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第1話

 夏が終わる。涼しくなってきてそんなことを思っていると、またぶり返した暑さにやられる。 「これでもうすぐ冬服に変わるとかないよね」 「いやいや普通に変わるから」 「だって暑いじゃん」 「それよりさ、そろそろ文化祭の出し物生徒会に提出しないといけないんだけど、研磨君は何がいいかな?」 「おれ?」 「そう。おれ」 「食べ物屋がいいけど、女装は嫌だ」 「えっ……」 「聞こえなかった? 女装は嫌だ。毎年毎年スカート履くの嫌だ」 「だって可愛いよ?」 「女装するのが嫌ってよりも、皆に写真撮られるのが嫌。ニッコリするの疲れるし」 「じゃあ……食べ物屋はやりたいんだよな?」 「まぁ」  だいたい体育会系の文化祭出店は食べ物屋が多い。だから毎年早いもん勝ちで出し物の取り合いをするのだが、ここ二年運良くメイドカフェが出来た。それもこれも見栄えのいい研磨がいてこそだ。その研磨が難色を示しているのは女装と言う……。 「じゃあさ、じゃあさ……カフェはいいんだよな?」 「もっと他のでもいいんだけど、クロがカフェやりたいんなら反対はしない」 「それは良かった。でも何か扮装しないとな……」 「おれ、凛々しいクロが見たいな」 「たとえば?」 「宝塚とか」 「研磨君、部にはそれにかかる費用がないよ」 「ちぇっ」 「衣装代がかからないのが理想だけど、メイド位の衣装代でどうにかなる扮装はないかな……」 「おれ、応援団の服着たい」 「……おーーー! それ、いいかも! それなら体育会の衣装そのまま使えるし、研磨君賢いっ!」 「……」 「よし、それで行くかっ」  さっさと提出用紙に応援団カフェと記入すると足早に生徒会室に向かう。 早歩きがいつしか小走りになり一番乗りではなかったが、メイドカフェとしなかったので被らずにすんなり受付が通った。  元々毎年部員皆に聞いてみるのだが、同じような返事しか返って来ないので今年は決定してから言うからと事前告知してある。だから生徒会を通ってから部活前に発表となった。 「今年は応援団カフェやりますっ」 「応援団カフェ?」 「そう」 「それは……どういう?」 「早い話、メイドカフェみたいに応援団の衣装でカフェやります」 「てことは、学ランで?」 「そう。長ランでタスキしてもいいし、白手袋は必須な」 「……それ、黒尾さんが考えたんですか?」 「いや、おれ」 「あーやっぱり。毎年女装したくないとか」 「それもあるけど、クロのカッコイイ姿が見たいから」 「あーーー、そうっすね。俺も夜久さんの学ラン姿拝みたいっす」  リエーフがワクワクしながらそんなことを口走る。言われた夜久は気恥ずかしそうだけど、悪い気はしてないようだ。 「てことは、学ランは……」 「体育会の応援団の服を使うから衣装代はタダだ」 「だったらその分浮きますね」 「でも無駄遣いはしないからなっ」 「ぇっ、あーーーはい」  ちょっと残念そうなリエーフの声を聞きながら研磨が声をあげた。 「去年とは違うもの出したい」 「それは何」 「衣装代浮いたからたっぷり生クリーム買いたい」 「研磨君、俺の話聞いてた?」 「パフェ作りたい。カフェなんだからクリームソーダとか出したい。ちゃんとアイス乗ってるクリームソーダ出したい」 「あ、俺もそれ出したいです。でもまず作れるかどうか作ってみたいです」  またリエーフがよからぬ考えを言い出す。結局出来るかどうか全員試食したいと言うことだ。 「シャーラップ!」 「……」 「いいか、よく聞け。もちろん試作試食はしなくちゃならない」 「おーー」 「ただし、一品一食だ」 「え、そんなこと言ったら一口も食べられないものが出てるくじゃないですか」 「いいんだよ。作る担当が口に出来れば」 「と言うことは……」 「今からメニューと担当を決めようじゃないか」 「いくつ作るの?」 「あまりあっても仕方ないから二人で一品作るようにしようと思う。今から食べたいもの、作りたいものがある奴は紙に書け」 〇  で、決まったものは飲み物は「珈琲と紅茶・クリームソーダ・ソーダ・コーラ」食べ物は「アイス・パフェ・プリン・シュークリーム・サンドイッチ・クッキー」だった。その場で作らなければならない物はパフェくらいで、後は出来合いのものを利用することになる。 「俺、パフェ担当になりたいですっ!」  