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第42話 【2年前】(19)

 その時、サキは例によって暗い書庫の奥で考え事をしていた。  タカトオは、いつどうやって仕掛けてくるだろう。サキのグループの防御態勢は8割ほど出来ている。すべて出来上がる前に奴は行動を起こす。サキはそう踏んでいた。  元々、結束が固いことで知られているのがサキのグループだ。もし自分なら、そうした組織を崩すためにどうするか……。大量の工作員を送りこんで仲間割れを誘発する可能性を考えたが、そうしたトラブルはまだ深刻化していない。  送りこんだスパイたちの工作がうまくいっていないなら、タカトオは別な方法を考えるはず。とすると。  気分転換がしたくて、サキは立ち上がった。だが書庫を出て事務室に入ろうとした時、ひとりが血相を変えて玄関から事務室に走ってきた。 「どうした?」 「サキさん! よかった、今呼びに行こうと思っていたところなんです。第3チームが」  事務室の中からも、数人が慌ただしく出てきた。  何かがあった。ざわりとした感覚が背筋を走る。図書館全体の雰囲気がいつもと違っている。  サキは正面玄関へ走った。嫌な予感は当たるものだ。どんなに祈っても。  どうか、どうか最悪の事態にだけはなっていませんように。空しい言葉を押し殺し、サキは広いホールへ足を踏み入れた。既にほとんどの者が集まってきている。  玄関ドアの内側に、第3チームのひとり、コバヤシが座りこんでいた。苦しそうに肩で息をし、手が震えている。 「何があった」  群がっていた全員がさっと動き、サキのために道を空けた。サキはつかつかと歩き、彼の正面にしゃがみこむ。 「他の連中はどうなった。生きているのか?」  コバヤシは息を整えると、掠れた声でサキに報告を始めた。 「武蔵小金井のバリケードが爆破されました。一番近くにいたタケとレンが車で拉致されて……。足が本調子じゃないミヤギさんが撃たれました」 「ミヤギは生きてるのか?」 「は、はい、踏みとどまって指揮を執っています。メールだけじゃ情報が確実じゃないから、おれはバイクでサキさんに伝えろって。隣の第4チームから数人応援が来てくれて、今、爆発で開いた穴を防衛していて」  サキは息を詰めた。意識してゆっくり吐く。視界が狭まり、キィンという耳鳴りがした。タカトオは、サキの一番恐れていた部分を突いてきたのだ。瞬時にタカトオの戦略を理解したせいで、吐きそうなほど気分が悪かった。  奴はサキ自身を知っている。物理的に弱いところ、チームワークの弱いところを「探る」方法では時間がかかる。だからサキがチームワークを重要な要素だと考えているのを利用し、弱みを強引に「作る」手に出たのだ。まず人質を取り、その交換条件としてサキ自身を引っ張り出すつもりだ。  どうする。  だがサキは迷わなかった。腹は決まっている。それは前回の襲撃から考えていたことだ。サキは立ち上がり、全員に矢継ぎ早に指示を飛ばした。 「すぐ出る。第1は武装して車両で俺を待て。第2はどの穴から不意を突かれてもいいように、武装してここで待機。他のチームはこれまで通りに持ち場を離れず警戒を怠るな。事務室の今日のシフトはどこだ」 「第7です」 「全員、今からはすべての情報を第7に集約させること。第7はエトウと、外に出ていて状況を知らないメンバー全員に連絡を入れろ。エトウにはできるだけ早く、できるだけ多くの人員を応援に寄越すように要請。マーケットに指示、今日は店じまいだ。武器のない者は全員南へ退避!」 「わかりました」  メンバー全員が一斉に動き出す中、サキは再びしゃがみこみ、伝令を務めた男の肩を叩いてねぎらった。 「ご苦労だった。事務室で休んでくれ。気力が戻ったら、第7を手伝ってもらえるか? 怪我人が戻ってきたら、病院に連れて行ってくれ」 「はい」 「頼む」  短く言うと、サキは立ち上がった。事務室へ戻り、タブレットにペンダントを差してライセンスファイルを開く。アクセスした日時を更新しておけば、数日は言い訳がきく。  それを引き抜くと、サキは書庫に向かった。前から決めておいたことを処理する。誰にも知られずに、全員を守らなければならない。書庫には最も大事なものがある。  すべきことを終わらせると、サキは武器庫へ向かった。

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