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第6話
「お? 望大か。お帰り」
父さんは、何やら上機嫌な様子で俺を出迎えた。
「ただいま。……あれ、父さん一人?」
俺は、きょろきょろとリビングを見回した。
「母さんは、取材旅行で泊まり。明希は、あやかちゃんの所へ泊まるそうだ」
ははあ、と俺は思った。悠さんから料理の特訓を受けるのだろう。
「母さんが、野菜炒めを作り置きしてくれてるぞ。食べるか?」
「あー、いや。せっかくだけど、夕飯はもう済ませてきたから」
「そうか。じゃあ遠慮なく、全部もらおう」
父さんはいそいそと、俺の分の皿を引き寄せた。
「何でそんなに嬉しそうなの? 父さんて、基本肉好きでしょ」
思わずそう尋ねると、父さんは微笑んだ。
「ああ。でも野菜炒めは、結婚して初めて母さんが作ってくれた料理だからな。思い出深いんだ。それに、あの頃よりはずっと腕も上がったし」
俺は、内心首をかしげた。母さんの料理スキルは、今現在も決して高いとは言えないのだが。新婚当初は、一体どんな代物を作っていたのやら。怖くて、想像したくない。
(それはそうと、これはチャンスだな)
俺は、ふと思った。せっかく父さんと二人なのだ。貴重なアルファの先輩に、ここは相談してみようか。
「あのさ、父さん、ちょっと聞きたいんだけど。オメガに接する時って、どういう態度を取ればいいと思う?」
父さんの箸の動きが止まった。
「何だ。好きなオメガの子でもできたか?」
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