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第2話 捕食される退魔師 2
その夜、有坂 一希は淫魔の妖気を感じて郊外の廃墟となったホテルへ入っていた。ここ数日、夜間に限り淫魔に襲われた人々の話を絶えない日々が続き退魔師である一希が調査を命じられた。
木々が生い茂るホテルの正面玄関に到着した一希は、妖気の残渣がないか調べていた。
「(妖気が・・・)」
確かに痕跡があった。しかもこれは人間の体液の匂いなのだろうか。生々しい匂いが残されていた。
「気持ち悪いな。人間ってこんな臭いするのか?」
鼻にまとわりつくこの生臭な匂いが妖気の残渣を感じ取るのを難しくさせていた。
「(これだけ生臭い匂いがするのは、かなりの数がここに連れて来られたって事か)」
だとすればかなり強い妖気をもつ妖魔の可能性がある。または複数の淫魔か。
退魔師仲間の照史から、最近は淫魔の出現率が以前より上がっているという報告を受けたばかりだった。照史が倒した淫魔の中に、自分達の王の番となる人間を探していると死ぬ間際に言っていたと聞いた事かあった。つまり、王の花嫁探しで人間達を襲っているという事だ。ならば王を倒さなければまた関係のない人間が襲われる。そうなる前に倒さなければならない。
ふと、一希は思った。7年前に一度だけ、明らかに強い妖気を持った淫魔を見たことがあった。
退魔師になりたてだったあの頃、同期の照史と始めて淫魔を倒した際、黒髪の腰まであるサラサラな長い髪に尖った耳、サファイアブルーの瞳を持った美しい淫魔を見た。淫魔も恐らくこちらを見ていたと思う。視線が合った。すると一希は後戻りできない事を感じる程の恐怖と見つめられて気分が高揚したのを覚えたのだ。
あんな美しい魔物は人生で見た事もなかった。
だから、淫魔出現の情報を聞いた時まさかその淫魔ではないかと恐怖と胸の高鳴りを覚えた事もあったが、全く会う事もなかった。数年は経過したが正直今の自分の霊力で対抗できるかと言えばすぐ返り討ちに遭うだろうと予想がつく。それだけ、当時受けた淫魔の妖気は計りされなかった。
正面玄関を通りホテルの奥に移動した一希は、ふと足を止めた。
これは、淫魔の妖気ー!
察知した一希は奥にあるラウンジへ急いだ。このホテルは数年前、経営陣の不祥事を受けて廃業となった。そのまま買い手が付かず、放置され廃墟のようになってしまったという。しかし、元の構造は建築物として基盤がしっかりしており人ならざる者の隠れ家としては格好の場所だ。
ラウンジの扉が見え、一希は勢いよく扉を開けた。中には、人間なのか、一人の男が立っていた。だが彼からは淫魔の妖気が感じ取れる。男も一希に気づいて美しい笑みを浮かべた。
「待っていたよ退魔師」
対峙した一希は、目の前の彼から発する強い妖気に恐怖と危機感を覚えた。漆黒の腰まである長い髪は、暗闇に同化しているものの、夜風に揺らめく。
「(まずい・・・!)」
この淫魔を見て、一目で分かった事がある。
確実に強い。自分一人では太刀打ちできない。
一旦距離を取ろうと一希は扉から後退する。しかし淫魔も逃がさないと後を追う。
「フフ、どうしたの?」
淫魔の美しい笑みに恐怖を感じ、彼からなるべく距離を取ろうと走ったが、ホテルの食堂に到達した一希は背後から追いつかれてしまった。
「逃がさないよ。忘れたかい?7年前、一度だけ出会っているんだが」
「何を、言って・・・っ!?」
暗がりでわからなかった淫魔の全貌が、確度が変わり光が反射した事で一希にもわかった。仕立てのいい黒いスーツに身を包んだ美しい黒髪の腰まである長い髪、淫魔特有の尖った耳、そして最も印象に残っのは美しいサファイアブルーの瞳。
「お前・・・!」
あの時の、淫魔ー!
自分が最も恐れていた淫魔そのものだった。
距離を縮められた一希は、持っていた短剣の鞘を抜き、淫魔に刃先を向ける。これは対淫魔用に先輩退魔師である速水が作った破邪の霊力が込められた短剣で中級クラスの淫魔ならこれで退治できる。しかし、目の前の強い妖気を持つ淫魔に敵うかどうか分からない。
刃先を向けられた淫魔はすっと目を細めた。
「なるほど。その剣が我が部下を消滅させたというわけか」
確かにこの剣で何人もの淫魔を消滅させてきた。皆、人間を襲い人間の生命力を吸いとってきた者達だ。
「あぁ、そうだ。これはお前のいうように、何人もの淫魔を殺してきた。次はお前の番だ」
これで勝てるか分からないが、手傷を負わせて、その間逃げる時間を稼げばいい。意を決した一希は、目の前の淫魔に向けて突進した。
しかし淫魔は、素手で剣の刃先を受け止めそのまま一希の手に手刀を叩きつける。
「う!」
怯んだ隙に短剣を落としてしまい、すぐに両手を淫魔に掴まれてしまった。
「しまった!うわっ!」
両手を掴まれたまま、抱きしめられる形で腕の中に封じ込められる。
「くそ、はなせ!」
力が強い。もがけばもがくほど、逃がさないというように強い力で一希の動きを封じ込める。
「や、やめ・・・!」
このままでは殺されるー!
