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「今日は、これを持ってきたんだ」
両手にぱらぱら乗せられたのは、小さな粒たち。
「前、一緒に買った花の鉢を覚えてる?
あの花から種が取れたんだ」
忘れてない、覚えてる。
あの日あなたと買ったもの。
(もう、そんなに時間が経ってるんだ)
「どんなに言葉は忘れても、記憶はある。
名前を忘れたって…思い出は映像として、脳裏に浮かぶでしょう……?」
寄り添うようにそっと問われ、こくんっと頷いた。
(わかる、思い出せる)
全部、ちゃんと思い出せてる。
名前はわからないけど、映像は……あなたとの記憶は頭の中に浮かんでる。
「君の主治医に言われたよ。もう手を尽し切ったって。
ねぇ詩音、此処を出ようか。一緒に住もう? 俺がずっと隣にいるから」
顔を覗かれ、じぃっと目線を合わせられる。
けど……どうしてもそれには頷けない。
(だって、名前も、想いも、伝えられてない)
あなたは〝伝わった〟と言ってくれた。
でも、それじゃ僕が納得できない。
(ちゃんと言いたいんだ)
同じ想いを、同じ言葉に乗せて。
それなのに
(それ、なのに……っ!)
また目にじんわりと水滴が浮かぶ。
それに困ったように笑って、拭おうと手を伸ばしてくれるよりも 先に
「え、ちょっ!」
手の中の粒たちを、思いっきり口へ入れ飲み込んだ。
「う、そだろ……っ、吐き出して!大丈夫か!?」
ガバッと肩を掴まれ強く揺さぶられる。
けれどーー
「っ、ぁ、ぼく……」
「ーーっ!」
喉に手を当てながら、呆然としているあなたに微笑んだ。
「ーーーー〝正文〟さん、〝愛してます〟」
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