一番に手をあげたのはリエーフだった。やりたい部員は他にもいたので、ジャンケンで担当を決める。 「やったーー! 俺、夜久さんとパフェ担当になりまーすっ!」  喜んだのは、やっぱりリエーフだった。 「ね、夜久さん」と嬉しそうに言うリエーフに「えっ……」と戸惑う夜久。 「お前じゃ駄目だと思う」 「えっ、何で!?」 「だって、お前が作れるのってトーストくらいじゃん」 「そっ……れは…………」 「誰か他の人に譲れって」 「だって試食が…………」 「じゃあ二番手の海。お前ならちゃんと出来そうだな」 「いいんですか?」 「いいよなリエーフ」 「…………はぃっ」  仕方なく頷くリエーフに首を縦に振ると「誰と組む?」と尋ねる。すると海は「じゃあ福永と」と答えた。福永も「いいっすよ」と手をあげなかったのに気さくに了承してくたれ。 「だいたいリエーフは表に立ってくれないと客が来ないしな」と芝山が言う。 「だなだな」と猛虎が豪快に笑う。  結局、客寄せパンダとして始終表に出て働かなきゃならないのは、リエーフと夜久、黒尾と研磨・猛虎と犬岡と決まった。 時間に応じて臨機応変に立ち回る前提でのキャスティングだが、他の部員だって表裏関係なく動かなければならないので忙しいことこの上ない。  いつもの制服はブレザーなので黒の学ランを着られると思うと、みんなのテンションもあがる。人数分の学ランの確保をしにみんなで倉庫へと移動した。  何とか部員全員体格に合った学ランを手に入れた。 「リエーフのなんかないかと思ったけど、あって良かったな」 「またまたぁ、夜久さん。そんなこと言う~!」 「全員分揃って良かったが、ここからが問題だ」 「何です?」 「我が部にはそれを洗うだけの予算がないっ。よって各自でクリーニングして来るようにっ!」 「えっ……各自?」 「そうだ。まだ日にちもあるから大丈夫だろ?」 「そりゃ大丈夫だけど、ここで日にちがあるなんて言わないほうがいいと思うよ」と研磨が口を挟む。 「何でだ?」 「クロ、よく考えて。クリーニングするのに持ち帰っても、ちゃんと学校まで持って来なきゃ意味ないんだよ?」 「そうだが?」 「ほら、そこの奴とか絶対忘れそう」 「あっ、研磨さん。またまたぁ。俺ちゃんと持って来ますよ?」とリエーフが異議を唱える。 「日にち、ちゃんと決めたほうがいいよ」 「そうだな……。じゃあ一週間後に。もし忘れた奴は、部活時間減らして取りに戻ってもらう」 「えーーーっ!」 「いいじゃん。ちゃんと持って来ればいいんだし」 「それはそうですけどぉぉぉ」 「夜久」 「分かってる。任せろ」  クロの言葉に夜久が答える。 「いいか。皆も同じだからなっ。その日までに持って来なければ取りに帰ってもらう」 「はいっ!」 ○  そんな約束をして学ランを持ち帰った夜。 「え、研磨。これクリーニング出さなくても大丈夫だよ」 「学ランなのに?」 「だってこれ、ウオッシャブルだから」 「ウォッシャブル? 何それ…………」 「洗濯機でガラガラ回せるヤツ」 「そんなのあるんだ…………」 「クリーニング出したら勿体ないから、皆に連絡して」 「分かった」  母親に言われて急いで隣のクロの家に走る。 「クロ、大変っ!」 「何だよ」 「学ランウオッシャブルなんだって」 「何そのウオッシャブルって」 「クリーニング出さなくても大丈夫なヤツ」 「んっ?」 「家で洗えるんだって。だから皆にも連絡して。各自家で洗うようにって」 「分かった」 「ぁ、それからクロのもおれのと一緒に洗うから持って来てって」 「ぇ、いいの?」 「どうせ洗うんだからいいんじゃない? ほら出して今から洗うって」 「分かった。じゃあ」とハンガーにかけてあった学ランを手にすると、手を止めて考えてから「行くわ」と研磨と一緒に学ランを持って行く。 「お願いしますっ」 「どうせ洗うんだから大丈夫よ。それよりご飯、食べていくよね?」 「ぁ、はい……。ご馳走になりますっ」  研磨ママに圧されて夕食を食べていくことになったクロは、夕食が出来るまで研磨の部屋で待つことになった。 「毎度申し訳ないね」 「母ちゃんがいいって言ってるんだからいいんじゃない?」 「うん、まあそうなんだけど」  やっぱり申し訳ないよね、と言う態度を取るクロに研磨が問う。 「携帯、持ってないよね。皆に連絡しないと」 「ぁっ……」 「おれの使いなよ」 「悪いな」 「いいよ」  一斉配信して一件落着すると、やっとクロの表情が穏やかになる。 