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第1話

知らない知らないもう知らない‼ 「待てよ! 湊!」 「うるさい! 彰良なんかもう知らない!」 「だからあれは違うって言ってるだろ‼」 何が違うって言うんだ。美女と二人で喫茶店でデートしてるのを俺は見たんだ。楽しそうにニコニコ笑って楽しそうにしてたくせに! 「湊っ! 話を聞けって!」 「うるさい! どっかいけ!」 「どっか行けって、ここは俺の家でもあるんだぞ」 「浮気野郎の彰良なんか、あの女のところに行けばいいだろ! しばらく顔も見せるな!」 「おい待て!」 バタンッと彰良を振り切るように勢いよく玄関の扉を閉めた。即座に鍵をかけ、チェーンもかける。彰良も家の鍵を持ってるけど、チェーンまではどうしようもない。ドンドンと扉は叩かれ、ノブがガチャガチャと鳴る。数秒後、予想通り鍵が開けられて扉が勢いよく開かれようとした。もちろんチェーンに阻まれて隙間が空いただけだ。 「湊っ! いい加減にしないと怒るぞ!!」 そう言う彰良の顔はすでに怒っている。いつもだったら俺はビビッて一言も話せないくらいの形相だ。でも俺だって怒っている。怒っているだけじゃなくて、とても悲しいんだ。だから、しばらく彰良に会いたくない。 「もう怒ってるだろ。近所迷惑だからとっとと女の家にでも行け!」 隙間からお互いを睨みつけること数十秒。俺は怒りと恐怖でポメラニアンみたいにプルプルと震えている。対して彰良は怒り狂ったドーベルマンみたいな威圧感だ。でももう引くに引けない状況。俺にだって男の矜持があるんだ! 「……チッ。いいか、明日は仕事が終わったら迎えに行くからな。逃げるなよ。逃げたら後悔するほどお仕置きするからな」 「うるせぇ浮気野郎!」 めちゃくちゃ低い声で言われた内容に内心ビビったが、俺は扉を勢いよく閉めることで答えてやった。開けられた鍵ももう一度かける。そのままじっとして耳をそばだてる。苛立ったように荒々しい足音が離れていくのを確認して、俺は玄関にそのまま崩れ落ちた。 「ぐすっ……彰良のバカぁ」 俺と彰良は同じ会社の同僚というわけではない。それぞれ、別の会社で働いている。だから彰良の仕事中の様子とかは知らない。もしかしたら、あれは取引先との打ち合わせか仕事仲間と休憩していただけだった可能性もある。それでも、俺もめったにみない彰良の笑顔を俺以外の人に向けているのを見て冷静ではいられなかった。 彰良はかっこいい。もともとノンケだし、男でなんの取り柄もないしかも年下の俺なんかと付き合っているのがもったいないくらいのスペックも高い色男だ。そんな優良物件が独り身なんて、女は放っておかないはずだ。 でも彰良は俺を選んでくれた。これからも選んでくれると思ってた。だけどずっと不安だったんだ。いつかこうなるんじゃないかって。 「ううっ……」 もう何も考えたくなくて、俺は着替えることもせずにベッドに身を投げて目をつぶった。嫌なことは後回しにするのは俺の悪い癖だ。でもこればっかりは許してほしい。 ☆☆☆☆☆ 「湊ぉ、いい加減に俺を巻き込むのは止めてくれよ」 「だって、こんなときに頼れるのは裕也だけなんだもん」 「頼られるのは嬉しいけど、後で彰良先輩にしめられるのは俺なんだが?」 裕也は俺と彰良と同じ大学のサークルに所属していて、俺たちの関係を知るただ一人に友人だ。なぜ裕也だけが知っているのかと言うと、俺と彰良が付き合うことになったちょっとした修羅場に裕也は巻き込まれたのだ。ほんと、俺とはただの友人なのに、勝手に勘違いした彰良に危うくボコられるとこりだった裕也は可哀想すぎる。でも俺たちと変わらず友人関係でいてくれる裕也、マジで神。 