そう感じた途端、首筋にくすぐったさと生暖かさと背筋のゾクゾクを感じた。
淫魔が、俺の首筋を舐めている!?
生暖かさは淫魔の舌で、範囲を広げて頸まで舐めて来る。
「やめ、やめろ・・・!は、はな・・・!」
かろうじて動ける両手で淫魔の頭を離そうとしたが、離れるどころか今度は淫魔に頭を両手で固定された。
「な、何、っ!?」
一希は驚愕した。
淫魔の口が、自分の唇を覆っている。まるで、淫魔にキスをされているかのように。
さらに淫魔は舌を一希の口腔内に侵入させ、ジュル、ジュルと自分の唾液を一希に送り込んでいる。
「ま、は、あぁ・・・」
足がガクガクする。全身の力が抜けていく。いつの間にか淫魔が一希の腰を支えている形となり、淫魔に密着するように淫魔の唾液を屠る。
「ん、んっ、ふっ・・・」
もっと欲しい。
甘くて、いい匂いがして、すごく美味しい。
一希も淫魔を求めるように舌を絡ませ、唾液を吸い取る。
ふと、一希は思い出した。
自分を退魔師としてスカウトした速水に聞いたことがある。淫魔の体液は人間の理性を無くし、ひたすら快感を求めて性衝動を高めていく。そして淫魔は気に入った人間に体液を与え続けて人格を崩壊させ、やがて自分の性奴隷に堕としていき、性衝動が最高に達したとき生命力を吸い取るのだと。
今までそれでやられた人間はたくさんいた。助けてもあの淫魔との交わりが忘れられず、自ら性衝動に走る者もいた。自分の不甲斐なさを嫌でも自覚させられる。望んでもいないのに、自慰をしなければ身体を襲う渇きに苦しまれるという。
でも、今なら分かる。なぜ淫魔の体液が理性を無くさせていくのか。
淫魔の体液ってこんなに美味しいんだ。
もっと欲しい。もっと舌で吸い合いたい。甘い。甘くて、気持ち悪さなんて感じない。目の前の淫魔は男だ。男にこんなに深いキスをされても嫌な気持ちが湧いて来ない。
一希はさらに淫魔の体液を求めて自分から舌を絡めていく。
一方で目が虚ろな一希を見て、獲物が堕ちた事を悟った淫魔は、一度口を離しゆっくりと一希を地面に寝かせる。
「あっ・・・」
いきなり舌が離れて一希は物欲しそうに淫魔を見つめるが、すぐに我に返り淫魔を睨む。すると、クスクスと淫魔は笑った。
「可愛いね、私の与えた体液にこんなに物欲しそうな顔をして。それじゃあ」
淫魔は一希のズボンと下着を素早く剥ぎ取った。やはり股間の一希自身は屹立し、鈴口から透明な体液を垂らしていた。
「まずはココを頂こうかな」
淫魔は一希の勃起したペニスに口をつける。粘液とざらざらした舌の感触は、さらに一希の快感を高めていく。
「はぁ、ああぁ・・・」
淫魔の口腔蹂躙は巧みだった。
舌の感触が、ペニスだけでなく、裏筋から陰嚢に向かってビクンビクンと刺激が送られてくる。さらに陰茎に舌を絡め、丁寧に体液を塗り込むよう舐めていく。
このままじゃ、自分も淫魔に堕とされる。駄目だ。何としても逃げないと・・・!
ペニスに直接送られてくる刺激に身悶えながらも、僅かでも抵抗の意思を示すように淫魔の長い髪を引っ張った。引っ張られた事に気づいた淫魔が口腔蹂躙を中断し、一希と視線を合わせるように顔を上げる。
「まだ抵抗する気かい?確実に君を頂く為にあれだけの体液を与えたのに」
「ふ、ふざけるな・・・!俺を、どうする気だ」
快感の余韻が残るせいか、髪を引っ張っる手にも力が入らない。
「#番__つがい__#にする」
「つ!?」
一希は驚愕した。
今、こいつは何と言った?
「退魔師は、淫魔の王の番に代々人間が選ばれている事を知っているかい?」
「つ、番って・・・あ!」
再び、ペニスにあの舌の快感が纏わりつく。
「淫魔族の王は番とセックスする事で自らの魔力を高める事ができる。しかしこれは、王が直接選ばなければ意味がない」
一希は速水からそんなこと聞いた事なかった。淫魔の体液が人間の理性を失わせ、性衝動に走る事しか知らなかった。
「7年前だったかな。始めて君を一目見た時の衝撃は忘れられなかった。潜在的に高い霊力を秘めているのはわかったが、それを超えて極上の血の香りに甘い体液の味、そしてその美しい青い瞳に衝撃を受けた。久しぶりに遭ったが、あの頃と違い霊力も強くなった。今こそ魔界に連れて行く時だと思ったよ、ずっと会いたかった」
淫魔の口腔蹂躙に刺激されたペニスはビュン、と口腔内に精液を排出した。排出したと同時に一希に気怠さと眠気が襲う。
「名前は?」
朦朧とした意識の中、一希の名を促すのが聞こえてきた。でも言えない。言えば、淫魔の奴隷として囚われてしまう。
しかし一希の口が淫魔に応えるよう開いた。
「一、希・・・」
そのまま、一希は淫魔の見ている目の前で自失してしまった。
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