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第1話
ゆるり、ゆらり、ゆらゆらと。
オレンジ色の光が淡く夜の闇に溶ける。
まるで何かを探すように炎が揺れ、どこかを求めるように淡く輝いている。
本物と見紛うほどのランタンの炎。
くり抜いたカボチャの形をしたランタンにも炎は灯されていたが、きっと生のカボチャではなくプラスチック製だろうし、中に灯されているのも蝋燭ではなく蝋燭そっくりに作られたLEDライトだと洋館を訪れた青年は思っている。
趣向を凝らして大きな洋館で行われるハロウィンイベントは、当然のことながら火気厳禁で本物の蝋燭を使用するわけにはいかなかったのだろう。
それでも鄙びた場所にある洋館を密かに借り切って行われる豪華さには心が踊るし、自分の性癖に合致したイベントは趣があってたまらない。
参加者のみが知るイベントの内容は悦楽と背徳感に溢れ淫靡だ。
貸し切った洋館では誰もが正体を隠して仮装する。そこに規律も理性も必要なく、あるのは退廃的な享楽に塗れた快楽だけ。
イベントの参加者に定められたルールは三つ。
一つは仮装した姿であること。
一つは求められれば拒んではいけないこと。
最後の一つは一夜の夢であることだ。
ハロウィンの夜に行われる二桁の人間が入り乱れる、洋館を借り切った仮装乱交イベント。
ネコ側はすべて悪魔か小悪魔の扮装に限定し、タチ側は自由という偏ったスタイルが明記されている。
それが今夜の趣旨だった。
実里(みのり)がここに来たのは、昔付き合っていた彼氏に誘われたからだ。
体の相性は良かったが、別れの理由は遠距離になって会えなくなるという理由だった。残念ではあるが、もともとセフレに近い関係が解消されるだけで、険悪な状態で別れたわけではなかった。
音信不通だった元カレから二年ぶりに連絡があってイベントの趣旨を知り、実里自身の享楽的な性格から面白そうだと参加を決めたのだ。
都心から離れた、田舎と言っても差し支えのない洋館を前に実里は喉を鳴らす。
洋館の手前には大きなキャンピングカーがあり、そこで衣装に着替えるのだと元カレからも聞いていた。
今の実里は普段の茶髪を真っ黒に染め直し、レザー製のセパレートタイプの衣装を身に着けている。
胸だけを覆うトップスの背中側には小さな蝙蝠の羽、下半身はマイクロホットパンツに槍のような尻尾という、ハロウィンの仮装の中でも分かりやすい小悪魔の装いだ。
もともとが色白の目元へ深い隈を描き、唇は紫色の口紅、爪は黒のマニキュアを施せば、中性的な実里には廃退的な艶かしさが生まれる。
黒く染めた爪で骸骨をモチーフにしたノッカーを鳴らせば、来客を知った古びた扉が雰囲気たっぷりに重々しく開かれた。
扉の向こうから現れたのは、燕尾服に白い手袋を着けた長身の男だった。
いかにも執事と言った風体の男で、頭部を見ればそこにあるのは人の顔ではなく、目と口の形にくり抜かれたカボチャのお面だった。
ジャック・オー・ランタン。
ハロウィンの象徴とも言える仮面がそこにあった。
「……えっと、Trick or Treat?」
符丁代わりに言えば、仮面なのにジャック・オー・ランタンはひっそりと笑った気がした。
「ようこそお出でくださいました、お客様。私めは現世と幽世に狭間にある洋館の管理人ジャックと申します。なにとぞ夜明けまでよしなに」
まんまの名前だなと思う実里の前で、ずいぶんと芝居がかった口調と大振りな動作でジャックは恭しく頭を下げる。よほど精巧に作られているのか、ジャックのカボチャ頭は大きく動いても微動だにしなかった。
「ささ、お客様。すでに他のお客様はお楽しみの真っ最中です。当館はどの場所でもどの部屋でも足をお運びになって頂いて構いません。ですがお客様は麗しい飴、甘い甘いキャンディーにございます。しゃぶられ、齧られ、飲み込まれても致し方ないとお思いくださいませ」