「で、今回はなんで喧嘩したの? どうせお前が悪いんだろ?」 「違う。彰良が浮気したの」 「へぇ、浮気かぁ……って、そんなわけあるか!」 裕也の眼が零れ落ちそうなほどに見開かれている。そうだよな。お前もそう思うよな。でも事実なんだ。 「本当だよ。昨日、カフェで若くてスタイル抜群の美女と楽しくデートしてた」 「いやいやいやいや……それはないって。あの彰良先輩だぜ? 俺とお前が肩組んだだけで殺気向けてくるくらいお前にゾッコンな彰良先輩だぞ?」 「俺だって嘘だと思いたいよ! でも、彰良笑ってたんだ。俺、あんなに優しく笑う彰良、見たことない……」 そう言うと、裕也は困った顔をした。そうだろう。だって彰良は大学時代、笑ったら奇跡と言われていたくらいで「氷の皇帝」なんて中二病も真っ青のあだ名をつけられていたくらいなんだから。 「俺には相変わらず仏頂面なのに、あの女には笑ってたんだ……そんなの、本気の相手だってことじゃん。しかも、俺がちょっと問い詰めたくらいで慌ててあれは違うって否定し始めてさ。あの彰良がだよ? 俺、頭に血が上っちゃって、悲しくて、昨日は彰良、追い出しちゃったんだよね……」 「湊……。いや、でも俺はまだ信じられねぇよ。ちゃんと彰良先輩に確認したのか?」 「してない。だって別れ話なんてされたくない。俺以外を選ぶ彰良なんて見たくない! でも、彰良はもともとノンケだから、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだ。そしたら、俺は彰良の将来のためにちゃんと離れようって、決意してたんだけど、なぁ……」 「あぁもう泣くなよ」 溢れる涙が止まらない。ついでに鼻水も止まらない。ぐすぐすと鼻を鳴らす俺にため息をつきながらティッシュを持ってきてくれた裕也は、やっぱり神だ。 「なぁ、やっぱさ、ちゃんと話聞いた方がいいって。彰良先輩呼んでやるから」 「嫌だ! 絶対彰良怒ってるもん! 怒ってる彰良怖いもん!」 「子供返りすんなよ。先輩が怒るのはお前が逃げたからだろ。向こうはちゃんと話し合いの場を設けてくれる大人の対応だってのに、お前は嫌なことから逃げてばかりで……いつまでおこちゃまなんですかぁ?」 「うーるーさーいー‼」 裕也の言ってることは全部正しい。だけど納得できるかと言われたらそれは無理な話。こんがらがった思考と感情が涙腺に直結してじわじわと涙がにじみ出てくる。あぁ、こんなぐじぐじして男らしくない俺なんて、捨てられて当然だ。あ、また泣けてきた……。 「残念ながら、俺の家は託児所じゃねーんですよ。愚図るイヤイヤ期の湊ちゃんはとっても面倒なので保護者の方にお迎えに来ていただきましょうー」 「え、な、なに……?」 なんだかとっても不吉な予感がする……。思わず勝手に潜り込んでいた裕也のベッドの上で毛布を頭から被って、できるだけ身体を縮こまらせて隠れた。 「ひぇ、怖い」 「あ゛?」 「ナンデモナイデス」 お、鬼だ。鬼がいる……。ギシギシと床板を僅かに鳴らして足音が近づいてくる。俺は生まれたての子鹿並みに身体を震わせた。こ、怖いよぉ……。 「おい。湊」 「ひぃっ!」 ギシッ……と、俺がうずくまっている両側のマットレスが音を鳴らして凹んだ。そのまま、獲物を捕食する肉食獣のように覆いかぶさられる。ふわっと香る香水の香りは、嗅ぎなれた彰良のもの。俺が一番落ち着く匂い。だけど今は、俺の恐怖心を刺激する材料にしかならなかった。 「俺は、逃げるなって言ったよなぁ。仕事が終わったら迎えに行くとも」 「ひぅ……」 「なぁ、湊? バカなお前はもう忘れたかもしれないから、教えてやるよ。逃げたらどうするって言ったか、な」 「あ、あき」 彰良の名前を呼ぶ前に、毛布がバサッと取り払われた。