「良かった。皆に余分な金使わせなくて済んだ」 「そうだね」  その後。洗濯された学ランは、夜なので外ではなく研磨の部屋にハンガーに吊された。 「これで乾いたら持っていくといいよ。クロ君の分はここに置いておいてもいいし、持って帰ってもいいし、とりあえず文化祭が楽しみだね」  研磨ママはニッコリと笑ってそんなことを言うと、文化祭食事チケットを要求してキッチンに戻って行った。元々家族には自分のチケットを渡すためにいらぬ心配だったが、それを知っていてあえて言う母親に顔を見合わせて微笑むしかなかった。 「母ちゃんにはパフェ大盛りであげてもいい?」 「言われなくても、だ」 「ふふふっ」 ○  食事をして、ついでに泊まっていくことになったクロ。 ベッドで彼に抱きしめられながら研磨はその暖かさに満たされていた。今ふたりは裸で抱き合っている。お互いの背中や尻を撫で合い唇を求めて舌がさまよう。 「んっ…んんっ……ん」 「研磨っ……いいっ……?」 「いいよ。……てか、早くっ……きて」 「うん」 「ぁ、でも……」 「……でも何?」 「あれ、活用しない?」  研磨が指さしたのはハンガーにかかっている学ランだった。 「いや、だってあれはまだ濡れてるだろ?」 「確かめて、乾いてたら使っていい?」 「いいけど、どうやって……」 「いいからいいから」  研磨は裸のままベッドから出ると学ランが乾いているかどうかを確かめた。 「生乾きだ……」 「だろ?」 「でも…………」  気にしながらも素肌の上に学ランの上着に袖を通してみる。 「どう?」 「は?」 「もういっぺん聞く。どう?」 「どうって言われても……。とてもエロいと言いますか…………」 「でしょ? ホントはさ、これ着てるクロに抱かれたいんだけど、今日は止めとく」 「いや、てか研磨君。それ俺の学ランなんだけど……」 「うん」 「言ってることと、やってることがちょっと違ってない?」 「今日はクロの学ラン着たおれを抱いて」 「駄目っ。せっかく洗濯してもらったのに、ソレ、汚すわけにはいかないじゃんっ」 「汚さなければいいんでしょ?」 「皺になるし、第一乾いてないだろ」 「ちぇっ……」 「でももう少し着てて。ホントエロいから」 「でしょ?」  ふふふっと笑った研磨はしばらく素肌をチラ見せして相手の反応を楽しんだ。 「クシュン!」 「ほら、もういいから脱いでこっち来いって」 「うん」  いくら寒くない季節だと言っても少し濡れている洋服をいつまでも着ていると体に悪い。 もう一度クシャミをした研磨は急いで学ランをハンガーにかけると彼のいる布団に潜り込んで彼に抱き着いた。 「冷たっ!」 「へへっ」 「いつまでも遊んでるから……」 「じゃあ温めてよ」 「嫌だって言っても俺で温まってるくせに。もぅぅっ、冷てぇよ」 「ごめーん……。へへへっ、暖かいっ」 「ぅぅっ」 〇  翌日から翌々日にかけて。ほとんどの部員が学ランを持って来る中、リエーフだけがまだ学ランを持ってきてなかった。 「まだ期日じゃないからいいけど、忘れるなよ?」 「分かってます」  黒尾に言われてそう返事をしたものの理由までは言わなかったリエーフに対して夜久が突っかかる。 「俺はもう持って来たって言うのに、お前なんで持って来ないんだよっ」 「す……みません。あの……ちょっとズボンのほうの丈が短くて……今限界まで伸ばしてもらってるところなんです」 「えっ……。お前の足どんだけだよっ」 「すんませんっ」  ちょっと呆れながらも明らかに嬉しそうなのが見て取れる。研磨はそれを見てクスッと笑うとクロを見た。 「何ですか?」 「クロは直さなくても良かったね」 「これが普通ですよっ。てかお前こそ、またあらぬ妄想とかしてないだろうな」 「ナンデスカ。その妄想って」 「……」 「クロ、ちょっと欲求不満?」 「そんなことないよ」 「ふうん」  こんな公な場でそんなことを言ってクロを煽ってみる。研磨の笑顔は格別だった。 〇  文化祭までにもちゃんと部活はあって、準備は忙しかった。 特に食品に関しては腐らせるわけにはいかなかったので慎重だ。これは夜久とリエーフが責任者になって大量の品を調理室の大型冷蔵庫に保管する役目になっていた。  ふたりは皆がフットワーク軽く部活の柔軟から練習をしていると言うのに台車を押していた。今日は業者に頼んだ品が届く日だからだ。 