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第46話
「お前のせいじゃないよ、マル。これは俺が望んだことで、ただのエゴだ。俺が、これ以上お前なしじゃ生きられないからだよ、マル。ロボットだとか人間だとか、関係ない。第一、俺たちの何が違う? 生物と機械だからか? そんなものくそくらえだ。――お前だからだ、マル。お前を愛している。頼むから、俺と一緒に生きてくれないか?」
崇嗣さんと一緒に? 一緒に生きる?
自分を見つめる崇嗣さんの真剣な表情に、胸が震える。マルがいつも心の中で密かにきれいだと思う黒曜石の瞳が、これまで目にしたことのないほど真剣な光を宿している。自分の言葉を待って、不安に揺れているのを目にした瞬間、マルの中で幸福な何かが満ちあふれるようにきらきらと弾けた。
そのとき、時計の針がぴたりとはまるように、どこかでカチリと音が鳴った気がした。
空と大地がひとつに溶け合うように、世界中のあちらこちらで、青い花が一斉に開く。希望に満ちた花のひとつひとつは、これまで彼らの中にひっそりと眠っていたもの――そう、ロボットの自我と呼ばれるものだ。
目には見ることのできない、けれどそれを知る前と知った後では明らかに違う、決定的な変化が息づくように自分の中にも確かにある。まるで全身を雷に打たれたような衝撃がマルを襲っていた。
「マル?」
マルは泣いていた。崇嗣さんの胸に縋りつくように、自分の中にある思いを叫ぶ。
「私も、私も崇嗣さんと一緒にいたいです。あ、あなたを、愛しているから……!」
「マル……」
マルを見つめる崇嗣さんの瞳に、光が灯るように喜びがあふれる。崇嗣さんの手がマルの頬に触れた。口づけを交わし、愛おしむように額を合わせたまま、互いに見つめ合う。
『おーい、いちゃつくなら、他人の目が触れないところでやってよね。まったく見てらんないよ』
ヴィオラは呆れたように呟くと、恋人たちをその場に残して部屋を去った。
革命的とも呼べるその事件が起きたとき、人々は初めその事実を受け入れることができなかった。それまで人間から一方的に搾取される側にすぎなかったロボットの中に、眠っていた意識が目覚めたのだ。
あらゆる場所で諍いが起き、大小さまざまな事件が勃発した。しかしその調停役として入ったのが、何を隠そう最初にアンドロイドをこの世界に広めることになった大企業REX社だった。
人間もロボットも関係ない、すべてのものが自由を有し、幸福になる権利を持つ社会――。のちに新世界と呼ばれる時代の誕生である。
了
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