最後の砦は、あっさりと壊されてしまった。明るくなった視界に映るのは、その目に恐ろしい程の怒りを滲ませて俺を見下ろす彰良と、その向こうで十字を切る青褪めた顔の裕也だった。お前、キリスト教徒じゃないだろ。 「湊」 「ヒェッ⁉」 グイっと腕を引っ張られて強制的に立ち上がらせられる。そしてカバンと、脱いだ上着を持たせられた。仕上げとばかりに痛いくらいに手首を掴まれ、彰良の方に引っ張られた。その勢いのまま身体が軽くぶつかる。彰良の男らしく筋肉のついた身体は少しも揺らぐことがなかった。そのまま抱き寄せられるような体勢になる。熱い吐息が耳にかかって、こんな時なのに変な気分になってしまいそうだ。けれど、身体が熱くなる前に耳に囁かれた言葉によって、俺は凍り付いた。 「お仕置きだ」 「ぇ……」 ゆっくりと身体を離され、顔を見るように頬に添えられた手に促されるまま、彰良の顔を見る。 「ぁ……き」 そこには、いつもの大人の余裕を見せる彰良の姿はなかった。狂うような嫉妬と怒りに満たされた一人の獣のような男が、そこにいる。彼の名を呼ぼうとした喉は引き攣れて、蚊がなくような声しか出なかった。 「悪い子にはお仕置きだろ? なぁ、湊」 壮絶な笑みを浮かべる彰良に俺は命の危機すらも感じた。けれどその恐ろしいほどの感情が向かう先が俺なのだと、こんな時でもそれを考えて喜んでしまう俺は、相当バカだ。 「帰るぞ」 またしても音が出そうなほど俺の手首を握りしめた彰良は、俺を引きずるようにして裕也の部屋を出て、マンション近くの駐車場に止めてあった彼の車の助手席に放り込まれ、今日は帰るつもりがなかった俺達の家に連行された。 「いっ……⁉」 乱雑にベッドに投げられる。激しいセックスをする彰良に耐えられるよう丈夫な作りをしているベッドは、そんな俺を情けとばかりに受け止めた。相変わらずの寝心地の良さに、思わず身が沈みそうになるが、そんな暇を与えないとばかりに彰良が覆いかぶさってくる。スーツの上着を放り投げ、ネクタイを乱暴に緩めた姿の彰良は、とてつもない色気を放っている。その色気を直視してしまい、圧し掛かってくる彰良に抵抗しようとしていた身体が一瞬静止した。その隙を逃さず、彰良は抜き取った自分のネクタイを抑えつけた俺の両腕に巻きつけ、ヘッドボードに縛り付けてしまった。 「彰良っ! 放せよ!」 「嫌だね。これはお仕置きなんだから、お前は大人しくしてろ」 「はぁっ? なんだそれっ、あッ⁉ ちょっ、まっ、ひぁっ!」 おもむろに伸びてきた手が、俺の股を無遠慮に撫でさすり揉みこんでくる。それは無理やり快楽を引きずり出そうとするものだった。本能的な恐怖と快感が混ざり合う。こんな触られ方、これまで一度もされたことはない。 「アッ、あぅ、ヒィッ、ああッ!」 機械的に動く容赦のない彰良の手にも、俺のソレは反応してしまう。彰良に触れられているというだけで、健気にたちあがってドロドロに濡れるんだ。 「もっ、やめ、て……ッあああ‼」 「は……やっと大人しくなったな」 混乱したまま絶頂に達せさせられた俺は、そのままベッドに力なく横たわった。急に全力疾走させられたように息が上がっている。だが乱れた息を整える間もなく、投げ出されていた俺の下半身から彰良がズボンやらパンツやらを取り去っていく。パンツは吐き出された俺の白濁でベトベトだった。ねちょっとした感触と音が羞恥心を煽ったが、彰良は気にすることもなく、ぽいぽいと全部ベッドの下に落としていった。 「……おら、足開け」 「は……? 待て、まさか、んぁあッ‼」 がばっと足を開かされたと思ったらひやりとした液体をいきなり中に注ぎ込まれた。ボトルの口を直接穴に突っ込んでぶちゅぶちゅとローションを押し込んでくる。