ジャックが大仰な所作で体をずらせば、玄関ホールですでに生々しく絡み合う男たちがいた。
逆さまに吊られた悪魔が吸血鬼の陰茎をしゃぶって高校の表情を浮かべていた。悪魔の尻から生えたアナルパール付きの尻尾をズボズボとここまで音が聞こえるくらいに激しく出し入れされている。
また湾曲して二階に続く優美な手摺を跨いだ小悪魔は、飴色の手摺に股間を押し付けて擦りながら天使バラ鞭で尻を叩かれていた。
玄関ホールだけではない。洋館の至るところから淫らに濡れた声が響いていて、ここが肉欲と快楽の坩堝などだと嫌でも知れた。
「それではお客様。明けぬ朝までごゆるりと……」
胸に手を当て、深々とカボチャの頭を下げたジャックが薄暗がりに溶けるように離れていく。まるで本物のお化けみたいだ。
一人残った実里は周囲の空気に当てられながら、喉を鳴らして二階へと足を向ける。
この洋館でのルールは、パートナーが決まっていない一人であれば誘われたら拒んではいけない。そしてパートナーが決まった相手を横から誘ってはいけない。ただし、互いにパートナーが決まった状態なら複数での乱交もありだ。
来たばかりでパートナーがまだ決まっていない実里は、肉欲の熱に燻された空気を吸いながら階段を上がる。途中、手摺に跨って腰を振る青年の横を通り過ぎると、実里の存在を心得たように清らかな姿の天使がバラ鞭を小悪魔姿の青年の尻へと振り下ろした。
「ほら、手摺相手にいやらしく交尾する姿が見られていますよ。なんと情けなくいやらしいのでしょうね」
「……ん、ぃっ、ひぃ……ッッ……て、てすり……さまとの……こうび、ぎもぢ、いいぃぃぃいいぃぃッッ」
競走馬に鞭をあてる姿に似て、尻を打たれた青年は口からよだれを溢れさせながら、ぬちゅぬちゅと手摺に股間を擦り付ける動きを大きくしていく。
実里の視線を感じているのか、実里の方をちらりと見ながら、ことさら激しく腰を振り、股間だけではなく尖りきった乳首も手摺に擦って淫らに喘ぎ続けていた。
「あなたの手摺交尾、他の方に見られていますよ。そんな尻の振り方では観客は満足して頂けません。もっと変わった芸をお見せなさい!」
右に左に上に下に。
バラ鞭は尻だけではなく背中や太ももにも赤い筋をつけていった。
「ン、ぎぃッ、んん、ひぃぃいぃッ、で、でちゃう……ッッ、みられて……ぼくの、膀胱……っ、こわれぢゃうぅうぅぅッッッ」
手摺に擦り付けていた股間からぶしゅっと黄色い体液が溢れて手摺伝いに滴り落ちていくのを、天使は秀麗な顔を歪めてさらに打擲を強めていった。
「交尾中に漏らすとはなんとゆるい股ぐらなのでしょう! しつけ直さねばなりませんね!」
「んぁ、あ゛、あ゛ぁあ゛ぁぁぁッッ!」
手摺を小水で汚しながら鞭を打たれる青年は白目を剥いて痙攣している。
ごくりと実里の白い喉が鳴った。
怯えからではない。それは溢れんばかりの期待のせいだ。
元カレがサディスティックな趣味だっただめ、慣れた実里の体は被虐に弱くなっていたのだ。
漏らし続ける青年を横目に実里は2階の踊り場まで歩を進める。体に籠もる熱は淀んで重く、誰でもいいからこの熱を吐き出させてほしかった。
下半身に熱が溜まってきたせいで、内股になりながら壁伝いに歩いていた実里だったが、ふいに背後から衝撃が襲った。
でこぼこしたエンボス加工の壁紙に胸や腹を押し付けられて息が詰まる。
実里は強靭な力で尻を踏まれ、背中は大きな手に抑えられて、まるで展翅されたみじめな虫みたいに壁に貼り付けられていた。
「メス臭えのが鼻についたから来てやったぜ?」
ぐりっと尻を踏みにじられ、壁に張り付いたまま実里は呼吸を乱して震えるしかない。
振り向きたくとも壁に押し付ける力が強すぎてそれもできないのだ。
