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第69話「意味不明」*大翔

 目の前で資料を黙々と読んでる先輩を、気づかれないように少しだけ目に映す。  ――――……何が気になるんだろう。  なんか、あの日、男とホテルに行くこの人を見た時から。  オレの世界のかなりな部分を、この人が占めてる。  あの日までは、そんな事は無かった。  たいして絡んでもないのに、オレの外側が嘘っぽいと悟った人。  何で察知されたんだか。とにかく、あんまり近寄りたくない。  何なら早く卒業しないかな、なんて思ってたような。  なのに。あの日  ――――……男に、抱かれてるなんて知って、翌日色々話して協定なんてものを結んだあたりから。  何でか。絡めば絡む程、気になって。  いつもずっと、頭にある気がする。  ――――……先輩は、よく、心配してくれなくていい、とか言うけど。  ……心配、なのか?  まあ、心配か――――……。  変な奴に、どうかされないかっていう、確かにそんな心配が過ぎらなくもないけど。オレがずっと、この人が気になるのが、その「心配」だけなのかとなると、なんか違う気もするし。  ……しかも。よく考えてみればこの人がしてる事なんて。  ただ、ゲイの奴が、遊び相手求めてるっつーことで……。  ――――……別にどうかなったって「自己責任」の話で。  本来オレには、何の関係もない。  ……多分、先輩じゃない奴が、もしそれをしてたからって。  ――――……オレはこんな風に気にするのかって考えると。  雪谷先輩じゃなかったら。気にしないんじゃないかと。  そこでまた疑問。  じゃあなんで?  となるのだけれど。  ――――……全然、分かんねえし。  分かんねえけど。  月曜に図書館に行ったのも。  今オレがここで、特に今読みたくもない資料を読んでるのも。  明日、別に何の実りも無さそうな、合コンに、参加するのも。  ――――……先輩が居るからだ。  「行きます」の前に、「先輩が行くなら」が必ず、入ってる。  自分で、分かってる。  ……分かってるけど、意味が分からない。  何でなんだろう。  ――――……オレは、ゲイじゃない。  男に、ほんの少しだとしても、そんなような感情、持ったことが無い。  男同士で、ヤるとか。  ……今だって、ありえないって、思ってる。  とくに、ヤられるとか。  この人、何してンだよって。思う。  ゲイじゃない。  ――――……ってのに。  ゲイのこの人が。気になって仕方ない。  そんな自分が全く意味が分からない。  はーほんとなんだかな……。  ため息をつくと、目の前の先輩にバれるので、堪える。 「先生、ここにあるのが終わったら、終わりですか?」  先輩が椿先生にそう聞いてる。  PCからこっちを振り返る先生。  何なんだろ、この、振り返るだけで、よく分かんないけど絵になる感じ。  動きがなんか……なんか、なんだよなー。  モデルとか? 役者とか? やってたのかな。  見られる事を自然と意識してるみたいな感じに見える。 「ああ、終わりにしてもらっていいよ」 「分かりました」  ……やっと終わりか。集中しよ……。  手に持っていたのを済ませると、もうあとは先輩が読んでるやつだけ。 「オレの方終わりました……」  そう言うと、先輩は、顔を上げずに答える。 「ん。オレのもこれで最後……」  先輩が読み進めているので、オレは資料を先生の所に置いたり、片づけたりしてから、なんとなくスマホを見ながら先輩を待つ事にした。  先生に別れを告げて、2人で歩き始めて。  目や肩が疲れたと言う先輩。  じゃあ食事が終わってからクラブに行くとかは無いかなと、咄嗟に思った。でも先週は木曜に行ってたし。まだ、分かんねぇなと思って。  家に連れ帰ればいいのかと、ふと思って、家で食べようと聞いてみた。  先生にもらった5000円で、また今度一緒に食べようとか言われた時は。  なんだか――――……少しだけ。……先の約束が嬉しいような。  ――――……ちょっと。  ……ていうか、ものすごく、意味が分からない。

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