これまではちゃんと手のひらで温めたローションで丁寧に解されていたそこに、勢いよく指を突き入れられてぐちゅぐちゅとかき回される。俺の体温と彰良の指の温度で、冷たかったローションが温かくなっていく。どれだけいれたのか、彰良の指が出し入れされる度にその指を伝ってローションが溢れ出た。その感触すらも刺激に感じる。あまりに性急に進められる前戯に心は追いついていないのに身体は正直に反応してしまう。 「やぁっ、あきら、っは、ぁ、んんッ‼」 「なにが「いや」だ。出したばっかだってのにここをこんなにパンパンにして……んっ」 「はぁ、んッ、アッ、あ、やめっ、ああああ‼」 いつの間にか増えていた指で前立腺をピンポイントに狙われながら、また起ちあがった俺のモノに彰良が舌を這わせてくる。とてつもない快感に驚いて顔を向けてしまった俺は、だらしなく開ききった股の間で濡れそぼった陰茎をいやらしく舐めしゃぶる彰良と目が合ってしまった。あまりにいやらしい光景に固まった俺と目を合わせながら、彰良は大きく口を開けると俺のソレを咥え込んだ。途端に襲い来る神経が焼ききれそうな程の快楽。 「やっ! 放してっ、はな、アッ、ひゃあっ、あ、んぁッッ‼」 これまでネコしか経験のない俺は実質童貞だ。彰良と付き合ってからは後ろで快感を拾うことが多く、前の方は快楽に弱い。だからこれまでフェラをされるのはできるだけ避けてきた。耐えられる気がしなかったから。ましてや、情け容赦のない彰良にされたら余計にみっともない様を見せることになる。けど、俺は奉仕されるのが苦手だからと逃げてきたツケをここで払わされることになるとは思ってもいなかった。 「んっ……お前、こんなに感じやすいから今まで俺にさせなかったんだろ? いい機会だから鍛えてやるよ」 「やぁあ、や、ひっ⁉ な、ん、ぐ、ぁっ、いたっ……」 パチッと根本に巻きつけられたのは、いつか拒否したコックリング。腫れあがったそこには痛みさえ感じる。 「本当は尿道ブジーとか突っ込んでやろうと思ったんだが、あれは消毒が大変だからな。今回は止めといてやるよ」 「にょ……」 彰良が時々玩具を買っているのは知っていたけど、そんな恐ろしいものまで買っていたとは思わなかった。想像して少し萎えてしまった俺のモノを手で扱いて何事もなかったように復活させてくる彰良は別のことが気になっていたらしく、そんな俺の怯えに気づくことはなかった。 「なぁ、湊。お前、なんでここ綺麗に準備してあったんだ? まさか裕也に入れてもらうつもりだったわけじゃねぇよなぁ?」 「ああっ、やぁっ、も、やめ、あッ、てぇっ!」 ぐちゅぐちゅとさっきよりも激しく中を荒らされる。与えられる快楽で余計な力が入らなくなったそこは、二本入り込んだ指が広げられると、くぱぁと空気の通り道ができるくらいに解されてしまった。もともと自分で軽く準備していたから、とろとろにされてしまうのも早い。 「ちゃんと答えろよ。あれだけ浮気だって騒いでおいて、自分は他の男を咥えようなんてこと、許されるわけがないだろ」 「ち、ちがっ……裕也は、関係ない、からぁ、ッひぁ……」 「じゃあなんでこんなにここが柔らかいんだ」 「ぅあッ、んん……き、今日、ほんとは彰良を待とうと、思ったのっ……ちゃんと、話聞いて、仲直り、したくて」 そして甘く優しく抱いて欲しくて、会社で準備するのも恥ずかしかったけど、早く仲直りしたかったから……。 「ならなんで逃げたりしたんだ。俺にすぐ捕まることくらい分かってただろ」 「だってぇ……! 彰良、またあの人と話してたんだもんんん‼」 いつのまにか指は抜かれていたけど、俺はただただ、ぶわぁっと目からダムが崩壊したように涙をこぼした。脳裏に浮かぶのは、会社のビルを出ようとした時に見てしまった光景。確かに彰良は俺を待ってた。