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第3話

「もう猫獣人に手を出すな」  グレイはそれだけ言うと冒険者ギルドを出ていった。少年はグレイに簡単な治癒魔術で頬の怪我を治してもらい、ルールーに手を引かれて行った。 「ファイアってたいしたことないんじゃね?」 「たしかに」 「ざまあねぇな」  周囲を見渡せばこちらを見下しながら、クスクスと笑う冒険者達がいた。  これはまずいかな。バカにされるのも、笑われるのもいい。でも、舐められるのは少しまずい。  でも、今日はこうするしかなかった。自分をそう納得させ、立ち上がる。  自分の心配なんかより、今はホンドンさんの心配をするべきだ。  7歳の子供があんなに必死になって助けを求めてきたんだ。助けてあげないと。  ギルドを出て急ぎ、歩く。  少年は連れていかれてしまった為、自力で探さないといけない。  グレイ達もホンドンさんを助けに向かおうとするはずだけど、少年の焦り具合からするとホンドンさんの怪我は大きいものであるはず。それ程の怪我を治せる魔術の力量はグレイも持っていないはずだ。  と、なると人を雇わなければならないが、それだと時間がかかる。  やっぱり、僕が向かった方が早いし確実だろう。 「ファイア様!……ファイア様! ……ファイア様!」 「なに?」  ラックは僕の行き先を阻むような位置に仁王立ちをした。 「なに? じゃありません! また無茶をして」 「こんなの君たち猫獣人を守る為なら無茶に入らないって」 「入ります。そもそもあのグレイという貴族はいつもあの時刻には決まって顔を出すのですから、あの少年のことも放っておけば良かったんですよ」 「それはダメだよ」 「なんでですか! そもそもあの少年があんなところに一人でくるのがいけないんです! 少しくらい殴られるのは仕方の無いことです!」 「ラック、そういうことじゃないんだ」  ここじゃまずいな。ヒートアップしてる。  それに、人を待つならここじゃない方がいい。  僕とラックは大通りからそれほど離れていないが、人通りがほとんどなさそうな路地に入る。 「あの時放っておいても少年は助かっただろうね。でも、冒険者の方は?」 「えっと……殴られるんじゃないでしょうか? えっ、、、はっ? ということは、冒険者の方を庇われたんですか? なんであんなクソ野郎の為に!」 「違うって。確かに結果的には庇うことになっちゃったけど、そうじゃない。あの少年に手を出そうとしていた奴らのことだ。グレイにボコボコにされたらきっと逆恨みをする。でも、グレイは強い。じゃあ、その恨みの矛先は?」 「あの少年……?」 「もしくは猫獣人全体に向いてもおかしくない。ラックだってその対象に入ってもおかしくないんだよ。だから、僕が率先してボコられたってわけ」 「でも、それじゃあ……」 「いや~、たいしたことなかったよ? 全然痛くないし!」 「ファイア……様……ひっぐ」 「ラック?」 「……泣いてないですからね」 「嘘じゃん」  ラックは泣き出してしまった。 「も~、泣かないでよ~。泣かれるとどうしたらいいか分からないから困る」 「ひっ……ぐっ、はっ……やく、その傷……治してください。……僕に……魔法の才能がッ、あればッ、お手を煩わせないのに……」  ああ、言われて思い出した。僕、自分の怪我治してないや。  まあ、その前に。  ポンポンッ 「心配してくれてありがとう」 「うっ……ううっ……ファイア様のバカァ……」 「馬鹿はラックでしょ。奴隷の首輪を自分の意思で着けてる奴なんて君たちくらい」  ラックが着けている首輪に触れる。 「ひっく……これは私の意思じゃありません。こんなものなくても自分の身の安全は自分で守れるのに……ファイア様が気遣って……ううっ」  この国で猫獣人が普通に生きるのは難しい。というか、危ない。いつ暴漢にあっても、攫われて奴隷になってもおかしくないし、猫獣人はそれに反発できない。  だが奴隷の場合は、所有物を盗んだ。破損した。といった扱いになる為、いざこざに発展しやすい。  だから、人の奴隷に手を出す奴は滅多に居ない。  クソみたいな世の中のルールだが、それで安全が買えるなら使うしかない。  僕はラックともう一人、ナリヤにこの首輪を着けることを条件に自分に着いてくることを許したのだ。  猫獣人がひっそりと暮らしている村があるのだが、そっちにいる方が安全で彼らのためになるはずなのに、嫌がるだろうと思って出したこの条件も呑んでしまうのだからどうしようもないバカだ。  グレイみたいに僕が権力を持っていればこんな首輪着けずともラック達の身を守れるのに。  ルールーの首にはもちろん首輪なんて着いていなかった。  クソッ……やっぱり僕なんかじゃ…… 「ファイアさん!」  ラックの頭を撫でていると、後ろから声をかけられた。女性の声だ。  よかった。これでホンドンさんの居場所が分かる。

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