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第176話 光生side

「ふぁ〜、よく寝た、、」 目が覚めると保健室で寝ていたことを思い出し、ベッドから降りて先生のところへ行けば俺が安心する顔でまた笑ってくれる。 「あら!やっと起きたのね!」 窓の外をチラッと見れば部活を終えた人たちが帰っていて長い時間寝ていたことに気づく。 「……ねぇ、そういえばさっき誰か来た?」 「うふふっ、誰も来てないわ!」 先生はなぜか嬉しそうに笑っている。 「そっか。先生ありがとう、またね。」 誰かに頬を撫でられた気がしたけど俺の勘違いか。起きる前に涼の夢を見たからもしかしたら来てくれたのかと少しだけ期待してしまった。それでもなんだか温かくて優しい感触が残っていて不思議だ。ぼんやりと頬を触りながら帰っていれば後ろから俺の天敵の声が聞こえてきた。 「あれ?椎名くんだ!」 振り返れば星くんがいて愛想笑いを挨拶代わりにしてスルーすれば隣を歩いてくる。 「なに?俺と話すことなんてないでしょ?」 「椎名くんは相変わらず俺に冷たいなぁ〜、そういえばさくらちゃんにキスマークつけたのって俺に見せつけるため?」 「星くんだけじゃなくて俺以外の人が近づかないように見せつけてんの。」 「あははっ、相変わらず独占欲強いね!」 なにがおもしろいのか大きな声で笑う星くんに腹が立つ。ていうか涼と一緒じゃなかったのか。 「さくらちゃんなら先に帰っちゃったよ!」 俺の考えていることがわかるらしい星くんはニコニコと笑いながら涼の名前を口にしていてそれさえもイラついてしまう。 「さくらちゃんって無意識にくっついてくるでしょ?あれすっごいかわいいよねー!」 「……は?」 俺が心配していたことをやっぱり無意識にしている涼を怒りたいけどわざとじゃないから怒れないしそもそも俺が怒っていいのかすらわからない。 「そんな怖い顔しないでよ!ただゲームしてただけだから!」 「星くんって涼よりゲーム上手でしょ?」 「ふふっ、それはどうかな?」 家に誘う口実なのはわかっている。それを涼には隠しているのも俺にはバレても気にしていないところも全てがむかつく。 「昨日家に来た時にさくらちゃん高いところ苦手ってエレベーターで俺の腕つかんできたり、えろい話したら顔真っ赤にして照れたりしてすっごいかわいかったんだよね!」 「だから?それがなに?」 自慢してくる星くんにムキになれば思うツボだろうしそれに余裕がないなんて知られたくなくて気にしていないフリをする。 「ふふっ、別に!あんな顔を毎日見られる椎名くんが羨ましいなって思っただけ!」 「ふっ、羨ましいでしょ?星くんが見たくても見られない顔も聞きたくても聞けない声も全部俺だけには見せてくれるし聞かせてくれんの。」 結局ムキになっている自分に呆れるけど星くんが挑発してきたんだから仕方ない。 「でもしばらくそんな姿見せてくれないんじゃない?」 いつでも冷静な星くんは俺の嫌味になんて全く反応しない。 「さくらちゃんと喧嘩してるでしょ?」 どうやら星くんは勘が鋭いらしい。 「別にしてないけど。」 ただ少し気まずくなっているだけで喧嘩ではない。だけどそんなことを知られたくなくて強気な態度を取るけどきっと星くんにはバレているのだろう。 「そう?ゲームした時いつも飲むリンゴジュースじゃなくてカフェオレ選んでくれたから何かあったのかなって思ってたけど俺の勘違いか!ごめんね、変なこと言って!じゃあまたね!」 そんなことを言い残し帰って行った星くんになんだかモヤモヤしてくる。たかが飲み物くらいでとは思うけどなんだか俺のことを選んでくれなかったみたいで悲しい。 「……高いところが苦手なんて知らなかった。」 俺の知らない涼を星くんが知っていることがどうしても嫌だ。それにえろい話をしたなんてどんな内容なのかも気になるし考えることが多すぎてこのままでは頭がパンクしてしまう。 「……涼は今ごろ何してんだろ、、」 真っ暗になってしまった空を見上げてみれば今の俺の心と重なって見えてどうしようもないくらい苦しくなる。

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