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第22話
よくよく考えてみれば、僕は盗賊の拠点を知らない。あのまま向かっていたら完全に迷子になっていただろう。
ルールーには感謝しないといけない。
しかし……。
僕は今、村の住宅地にお姫様抱っこされたまま運ばれている。
「ルールー、降ろして! もう歩けるから!」
「それさっきも言ってたから降ろしたけど結局歩けなかったじゃねぇか!」
「う……そうだけど。じゃあ、せめて担ぐかおんぶして!」
「だめだ」
「なんで!?」
「おんぶは身体が密着し過ぎるし、担ぐのは雑に扱ってるみてぇで嫌だ」
「雑でいいのに……」
結局僕は、横抱きされながら村の人に話しかけることになった。
先程から困惑した視線を向け、こちらに話しかけていいのか困っている村の人に。
「こんな体勢ですみません! 皆さん、お久しぶりです!」
ルールーの首に腕をひっかけてなるべく身体を起こし、お辞儀をする。
すると、「村長! なんでこちらに!?」と、僕たちをうかがっていた村人の一人が近寄ってくる。
四十代くらいの女性。名前はバミューダさん。ラックとナリヤの母親だ。
「バミューダさん、お久しぶりです。僕は村長じゃありませんよ。こちらには盗賊の件でやって来ました」
「村長を村長だと思ってないのは村長だけですよ。それと盗賊の件、結局お耳に入ってしまいましたか……」
バミューダさんはアハハと笑いながらも、自身の後頭部を撫でていた手が震えている。
周囲を見やれば、眉間に皺を寄せて拳を握りしめる者や、安堵したのか地面に座り込んで涙を流している者など色々な反応を示していた。
「僕のこと村長だと思ってくれているなら、今回のこと知らせてくれても良かったんじゃないですか?」
「これ以上、村長一人に負担をかけるわけにはいかないので。それで、その人は? それと、あの……その体勢は?」
バミューダさんはルールーのことを指さし、僕の姿を見て頬をポリポリとかいた。
ルールーは僕が紹介を始めようとする前に、一歩前に出て話し始めてしまう。
「俺はルールー。村長とは、えーと……」
ルールーは唐突に目を瞑り、口をすぼめ、うなり出す。
そして、顔をパッと元に戻し、腕をズリッとスライドさせると「やっべ、落とすとこだった」と言葉を零し、自身の猫耳をピコピコと動かした。
怖いな……。
「耳で分かるだろうけど、俺も猫獣人だからさっ、昔ファイアさんに助けられたことがあんだよ。それで、最近再会して今はその恩返し中ってとこ」
「はっ? ルールーそれどういう……」
「ファイアさん、今はそこ気にしてる場合じゃねーだろ」
「そうだった。バミューダさん、ルールーは猫獣人だし、猫獣人を保護するような活動もしてる。それに強い。だから、連れてきた」
僕の話を聞き終えたバミューダさんは「なんと……」と言い、口を手で覆った。
「村長が誰かを頼るなんて……。ルールーさん、村長をお願いします」
バミューダさんは真剣な顔をしてルールーに頭を下げた。ルールーはそれに「分かりました」と珍しく敬語で答えていた。
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