だけど、その隣にはあの女がいたんだ。仲良さそうに話してた。距離も近くて、誰が見てもお似合いの二人で……気が付いたら、わざわざ地下駐車場まで下りて外に出ていた。俺は、またしても逃げてしまったんだ。 「絶対、別れ話するつもりだと思って……俺に見せつけるつもりであの人も呼んだんだろ?」 ぐすぐすと鼻を鳴らして大人げなく大号泣する俺は、さぞ滑稽だろう。身体の熱も冷めてしまった。俺はとにかく彰良の目から逃げたくて、ベッドから降りようとして縛られたままだった腕に阻まれた。なぜか黙ったままの彰良を放置して、なんとか自力でヘッドボードに縛り付けられていたネクタイを外し、自分の手首に巻きつけられた部分も外す。痛くないようにか、思ったほどしっかりと結ばれてはいなかった。やっと外し終わってベッドを下りようとしたけれど、腰に腕がまわってきて後ろから抱きしめられたことで、逃亡は阻止されてしまった。なんだよ。今まで黙ってたくせに。 「はぁ……やっぱバカだな、お前」 「うっさい……放せよぉ」 「バカだけど、可愛いバカだ」 「バカバカうるさ、んんッ」 顎を掴まれたと思ったら強制的に後ろを向かされてキスされた。チュッ……って触れ合っていた唇は段々深く合わさり、次第に互いの舌先だけで遊ぶようなキスになった。ようやく離れたときには、互いの唇は少しだけ赤く腫れているように見えているくらいだった。 「湊、俺が一緒にいたのは妹だ」 「ふぇ……?」 「ふっ……ちゃんと聞いてるか? お前が見たのは俺の妹だよ。たまたまこっちに来てて、互いに忙しいから昼休憩の時に一緒にランチに行っただけ。今日も一緒にいたのは、お前をあいつに紹介するためだ。あいつをお前に紹介するためじゃないからな」 「い、もうと……?」 キスによる酸欠と、この場で出てくるとは思っていなかった単語が出てきたことで俺はプチパニックだ。いもうと……妹? 「彰良、妹がいたの?」 「前に言っただろ。俺の二個下。お前とタメ」 「でも、全然似てない……」 「アイツは母親に似てるんだよ。俺は父親似」 「何それ……絶対美形家族じゃん」 「今そこ重要か?」 「重要だよ……俺みたいな平凡なんか絶対認めてもらえない」 今度は別の意味で泣けてきた。どっちにしろ、彰良とは別れないといけないかもしれない。彰良が良いって言ってくれても、周りはそうは思わない。いまだに大学サークル時代の仲間の飲み会に彰良と行っても、俺は彰良のコバンザメ扱いだ。完全におまけ。しかもいらないやつ。 「俺が言うのもなんだが、確かに両親も妹も美男美女だ。だからこそ、湊のことを気に入るはずだ」 「なんで?」 「湊くらいの平凡な奴の方が可愛いって認識だからな。結婚するなら平凡にしろって両親から言われてきたくらいだ。お前のことは絶対気に入る。実際、お前の写真を見た妹がお前を紹介しろってうるさいくらいだったんだ。あんなに食いつかれるならあそこでお前の写真を見なければよかった」 「まさか無意識に笑ってたなんてな」なんて呟いて苦笑している彰良の顔を俺は見れなかった。だって、今の俺の顔は真っ赤だろうから。勘違いしてた羞恥心もあるけれど、それ以上に照れが大きかった。あんなに羨ましかった彰良の微笑みは、俺を思って浮かべていただなんて! しかも無意識! 「と、いうわけだ。分かったか? 勘違いして暴走した湊くん?」 「うぐっ……ごめんなさい」 「それじゃ足りない」 「え。うわぁっ⁉」 視界が目まぐるしく変わり、気が付いたら仰向けに寝かせられて彰良に見下ろされていた。もうあの恐ろしいくらいの怒りの炎は彰良の目から消えていて、いつもの優しい目に戻っていた。……いや、ちょっと違うかも、意地悪をする時の目だこれは。 