「生クリームとか生の果物は絶対落とせないからな」 「そんなこと分かってますよ」 「特にバナナ!」 「分かってますって!」 「慎重に!」 「はいぃっ!」  アイスは当日届けてもらうようにしてあるので、とりあえずこれを運んでしまえば部活が出来る。 夜久は早く部活に戻りたくて仕方なかったが、リエーフのほうは夜久とふたりきりと言うこの空間をひたすら楽しんでいる様子だった。 「試食品、作るの参加しませんか?」 「だからお前は出来ないのに、すぐそんなことを言うぅっ!」 「だって味見は大切でしょ」 「大切だけどっ!」 「だったらやっぱり……」 「出来もしない奴が参加しても仕方ないだけだろうがっ!」 「だって味見……」  あんまりリエーフがグチグチ言うので、最終的に文化祭前日早くに部活を切り上げて皆で試食会を開くことになった。 「やったーーっ!」  それもこれも夜久の口添えがあったからだ。 「リエーフ嬉しい?」 「もちろんっ!」  提案は皆でしたのだが、クリームソーダはソーダに色をつけて出すやり方にすると赤・黄・緑・無色と四色展開出来ると海が口にする。 「おー、それいいな」 「後はコーラを入れて五色パターンになるけど、作る人大丈夫かな?」 「量が分かってれば大丈夫なんじゃないか?」 「そうそう」  裏方はスペース的にも狭い場所で物を作らなければならない。代わる代わる交代してやるつもりだから今から試しに作るために各自目の前にグラスが置かれた。 「くれぐれも言っておくが、この試食以外アイスは食べないように!」 「はいっ!」 「何色が一番人気なのかな……」 「普通はメロンソーダにアイスだから緑じゃないのか?」 「ぁ、でも今じゃ青とか人気みたいだけど、青ないな」 「いや、これ以上色を増やさないでくれっ」 「だな」 「だな」  色々と楽し気な会話が飛ぶ。 「裏で作るのはクリームソーダとパフェくらい。後は調理らしい調理はしないが、その中でもパフェはセンスが問われる。だから作る奴は限定される。もう交渉済だ」 「誰ですか?」 「海と山本」 「はいっ」 「一任していいか?」 「ああ。自宅でしっかりシュミレーション済だ。なっ、猛虎」 「とりあえずシュミレーションはちゃんと何回もして来ました」 「えええーっ! 海さんは分かるとしても、もうひとりが山本先輩、ですか?」 「俺にもちゃんとセンスはあるからっ! 少なくともお前よりはあるからっ!」  文句を言うリエーフに胸を張る猛虎。それ以上リエーフが文句を言わないのは、隣で夜久が腰のベルトをギュッと引っ張ったからだ。 「じゃ、今から海たちにはパフェを八個一気に作ってもらう。その間に他の奴らはクリームソーダを作ってみよう」 「はいっ!」  パフェ八個と言うのは、そうするとちょうど二人でひとつの試食が出来ることになるからだ。 その間に他の部員はクリームソーダを作るのにどのくらい時間がかかるかを確かめる。普段調理などしたことのない部員ばかりだから案の定ソーダはグラスからダバダバとこぼれた。 「ちょっ! お前、ばかっ!」 「勢いよく氷を入れるなって!」  そこここで怒号が飛び交う中、クリームソーダが作られる。 「こんなんで本番大丈夫か?」 「文化祭だからある程度遅くても許してもらえると思うけど、客の数にもよるよね。いっぱい来たらこっちが焦るだろうし」 「そうなんだよな……」  ポリポリと頭をかくクロに研磨は全然平気な顔をしていた。 「お前は平和そうだな」 「だっておれ、どうせ接客オンリーだろ?」 「俺もですけどね。肝心の物が出来なきゃ運べませんよ」 「その間はどうせ去年みたいに記念撮影になるんだろ?」 「それもそうなんだけどな」 「だからおれに今出来ることはないっ」 「随分男前ですこと」 「今年は学ランだからね」  研磨はそこで今日一番の笑顔を作った。それを見たクロは「よっぽど女装が嫌だったのかな……」と身を反らして両手を広げたが、肝心の研磨は海たちが作ったパフェを見て速攻で近づくと作った海を見てこう言った。 「海先輩、センスあるっ!」 「そう?」 「うん。食べていい?」 「いいよ」  はい、スプーンと海がパフェ用の長いスプーンを研磨に渡すと、今までガヤガヤしていた室内が静まり返る。研磨がスプーンで一口掬って口に運ぶのを皆して生唾を飲み込みながら見つめる。研磨は盛り上がっているアイスと桃缶の桃を一緒に口に入れていた。 