「あ、……ぁ……」
語尾が蕩ける。呼吸は乱れ、震える肌が歓喜を以て背後に立つ横暴な男の存在を受け入れていた。
「なんだ、もう発情していやがるのか、この雌豚はよ」
乱暴に髪を掴まれて床に引き倒された。床に転がり、痛みに耐えて顔を上げれば、ようやくそこで男の姿を目視することができた。
――なんと細部まで作り込まれた仮装だろうか。
実里の前にいたのは、二足で立つ狼男だ。
漫画や映画でよく見る、二足歩行に適した手足以外は顔すらも狼の毛並みに覆われ、しかも頭部はまさに灰色の狼そのもの。
長く突き出た鼻、大きく裂けた口にはずらりと鋭い牙が並ぶ。指は人間の手の形に似ていたが、長い爪を持つそれは太くごつごつしていて、指にも手の甲にも灰色の毛並みがあった。
上半身は長い毛で覆われてるが裸。下半身だけジーンズだが、その太ももの厚みと大きさは女の腰ほどもありそうだ。
まさに映画で見る巨大な狼男。
狼の顔といい、垂れる長い舌の蠢きといい、ひくひくと動く耳といい、本物にしか見えない完成度だ。どれだけの労力と金をつぎ込んだのか聞きたくなるほどだった。
「俺の牙とチンポで骨も残さねえくらいに食ってやるから四つん這いになってケツの穴を広げろ、雌豚が」
牙が並ぶ口に魅了されたのか、狼男の言葉には抗い難い誘惑があった。脳が痺れ、内臓が疼いて食ってくれと泣き叫ぶ。
気がつけば実里は言われるがままに実里はホットパンツをずらして尻を向けていた。
「おうおう。解してもいねえのに、もうトロットロのじゃねえか! あぁ? ただのチンポ待ちの穴だな、こりゃ」
硬い爪でアナルを穿られると、ひくついた穴は媚びるように開閉を繰り返してしまう。爪の先端は鋭利で危ないが、側面はひんやりとして存外心地良い。
水に浸した紙のように脆く弱くふやけた穴が、狼男の言葉を肯定するように長い爪を喰いしめてしまった。
「使って欲しいのか? 交尾して欲しいのか? あ゛ぁん? このだらしねえチンポ穴をよぉっ!」
長い爪が二本入り込み、輪ゴムを横に引く要領でぐにぃっと実里の穴を広げていく。入り込む淫靡な夜気が粘膜に触れ、その切なさに気がつけば実里は大声で叫んでいた。
「……使って……嵌めて……ッッ……ズボズボおちんぽ入れて犯してください……ッッ! おちんぽ、おちんぽで……食い殺してえぇぇえぇぇっっ!」
背後で哄笑が聞こえた。
げらげら笑いながら、ばちゅんッと太くて逞しい質量が実里を肉を縦割りに抉った。
「ン゛ぎぃぃぃッッ……お、お、お゛っぎぃぃぃぃぃッッ……!」
毛足の長い絨毯に爪を立て、四つん這いのまま胸を反らして泣き叫ぶ。内臓が拉げてしまったと錯覚するくらいの肉の凶器は、みっちりと隙間なく埋まって腹が一杯になってしまった。
辛い。苦しい。――でも、気持ちいい……。
「なかなか優秀じゃねえか。俺のチンポの七割は咥え込んでいやがる」
まだ七割なのか。
残り三割は無理だ。入らない。
だが男が腰を揺すって肉を解し、実里の中を拡張していく。
「よくできたチンポ穴だな。俺のチンポに吸い付いてぎゅうぎゅう締め付けてきやがる……だがなぁ、奥はまだまだ硬ェなぁ? ……はぁん、ここまでしか人間のチンポは届かねえのか?」
元カレも大きい方だったと思う。けれど、結腸までは届かなかったのは確かだ。
それなのに狼男の陰茎は今まで感じたことのない奥深くまで到達してしまっていることに気づき、慄きながらも甘美な期待に知りが揺れてしまった。
「よーしよしよし。結腸あたりは処女か。熟れたチンポ穴の中に処女ケツまんこ備えているとは感心だなぁ? ご褒美にてめえの結腸にたぁーっぷり種付けしてやるからな」
狼男の笑い含みの声に肉欲が交じる。
彼は馴染むように腰を揺すって肉の縦穴を広げていたが、音が響くほどの舌なめずりをすると一気に実里の奥へ腰を突き入れた。