「んっ」 「ひぁッ⁉」 いつの間にかはだけられていたシャツの間に顔を突っ込まれて、無防備だった乳首に吸い付かれる。唾液を絡めて、舌先でぐりぐりと先端を押される。あっという間に柔らかかったそこは硬く芯をもって起ってしまった。それでも彰良は責めを緩めない。起ちあがったそれを、今度は歯を使って扱き上げてきた。少し痛いくらいに歯を立てられたと思うと、今度は慰めるようにぺろぺろと舐められる。反対の乳首は爪でカリカリと引っ掻かれたり、キュッとつままれたりと違った刺激を与えられる。 「ここ、さっきは可愛がってあげられなかったからな。気持ちいいか?」 「いいっ! いいからぁ‼ も、やめ、ぁッ、んぁあ!」 止める間もなく、今度は乳首責めで起ったペニスを根本から撫で上げられた。ハマったままのコックリングが、今にも放たれそうな精液を破裂しそうな睾丸に押しとどめている。それさえなかったら、俺は乳首だけで射精していたはずだ。そんな恥ずかしいことにならなくてよかったと思うべきか。この時はそんなことを考える余裕はあったが、それも彰良の容赦のない責め苦に耐え切れずすぐになくなってしまった。 「ほら、もっと奥までッ、入れろ!」 「もうむりぃ‼ も、いっぱいなのぉ‼」 たくさん入れられていたローションは渇くことなく、俺の中をとろとろに潤していた。そのせいで突き入れられた彰良のソレは、なんの抵抗もなく前立腺を亀頭で抉りながら一気に奥まで侵入してしまった。けれど彰良はもっと奥まで入れろと言う。もう限界まで入って苦しいくらいなのに、これ以上なんて無理だ。 「まだ入るだろ? ほら、ここ。開き始めたぞ」 「ひ、あっ、あっ、ふ、んんッ、ヒグッ‼」 「入っ、たぞ」 一瞬意識が飛んだ。開いちゃいけないところがこじ開けられた感覚。とてつもない衝撃。痛いくらいのそれは、結腸に侵入した衝撃だったらしい。そこは絶対に入っちゃいけないところだよ……。 「湊……湊、大丈夫か?」 「だいっ、じょばないぃ……!」 圧迫感が凄い。これまで以上に彰良自身を感じる。痛いくらい締め付けられているはずの彰良は眉を寄せながらも、そのまま抜き差しを始めた。亀頭以外抜いたと思ったら、勢いよく前立腺を押しつぶして結腸まで突き破るようなストロークを何回か繰り返して、今度は結腸口を亀頭でくぷくぷと虐める。更に今度は前立腺を集中的に狙ってきたりと、俺は何回意識を落としかけたことか。コックリングさえなかったら、三回くらいは射精してる。でも射精できないから、中イキばかりさせられている。中イキはイってもイっても解放感がないから、ずっと熱がこもり続けている。もうそろそろ、限界。 「もうイキたいっ! イカせてぇ‼」 「イカせてやってるだろ? さっきからずっと可愛く中イキしてるじゃないか」 「ちがう! 出したいの! もう破裂しちゃうからぁ……」 「……そろそろいいか」 怖くて見れないくらい感覚が鈍くなっているソコに彰良が手を伸ばし、根本に嵌ったコックリングを外した。途端に血流がみなぎり、射精に向けて準備を始める。 「ほら、たくさん出していいぞ」 「あっ、ダメっ、ああああああああ‼」 奥を突かれながら、俺自身をめちゃくちゃに扱かれる。彰良の言葉に導かれるように、俺は射精した。でもずっと我慢させられていたからか、精液を力なく零すような勢いのない射精とは程遠いものだった。当然、解放感なんてほんの少しだ。期待していただけに絶望が大きい。しかもずっと出続けているせいで、絶頂から降りてこられない。解放感はなく、でも絶頂感はある。矛盾した感覚に涙がこぼれた。 「あっ、手、放してぇ」 「ダメだ。このまま全部出せ」 「ひぁぁああああああんんッッ‼」 彰良が手を止めないせいで、ずっと精液が出続ける。まるで牛の乳しぼりのようで情けない気持ちになる。