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第5話★蒲田にて(4)

 夢うつつで身じろぎをすると、誰かに包みこまれていた。密やかな囁きが耳に届く。 「(れん)」  その響きは、あの人のものだった。もう一度聞きたいと願い続けた声だ。二度と聞くことはないと思った声だった。  あぁ、夢を見るのは悪くない。死んでもいいと思えるほど甘い夢。温かい胸に猫のように顔を擦りつける。薄い布越しに彼の肌を感じる。体の奥に、失われた熱が再び灯る。怜は、自分を包み込む大きな体に腕を回した。  望んだものが与えられる。唇が柔らかく塞がれ、押し広げられる。怜は彼の舌を誘い込み、深々と味わった。軽い水音と共に唇が離れる。彼の唇は、そのまま怜の首筋をなぞっていく。指先で耳をいじられながら鎖骨を吸われ、怜は喉を反らした。  靄がかかった頭の中で、怜はすべての愛撫を受け入れる。 「ん……」  呻き声が喉から漏れると、彼の手は勃ちあがった怜の芯を探し始める。抱いて欲しくて、怜は彼の胸にすがる。ジーンズの前がくつろげられ、熱くなったものが彼の大きな手で引き出される。  くちゅ。  先走りの柔らかい水音と共に、先端が熱い手に包みこまれる。ぬめりを手の平に広げるようにしごかれると、怜の呼吸が浅くなる。  彼の手は充分な潤いを得て、今度は全体をしごきはじめる。強く、弱く。吐息を彼の肩に吹きかけながら、怜は必死でしがみつく。根元から先端の膨らみまで、彼の手は満遍なく絞りあげ、緩め、怜を追い詰めていく。 「あ……やぁ……」  腰が浮く。自分から彼の手に向かって芯を突き上げる。先端の膨らみを包みこまれ、手の平で撫で回されると、とろけるような快感に声がうわずる。彼が身を起こし、何かに手を伸ばす。腹にタオルの清潔な感覚が下りる。  耳元に囁きが降ってくる。 「大丈夫。イきたかったら、イっていい」 「あっ、あ」  力強い手に追い上げられ、怜は夢中で口を開いた。髪が撫でられ、汗に濡れたこめかみに口づけられる。 「いい子だ。大丈夫、イってごらん」 「んっ」  腰をもう一度突き上げた時、白い射精感が怜の背骨を駆け上がった。溜まっていたものが一気にほとばしる。勢いよくタオルに精を吐き、怜はぐったりと彼に身をゆだねる。 「上手にイけたじゃないか。これでよく眠れる」  はぁはぁと息をしながら、怜はぼやけた頭のまま目を開いた。灯りは小さな常夜灯だけにされていて、彼の顔は見えなかった。  ひくんと芯が揺れ、名残りの精がとろりと出ていく。彼は低く笑うと、タオルで丁寧に怜を清めた。 「眠った方がいい。ここに……いるから」  囁きと共に再びこめかみに口づけられ、体ごと包まれる。この2年間で初めて、怜は痛みと悲しみを忘れて深く眠った。

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