸に唇が当たり、執拗に舐められた。
「ん、くぅっ、ぅうあ」
アルファがオメガの頸を性行為中に噛むことによって、番という特別な関係になることができる。
番は嫌がるオメガの頸をアルファが無理やり噛んでもなることはできない。オメガの許しを得て噛むことができ、それによって番関係となることができるのだ。
オメガに求められないアルファは番とはなれない。
そしてアルファのニコラスは今、サリネに番関係を求めている。
それをオメガのサリネに拒む気は全くない。
サリネは長い髪をかき分け、頸を晒す。少し首を傾け、ニコラスが噛みやすいように工夫した。
「ニコラス、早く噛め、番になろう」
「あぁ、サリネっ」
湿った息が当たり、次に柔らかい唇の感触が頸を覆った。ちゅ、ちゅ、と幾度も吸われ、そのたびに身体をびくつかせ、中のニコラス自身を柔く締め付ける。
優しい唇の感触がやがてなくなり、硬い歯が当てられた。
「あ」
身体が震えた。これからサリネはニコラスのものになり、ニコラスはサリネのものになる。
「んーっ」
歯が薄い皮膚を少し突き破る。まず初めに痛みがあり、すぐそれを凌駕する多幸感に包まれる。
多幸感を覚えると、サリネは頭をぼうっとさせた。
これでもうサリネのフェロモンはニコラスにしか通じない。しかしそれ自体はどうでもいいことであった。サリネはニコラスしか知らないし、ニコラス以外とこういう関係になるつもりは全くない。
ようやっとここまで来ることができた。たくさん遠回りをしたが、サリネとニコラスは心も身体も通わせることができ、番にもなった。
頭がふわふわしている。嫌な感じはしない。
こういうのを幸せと言うのだろう。
「サリネ?」
サリネが我に帰った時、心配そうな顔をしたニコラスがこちらを見ていた。
頸を噛むため、サリネはニコラスに背を向けていたはずだ。
「……ニコラス」
サリネが呼びかけに返事をすると、ニコラスはほっとした顔を見せる。
「頸を噛んだ後、反応が鈍くなったから心配したよ、また具合でも悪くなったんじゃないかって」
逆だ。身体の調子はとてもいい。番のアルファという存在を手に入れ、心身ともに安定感を手に入れた。
サリネは身体を起こす。大丈夫だ、と言おうとして空咳をしてしまった。
それを見たニコラスは顔を顰める。
「冷たい水でも持ってこようか? 疲れただろう、その……やっぱり僕は暴走してしまったし……」
絶頂した後、すぐに二回戦に挑んだことを言っているらしい。どうやら冷静になってみて、そのことを反省しているようだった。
「大丈夫だ、すぐに治るから。身体の調子も悪くない。それより」
「サリネ? んっ」
サリネはニコラスの唇を奪い、そのままベッドへ押し倒す。最初、困惑していたニコラスも口付けが進むごとにだんだん抵抗しなくなり、サリネは夢中で行為を続ける。
「はぁ、ニコラス」
馬乗りになり、後ろ手で再び勃起していニコラス自身を掴む。
それは既に挿入できるほど固くなっており、サリネはそれを感じ取ると、優然と笑った。そしてそのまま後孔へと導き、ゆっくりと自分の中へと飲み込んでいく。
「あぁっ、はぁあっ」
足を広げて、後ろに手をつけば繋がっているところがニコラスには丸見えだろう。腰を下ろし、全て収めると尻たぶにはニコラスの陰毛が当たっているのがわかる。
「ふっ」
そこをニコラスが食い入るように見つめ、中のものが大きくなったのを感じた。
「さっきまだお互いにイってないだろう、それにせっかく番になったのにまだしていなかったから……」
一度目も二度目もニコラスに動いてもらっていた。なので今度はサリネが主導で動こうと思ったのだ。
「ん、くっ、ふぁ、あぁ」
少し腰を揺らすと、奥が擦れ、力が抜けてしまいそうになる。しかしそれに負けず、今度はゆっくりと引き抜き、もう一度、腰を落とす。
「ひっ、うぁ」
拙い動きだろう。ニコラスにとっては物足りないかもしれない。
けれども羞恥心を捨てて、今度はサリネがニコラスに尽くしたかったのだ。
ニコラスが好きだ。大好きだ。
大好きなニコラスにはもっとサリネのことを好きになってもらいたいし、もっと気持ち良くなってほしい。
「サ、サリネっ」
「え、ぁ」
突然上半身を起こしたニコラスに抱きしめられ、サリネは驚く。
「嬉しい、けれど騎乗位は今度練習しよう」
やはり下手だったのか、と少し気落ちしそうになる。まあわかっていたことであるが。
そのまま優しく押し倒された。
「愛している」
初め、額に口付けられた。そのまま何度も顔中に優しく、慈しむような口付けがたくさん降ってきた。
「私も、私もニコラスのことを愛している、あぁっ」
律動が始まった。今度は恥ずかしがったりしないで、今の自分の全てを晒そうと決意した。
「あぁ、気持ち……いいっ」
「ん、ここ?」
「あ、そこっ……もっと突いて、んは、ぁ」
声を出せば、ニコラスはサリネが望むところを突いてくれる。
最初から素直に、アルファだの、オメガだの、政略結婚だの何だのと意地を張らなければ良かった。
でもそういう困難があったからこそ、ここまで思いを通わせることができたのかもしれない。
限界が近づく。複雑な思考を頭の隅に追いやり、ニコラスから与えられる快感だけをただただ、享受することにした。
「あ、も、だめ、イっちゃ、あぁ、ニコラス、ニコラス」
「はっ、僕も、もうすぐだ、サリネ」
息も言葉も途切れがちになり、二人は互いに昂っていく。
シーツの擦れる音、ぎしぎしとしなる寝台の音が遠くなり、目の前のニコラスしか目に入らなくなった。
涼しげな青い瞳が燃えている。これは情欲だ。
優しくて、穏やかで、物腰柔らかいニコラスが雄の顔をして、サリネを貪っているのだ。「ひああぁっ」
身体を仰け反らせ、首筋を晒しながら、絶頂すると、すかさず喉元に食いつかれる。
「くっ」
その瞬間、体内でニコラスの欲が膨れ、弾けた。それにつられて、サリネも薄くなった欲を吐き出す。
「んっ」
互いに絶頂を終え、どちらともなく唇を合わせる。今度は快感を引き出すような口付けではなく、しっとりと互いを労るような口付けだ。
「綺麗だ、本当に綺麗だサリネ、僕の愛、番」
うわごとのように呟きながら、また唇を求められ、サリネはそれを許す。
サイドテーブルに飾られた晴蘭花の花冠が月明かりに照らされている。
番となった二人の夜はまだ明けそうになかった。
終
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