男としてのなけなしのプライドもへし折られた。でもやっと出なくなったと思っても、まだ彰良は手を止める気配がない。しかも射精後で敏感になっている亀頭を手のひらで撫でまわされるようにいじられて、痛いくらいの快楽に俺は背骨が折れそうなほど仰け反った。これはヤバいってぇ! 「なんか出る! 出ちゃうから! 手ぇ止めてぇ‼」 不意に襲ってきた尿意に似た感覚。本能的にヤバいと感じて制止をかけても、彰良の手は止まらない。むしろより激しくなった。 「んっ、あっ、あっ、ああああああああ‼」 プシャァァァ……と、透明な液体が勢いよく飛び出し、俺の身体に降り注いだ。なんだこれ……。 「上手に潮を吹けたな。偉いぞ、湊」 「はぁ、はぁ……こんな、ことでっ、はぁ、褒められたく、ない……」 「可愛かったぞ、湊。あとは」 「ひあっ⁉」 「俺をイカせるだけだな」 そうして再開された激しい抽挿。俺はもう抵抗することもできなくて、揺さぶられるままだ。も、無理……。 結局その一回で終わるはずもなく、俺は気が付いたら気絶して意識を飛ばしていた。朝、目を覚ますと彰良の腕に抱かれていてとても幸せな気持ちになったんだけど、全身キスマークだらけなのはちょっと許せない。これじゃ、ちょっと腕まくりすることもできないじゃないか。 「お前は日ごろから肌を露出させすぎだ。これを機会に気をつけろ。またお仕置きされたくなかったらな」 なんて言われたらなんも言えないじゃないか。 「逃げたら後悔するほどお仕置きするとは言われたけど、何もここまでしなくてよかったと思う」 「俺はまだ足りないくらいだが。まぁ、お前を俺の家族に紹介できるなら我慢する」 「……本当に俺、認められる? まず第一に男だし、平凡だし」 「大丈夫だって言ってるだろ? そもそも、もう恋人が男だってことは言ってある。もちろん苦言なんて言われてないし、むしろお前に興味津々だ。俺としては、お前を家族にとられないか心配なくらいだぞ」 「ははっ……それはない」 後日、ご挨拶に向かった彰良の家は豪邸。ご両親はとてつもない美形。妹さんもとても美人。並べてみると、確かに妹さんはお母さん似で、彰良はお父さん似だった。ちょっとホッとしたのは、絶対彰良にバレてる。 ご挨拶は順調に進み、本当に何の文句もなく俺は受け入れられた。すごい寛容な家族だな。俺の両親はそもそも既に事故で他界しているから挨拶も何もないけど、それでもこんな風に受け入れてもらえただろうかと考えると即答できない。 「いやー、ほんと湊くんって可愛いね。彰良なんかやめて、俺と付き合わない?」 「……へ?」 「湊ちゃんならあなたと付き合うの認めてあげる~。なんか子犬みたいで可愛いし!」 「えー? 私も湊くん欲しい~」 「おいっ! 湊は俺のだ!」 「でも湊くん、まんざらでもなさそうだぞ?」 「は? おい湊、なんで赤くなってんだお前……まさか、親父に惚れたわけじゃないよな?」 「ち、違うよっ! 俺には彰良だけ。……お父さんもかっこいいけど」 「いやー、可愛いねぇ」 「おい親父、湊を放せ!」 まぁ、ひと悶着あったけど。帰ったら速攻で準備されて抱かれたけど。 彰良との未来にまた一歩踏み出せた俺は、嬉しさのあまり次の日裕也に惚気て盛大に殴られた。 「痴話げんかに巻き込まれたにも関わらず色々と心配してやったのに惚気てくるとはとんだ仕打ちだ! おめでとう!」 「あ、ありがと」 「この迷惑バカップルめ‼ 末永く爆発してろ‼」 景気よくビールを煽る裕也の後ろで彰良が仁王立ちしていることを教えるのは、気持ちよく飲んでいるビールが無くなるまで待ってあげよう。心優しい俺は、そう思って笑いを堪えた。

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