「普通に旨い」 「まっ……まあ、そうだよなっ」 「アイスと桃缶だしなっ」 「しかしパフェの具合は見た目カッコイイぞ」 「どう。みんな、これでいいかな」 「いいと思う!」  一同一致で賛成の声があがる。そしてクロのgoサインで部員皆味見をしだしたのだった。 「うん。旨いっ」 「しかしこの底上げコーンフレーク。ちょっと量が多くないか?」 「やっぱりちょっと多いかな……」 「少し減らして桃缶のスライスを間に挟めばいいよ」 「そうすると、ちょっと触感変わるしな」 「俺たちみたいにガッツいてないだろうから、上手い具合に上のアイスが溶けてくるかも」 「いや、フレークはこのサクサク感が命だからな」 「それは好み」  しらっと研磨が一喝すると、作った海が「じゃあ、明日は一番上に乗せてある桃缶の桃から少しスライスしてフレークの間に入れてみよう」 「うんうん」とほとんどどうでもいい賛成の姿勢を皆が見せる。 何故なら皆明日は食べてなんていられないから今日さえ良ければそれでいいのだ。 「みんな、ちゃんとするっ!」  研磨が食べながらまたそんなことを言うと、「おうっ!」と雄叫びだけは一丁前な姿勢を見せたのだった。 それからはふたりでパフェの食べ合いになり、もちろん研磨はクロとひとつのパフェを口にした。 「クロの感想は?」 「ああ。単純に旨いな」 「お店で食べるヤツみたいに?」 「材料はほとんど一緒だろうからな」  文化祭なのでパフェなどは材料費ばかりかかってしまってほとんど儲けがない。それでもきっと目玉になるだろうから作らないわけにもいかない。 「明日表に立つ部員は、パフェ頼まれたら飲み物も勧めること」とクロが号令をかける。  何故なら飲み物が一番利益が上がるからだ。 「おうっ!」  一番大きな声をあげたのは、夜久と一緒にパフェを頬張っているリエーフだった。 ●  前日はうまくいくかどうか分からなかった学ランカフェも去年同様の盛況っぷりで滞りなく幕を閉じ、予定よりも多くの部活費用が稼げた。  研磨は予想通りの撮影三昧で、最後には顔がひきつるほど疲れていたけど気分はすこぶる良かった。そして昼間学ランで動くのは暑くてしんどかったが、文化祭が終わる頃には日も暮れて学ランを着ていてもでちょうど良くなっていたのだった。  一通りの片づけをして、後は明日にするとして、ひとまずの解散宣言をする。 「クロ…………。おれ、もう歩きたくない。笑いたくない」 「分かった分かった」  甘えであるとしても譲る気はなかった。 文化祭が終わって帰途に着く時、研磨は学ラン姿のままクロにおんぶされての家路となっていた。 「…………おれ、今日頑張ったよね?」 「ああ」 「顔がヒクヒクしてるっ…………」 「後でマッサージしてやるよ。まずは風呂に入ろう」 「うん」  夕食を取って一緒に風呂に入りながら顔のマッサージをしてもらう。 大変だったのはクロだって同じなのに、あえてそんなお願いをしているのは好きを確かめるために他ならない。 湯船で一方方向に向かいながらふたりして安堵の息をつく。 「今日のクロ、カッコ良かった…………」 「お前もな」 「もう来年は見られないからホント良かったよ」 「ぇ、お前そんなこと考えてたの?」 「うん。文化祭終わって体育祭終わったら学校の空気変わるじゃん?」 「まあな。季節も季節だしな…………」 「どんどんクロと一緒にいられる時間がなくなってくの分かってるし……」 「寂しいこと言うな。隣同士なんだから大丈夫だ」 「うん。おれは大丈夫」 「……俺が、大丈夫じゃないってことか」 「クロ、おれがいないと働き過ぎて動き空回りするから心配」 「うーーん…………」それには異議が唱えられない。  唸るクロを振り向くと、研磨はやっと本題を口にした。 「ねぇ! 今日はもう学ラン着ても大丈夫だよね?」 「ぇ、もう文化祭過ぎたのに?」 「じゃなくて、もう洗いに出すだけだから学ラン姿でしたい」 「……研磨君エッチ」 「クロだってしたいと思ってるくせに」  でしょ? と問うと困った顔のクロが答える。 「……はい。してみたいですっ」 「だよね」 「でも、学ラン汗で臭いぞ」 「ぁ、そっか……」  風呂に入ってせっかく綺麗な体になるのに、それからまた汗臭い学ランを着るなんて嫌だなと言うのがふたりの意見だった。 ○  結局学ランは帰ってすぐ洗いに出され、普通に風呂に入ったふたりは普通に研磨の部屋で髪を乾かし、宿題をして、ついでにベッドに潜り込んで後は寝るだけとなっていた。 