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第1話
猫獣人奴隷法が獣人国で発令されて約二十年が過ぎた。
その法律の内容を簡単にいえば、国の雇った奴隷商人は猫獣人を奴隷として売ることが出来る。そして、利益は国の運営費となる、というものだった。
そんな腐った法律により、猫獣人の人権はなくなり、差別される対象となったのだった。
「とーさんの怪我を治して!」
両開きの扉が勢いよく開かれた。
獣人国最北端。ライトブルク辺境伯領。田舎ではありながらも領内では一番の人口を誇る街、オルナの冒険者ギルド。
現在、時刻は午前十時すこし前。冒険者が依頼を受けようとギルドに集まってきている時間。そんな荒くれ者の群れにその幼い猫獣人の少年は無謀にも飛び込んできた。
「ファイア様」
壁によりかかっていた僕は態勢を起こし、少年の方に歩き出そうとするが呼び止められる。
僕はそちらを向く。
「ラックはここにいて」
「しかしッ」
「いい子だから。何が起こっても手を出しちゃダメだよ?」
頭を撫でた後、軽い小走りで少年の方に向かう。再度呼び止めようとする声を僕は無視する。
少年を助けないと。
周りを見渡せば既に動き出している奴らが数名いる。彼らよりも先に少年に話しかけなければ、何をされるか分かったものじゃない。それに……
僕は壁にかかっている時計を見た。
あと、五分か。急がないと。
この街は比較的猫獣人に優しい。大通りだってローブを被っていれば基本的に安全に歩ける。けれど、猫獣人は日陰者だ。暴力を仕事としている荒くれ者たちの中に飛び込んできて無事でいられるほど、この国は猫獣人に優しくない。
僕は意識して顔に気持ち悪い笑みを貼り付ける。かつては僕に向けられていたその表情。
『愛してる』
そんな言葉が聞こえてきそうなうっとりとした笑み。
気色悪い。
それでも僕はこの方法しか思いつかないからーー。
「猫ちゃんが、なんでこんな所にいるの?」
誰よりも先に少年の元に辿り着いた僕は彼の顎を繊細に掴みクイッと持ち上げる。
「うん、可愛いね。僕の奴隷にならないかな?」
少年は目を見開く。戸惑った表情だ。何が何だか分からないと言ったような。
僕はこの少年と顔見知りだ。少年の名前はリフ君。歳は七歳。僕の態度がいつもと違うのだから驚くのも無理はない。
「ファ……」
パチンッ
少年が話し出す前に頬を叩いた。
「はいって言ってごらん? それ以外の言葉を話す権利は君にはない」
「……ぅ……あ……」
「そもそもなんで君はここに来たのかな? 身の程を弁えなよ。それともぶたれたかった?」
「……やっ……」
「怖い? ぼくの奴隷になりなよ? あの子みたいに。そしたら優しくしてあげる」
そう言って僕はラックのことを指さした。彼の首には黒い首輪。奴隷の証だ。
「あはは……そんなに怯えなくてもいいじゃん。つまんないの。嫌ならさっさと帰れば?」
「で、でも、とーさんがッ」
「まだそんなこと言ってんの? うるさいな」
また、頬を打つ音がギルドの中に響く。
僕の行動に注目が集まっているようで辺りがいつの間にか静かになっていた。
「うっ……ぁ……」
ガチャッ
少年が痛そうに頬を手で触っている姿を見ていると、後ろの扉が開かれた。
ああ、もう十時なっちゃったか。残念。
「なんだこの状況は?」
狼獣人と猫獣人の男、二人が冒険者ギルドに入ってきた。
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