「い゛い゛い゛ぃぃぃぃッッ、ふと……おっきぃ……ッ、お、おしり、おぢり……こわれ……る……ん゛ぎぃぃぃっっ!」
「尻じゃねえだろ、まんこだまんこ。雌豚まんこだろうが!」
殴るように長い陰茎で腸内を抉られ、先ほど手摺で白目を剥いて失禁した青年と同じ顔になって実里は悲鳴を上げる。
痙攣する尻に生暖かい長い毛が触れ、それが狼男の腰で、つまりは全部飲み込んでしまったのだと分かってしまった。
「ほれ、ここか? ここがお前の結腸か? ズッポリいったぜ? お隠し処女ケツまんこの破瓜だな! 目出度ぇなぁ!」
「……ッ、そこ……だめ……じぬ……じんぢゃう……っ、おちんぽ……で……しぬぅううぅぅぅ」
「死ぬ死ぬ言いながら、お前の雌豚ケツまんこはちゅうちゅう俺のチンポに吸い付いて離れねえんだけどなぁ? 生き汚え雌豚だ」
げらげら笑いながら、狼男は結腸まで突いてくる。
内臓が全部陰茎で埋め尽くされたような気がする。
「……お゛ッ、……お゛ぉ゛ッ……ん゛お゛ぉぉぉっ……!! ちんぽ。ちん、ぽ……ッッ……すご……いぃぃぃっっ……おなか、ふくれ、ちゃう……ッッ」
「おー、食え食え。貪り食らって腹一杯になって死ね。イキ死にしさらせ。豚は狼の餌だからなぁ? 肥え太らせてやるよ」
狼男の笑い声も腰の動きも止まる気配がない。
腹は狼男の陰茎の形に膨れ、尻は押しつぶされて毛皮の埋まる。
もはやまともな思考を結ぶのは不可能だった。
「イキ狂え! イキ死ね! イキ壊れろ! ――どうせジャックが生き返らせてくれるからよぉ!」
内蔵は柔らかいものだ。硬さなどないはず。
なのに実里は自分の中で、ゴツンという鈍い音を聞いた。
腹の中で信じられないほどに大きく膨らむ瘤のような陰茎。それは犬や狼に見られる亀頭球と呼ばれるものだ。
大きく瘤状態にせり出し、交尾途中に抜けないようにする凶悪な膨らみ。
だがそれ以上に凶悪なものがある。
「あがッ……が……ッッッ……たね。つけ……され、て……、る……ッッ……! め、めすぶた……まん……こ……たねつけ……されてるうぅぅぅぅうぅぅぅッッ」
ありえない量の体液が実里の中に注がれ、ありえないほどに下腹が大きくなっていく。亀頭球と大量の精液に膀胱が潰され、四つん這いのまま実里は失禁し、涙とヨダレと同じように小水を垂れ流してしまっていた。
「おおう、チンポが吸い取られちまいそうだ。どんなだけ吸い付くんだよ、処女ケツまんこじゃなく、淫乱ケツまんこかよ! よかったな! 淫乱で! このまま30分は種付け射精し続けてやるからよぉ!」
射精が長いのはイヌ科の交尾の特徴だ。人間では絶対に不可能な時間と量。
それが実里の身に起こっている。
つまり、狼男は人間ではないということだ。
「死にも失神もせず、全部俺の精液を飲み干したらジャックに頼んで俺専用の生き餌にしてやるよ――お前の元カレとやらが他のやつとそうなったように、な?」
ジャック・オー・ランタン。
人間だったジャックは悪辣な人生の終に、悪魔を騙して地獄行きを逃れた。だがあまりに悪辣だったため、天使はジャックの前で天国の扉を閉ざし、その扉は永遠にジャックに開かれることはなかった。
悪魔を騙し、天使には拒否されたジャックの魂は地獄にも天国にも行くことができない。ジャックの魂は永遠に彷徨うことになった。
ジャックの魂はランタンを掲げて薄暗い道を照らしながら安住の地を探していたという。
そう。
ここが、この洋館が、ジャックが見つけた安住の地なのいだと実里は知らなかった。
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なお、SタチからMネコ転した元カレの相手は透明人間です
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