「あのさ、学ランでのエッチはちょっと無理そうなんだけど」 「うん。今着てもまた湿ってて冷たいしね」  何より疲れているから余分なシチュエーションはいらないと思っているふたりだった。 「このまま寝るか?」 「うん……。ちょっと寝てから考える……」 「ああ、疲れたしな」  言うが早いか、ふたりはあっという間に眠りについてしまった。そしてハッと目覚めると時間はもう明け方四時になっていたのだった。 回りはまだ静まり返っていて研磨はクロに抱かれていた。 「クロ」 「……」 「クロ……。起きて」  グイグイ相手を揺さぶるとやっと深い眠りから覚める。 「んっ……んーーー。なに……?」 「ちょっと寝るつもりだったのに、気が付いたらもう四時だよっ」 「ぇ……もう四時か…………」  四時とは言っても夏ではないのでまだ明るくはない。ただもう少しすると新聞屋が来るだろうな……と言う時間ではある。  研磨はまだ半分眠っているクロにしがみつくと、おねだりのハグとキスを繰り返した。 「ねぇ。ねえねえ…………」 「……」 「早くしないと明るくなっちゃうよ」 「……うーーーんっ」 「……クロ。おれ言ったよね、学ラン着てしたいって」 「うんっ…………」 「今しかないじゃん!」 「えーーー」 「今なら乾いてるだろうし、汗臭くないからいいと思うっ!」 「研磨君はやる気満々なのね…………」 「うんっ。学ラン姿のクロの……おしゃぶりしたいな」 「ぇっ…………!?」  なんて破廉恥なことを言うんだ、とびっくりして寝ていた眼がガバッと開く。 「ビックリした?」 「研磨がそんなこと言うなんて……」  と言うことで、やっと本気になったクロを起こすとふたりしてちゃんと学ランを着込む。 「タスキして」 「ぇっ……タスキまでするのか?」 「カッコイイじゃん」 「いや、邪魔じゃないか?」 「邪魔……?」 「邪魔だぞ。これからまた脱ぐって言うのにさ」 「まあ、そうだけど…………。けど基本クロはそんなに脱がなくても大丈夫じゃんっ」 「ぇっ……」 「おれはしないけど、クロにはして欲しいって言うかさ。カッコイイからっ」 「ぅ、うーん…………」  応援団用のタスキは身長の倍はあるんじゃないかと言うくらい長いので、それが風に靡くと凛々しいこと間違いない。 でもこの場合、風は靡かないので要らないと言われればいらないのだが、研磨たってのお願いでクロだけタスキをすることになった。 「付けたぞ」 「ほら、やっぱりカッコイイ」 「そうか? でもこれはこういうことに使うんじゃないからなぁ…………」 「いいからいいから。じゃあ、そのまま後ろで腕組んで立って」 「……こうか?」  後ろで腕を組むとどうしても脚を広げる。 研磨はそんな彼の胸に顔を埋めると抱きついて徐々に下へと移動していった。そして跪くと学ランのズボンの前立てを開いてまだ萎えているソレを取り出すと口に含んだ。 「けっ……んま…………!?」  自ら進んでそんなことをしたことはなかった。だけど彼の学ラン姿を見るのはこれが最後だろうな……と思うと、どうしてもその姿でして欲しいと思ったから積極的にもなると言うものだ。 「黙って」 「わか……った……」  研磨は彼のモノをしゃぶって吸って早々に勃たせる努力をした。 「んっ……んんっ……んっ」  努力とか言うのも大袈裟なくらい短時間でクロのモノは見事に変化していた。 「け……んま。それ以上はもぅ…………」  出ちゃう、と言われて口を離す。そして研磨は間髪入れずに下半身を勢いよく脱ぎ去ると、彼に尻を向けて四つん這いの姿勢を取って振り向いた。 「来て。いいよ」 「ぇ、でもお前……全然準備もしてないのに…………」 「我慢、出来るからっ」 「なわけねぇじゃんっ」 「でも今欲しい。すぐ欲しいからっ」 「入れれませんっ。第一勃ってるの俺だけだし、お前は萎え萎えになっちまうかもしれないだろ?」 「でも時間ないもんっ」 「切れ痔になりたいのかよっ」 「っ…………」  それでも譲らない研磨に対し、クロは研磨の股にジェルを塗りたくった。 「やっ……ヌルヌルして気持ち悪いっ」 「最初だけだよ。最初だけ」 「んっ……んっ……んっ」 「ほら、だんだん気持ち良くなってきただろ?」 「ぅんっ……んっ……ん」  研磨は必要以上にジェルを塗られてモノや袋を揉みしだかれると、そのまま後ろも解されて小さく喘ぎ声をあげていた。 「ぁっ……ぁっ……ぁっ……んっ」 「どう?」 「……どぅって……? ぃぃよっ……。いいっ……」 「ヌルヌルは嫌だけど、気持ちはいいだろ?」 「ぅんっ……。ぃぃっ……。ぃぃからっ……も……きて」 「もう少し楽しんだらな」  グググッと長い指を根本まで尻に入れられると「あっ……!」と身を震わせる。 指の本数を増やされて十分に緩くなるまで出し入れを繰り返されると研磨は腰をくねらせた。 「ぁっ……んっ! ぁんっ! ぁんっ!」  裾の長い学ランはどうしてもそれを捲らないと行為は出来ない。 ジェルで学ランを汚すわけにはいかなかった研磨は必死になって裾を掴んで快楽に耐えたのだがクロの指は悪戯で、中をなぞられると鼻息荒く腰がまたくねった。 「やっ……ぁっ……ぁっ……んっ! も……入れてよっ…………!」 「俺の指と俺のモノとどっちが欲しい?」 「そ……んなのっ……決まってるじゃんっ……!」 「どっち?」 「本物だってばっ!」  顔を近づけて楽しげに聞いてくるクロを「いじわるっ!」と叩く。 「痛っ……。研磨、もっと小さい声で。でないと見つかっちゃうからっ」 「クロが、いじわるなのが悪いっ」 「はいはい、すみませんね」 「あっ……! んっ!」 「もうちょっとグチュグチュ言わせてから突っ込むから」  我慢して。と再び耳元で言われると同時に出し入れが加速して唇を噛みしめる。 「クロのばかばかばかっ……ぁっ……んっ! んんっ!」  爆発寸前の状態になってようやく本物が入り込んでくる。 「ごめんっ……!」 「ぁっ! ぁっ…! ぁぁっ……んっ!」  何度も出し入れされて今までいたずらに触られていた研磨は、あっという間に果ててしまった。 だけど入れたばかりのクロはまだ然大丈夫で、それに付き合う研磨は内壁を擦られるたびにゾクゾクッと身を震わせた。 「ぁっ……ぁっ……ぁっ……んっ、んっ、んっ」  出し入れされるたびにどうしても位置がずれてくる。 クロはそれをしっかりと研磨の腰を掴んで回避していた。 四つん這いのまま後ろから突っ込まれて喘ぐしかない研磨だったが、ここで肝心なことに気付いてしまった。 それは「クロの学ラン姿、ロクロク見れていないじゃん!」と言うことだ。 「ちょっ、待ってクロっ! 待って!」 「ぇ、何?」 「クロの学ラン姿、おれまだよく見れてないよっ!?」 「……じゃあ、こっち向くか?」 「ぅ……ぅん…………」  繋がったまま上手に体を反転させると向かい合う形になる。 「どう。満足……?」 「うんまぁ…………」 「何、その不服感アリアリな顔」 「だってもう後半じゃん。おれ、もう出ないし勃たないよ」 「俺も今現在、とても中途半端なんですけど……?」 「ばか」 「……」 「クロ。学ランの前ボタン、外してみて…………」 「ぇ、今から?」 「そ、今から。すぐ」 「だからタスキはしなくて良かったんじゃないか?」 「だってちゃんとした姿、見たかったんだもんっ」 「うーーーんっ」  そんなことを言われては怒るに怒れない。 クロは口元を緩ませながらも「どうしようかな……」と気を持たせる顔をした。だけど結局は脱ぐ。脱がせるっ。 研磨は彼が脱ぐまで次の行動に出る気にはなれなかったからだ。 「ずっとこのままでいるつもり?」 「いやいや」 「じゃ、さっさとタスキ取って。……いやらしくボタン外してみて」 「……ホストみたいに?」 「うんっ。見たことないけど、そんな感じで」 「では」  研磨の指示通り、クロは結んだタスキをスルッと引き抜くと、ゆっくりとボタンを外しにかかった。 「……」 「ひとつ……ふたつ…………」 「…………」 「研磨君の好きな俺は……どんな俺…………?」  艶っぽく言いながら徐々に素肌を晒す。研磨はそれを下からうっとりとした眼差しで眺めていた。 「どう…………?」 「好きっ」  ボタンが全開にされたそこには少し汗ばんだ逞しい筋肉があった。 普段から見ているはずなのに、それが今、自分だけのものだと思うと単純にすごく嬉しい。 研磨は目を細めてそこに手を伸ばしたのだが、微妙に思うところには届かない。 それを見かねたクロが身を屈めて研磨の手を自らの肌に持っていく。ついでに唇と唇を重ねるとキスをしてきた。 「んっ……んんっ……ん」  舌と舌を絡ませて角度を変えながらねっちょりとしたキスをする。 研磨は彼の汗ばんだ背中に手を回しながら彼に突かれてして小さく喘ぎ声をあげ続けた。 「ぁっ……! ぁっ……! ぁっ……!」  腰や脇、乳首を指の腹でなぞられながら突っ込まれるのは我慢出来ないほどの快感だ。それに今日はいつもの格好じゃないのが加わってさらにゾクゾクしていた。 「クロっ……クロっ……ぅぅっ……」 「こんなに我が儘な研磨、久しぶりだから萌えるよっ」 「ばっ……か。ぁっ……ぁっ……ぁっ」  そしてしばらくすると研磨の中にクロが欲望を爆発させる。それを全身で受け止めて、やっとふたりとも満足したのだった。 〇 「でも、さすがにこれはいただけないよね」 「ああ。このまま返すわけにはいかないし、もう一度洗ってくださいと言うわけにもいかないな。どうするっ…………」  楽しんだ後には必ずしっぺ返しはくる。 ふたりはいい気になって学ランでしたいことをしてしまったために、今窮地に立たされていた。 「一日くらい遅くなったっていいじゃん」 「……しかしリエーフの手前やっぱりちゃんと翌日には持っていかないと」 「それはそうだけど……」  皺になってしまい、変な汁がついた跡、それに汗臭い。 これはどう見てもいただけない状態の学ランを前に考えていたふたりだが、時間は止まってはくれない。 刻々と登校時間は迫るし、その前にあまりに起きるのが遅いと母親が起こしにくる。 これを回避するにはどうしたらいいか…………。 「朝ごはん食べてる暇ないよ。もう出るっ」 「ぇっ、出てどうするんだよっ」 「コインランドリーで洗うだけ洗って部室に干しておこう」 「…………お前、案外ずる賢いな」 「クロはそのくらいのこと思いつかないの?」 「悪かったな。俺は、いい子だからさ」 「嘘つきっ」 「ぇ」 「さっ、支度しよっ。朝練あるって言おう」 「研磨君…………」 「それ以上、もう言わなくていいからねっ」 「……じゃ、賢いね」 「うんっ」  家の近くのコインランドリーを使うとすぐにばれてしまうので、わざわざ学校近くのコインランドリーを選択する。 二人分の服を洗濯機に放り込んでお金を投入するとやっとちょっと安心する。 それが終わるまで誰かに取られるわけにはいかないから、ひとりが見張りをして、もうひとりが朝食の買い出しに行く選択をすることになる。 「ウォッシャブルって言っても、こんなふうに洗って大丈夫なのかな…………」 「やってから心配するのかよっ」 「だってしょうがないじゃんっ。あのカビカビを母ちゃんに見せるわけにはいかないだろ?」 「それはそうだけどっ」 「……クロ、そこのコンビニでパンとジュース買ってきて」 「ああ……?」 「カビカビは絶対クロのだから、クロの奢りだからっ」 「……ああ?」 「クロの奢りっ」 「分かった分かった。何かご希望は?」 「パンは総菜パン、後飲み物は暖かいコーンスープで」 「御意。……でも後で『お茶欲しい』とか言うなよ」 「言うかも」 「……じゃ、俺がお茶ってことで?」 「うんっ」 「もぅぅっ。ったくお前はよ…………」  ブツブツ言いながらもちゃんと買い出しには行ってくれる。 そんなクロの姿を丸椅子に座りながらぼんやりと眺める。 「クロってホントおれのこと好きなんだからっ」  本当は自分のほうが彼を好きなくせに素直にはなれない。 「本人いないんだから言わなくていいじゃんっ…………!」と、ニコニコしながら遠くの彼を目で追ってそんなことを口走っていた。 ○  数十分後。無事に学ランを洗濯し終えたふたりは、コソコソと部室に洗濯物を干すと昼には乾いていてホッと胸を撫で下ろした。  だがその数時間後。案の定な出来事に苦笑することになる。 「お前、次の日には持って来るようにって言ったよなっ!?」 「すみませんっ!!」 「どうして忘れたっ。今から取りに行くかっ!?」 「いや、明日には必ずっ!」 「…………」 「俺も忘れた。ごめんっ。明日にはちゃんと持ってくるからっ」  許してくれと謝ったのは夜久だった。最初に平謝りしていたのは、もちろんリエーフだ。 「お前ら…………」  まさか「カビカビだから出すに出せませんっ! とか言うんじゃないだろうなっ」と思ってはみたものの、とても聞けやしないクロ。 それを横目で盗み見ていた研磨は、『同類っ…………』と口の中で小さく呟いたのだった。 終わり 20211013 タイトル「文化祭は学ランパフェで」

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