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第318話「片思い」*大翔

 小物まで色々決めてやっと終了。店を出た所で店員と別れると、隣で奏斗が、ふーと息をついた。 「疲れた?」 「……雰囲気に、疲れた。高級感、すごいし」  言いながら、ちら、と見上げられる。 「四ノ宮は、慣れてそう。ほんとにお坊ちゃんなんだな」  何やらしみじみ言われて、苦笑い。 「別にオレが何かしたってわけじゃないけどね……」 「まあ……もう、生まれた身分って感じだよね。継ぐの? 会社とか」 「……さあ? まだ分かんない」 「ほかにやりたいこととかあるの?」 「んー……大学行ってる間にはっきり決めようと思ってるけど」 「そうなんだ……あ」  奏斗がふわ、と微笑んだ方向を見ると、店から姉貴と潤が出てきて、潤がまっすぐこっちに走ってくるところだった。 「潤くん」    クスクス笑って、奏斗がしゃがむ。  しゃがんだ奏斗の前で、ニコニコの潤。 「潤くんのスーツ、楽しみにしてるね。可愛いだろうね」  奏斗がそう言うと、潤はプルプルと首を振った。 「ん?」 「かっこいいなの!」 「え?……あ、うん。そっか。カッコイイ、だよね?」  一瞬首を傾げた奏斗は、クスクス笑って、潤を撫でた。   「そうだよな、男の子だもんな」  頷いてご機嫌の潤の頭に手を置いて、ヨシヨシと撫でる奏斗。 「何だよ、潤、奏斗にカッコいいって思ってほしいの?」  オレがそう聞くと、「うんっ」と満面の笑み。そんな嬉しそうに笑うかと、ちょっと引いてるオレには構わず、奏斗は、「あはは、かわいー、潤くん」とか笑ってる。で、「かっこいい」と、また潤に訂正されてる。 「あ、ユキくん、アレ見てー」  まだ舌足らずな感のある言葉で言うと、奏斗の手を引いて、店のショーウインドーに引っ張っていった。  その二人の笑顔のやり取りは可愛い気もするけど、大好きすぎじゃねーか?と思いつつ。でもやっぱり、可愛いコンビな気がして、ふ、と笑ってしまっていると、姉貴が隣にやってきた。 「……潤が一緒にご飯食べたいんだって」 「え?」 「私たちは夕飯済ませてきたし、もう帰るけどね。ユキくんともご飯食べたいーって、さっき言ってた」 「ああ。ほんと、奏斗のこと気に入ったんだな……」  苦笑いのオレを、ふ、と見上げてくる。 「……妬けちゃう?」  何だか意味ありげに微笑んでる姉貴を見下ろして、「は?」と眉を寄せると。「まあいいんだけどね」とクスクス笑われる。 「あんなちっちゃい甥っ子に、妬かねえし」  ちょっとモヤついた気がするのは隠して、そう言うと。 「甥っ子じゃなくて、小さくなければ、妬くってことね」  楽しそうにクスクス笑われて、前髪を掻き上げて、ため息。 「……別に、付き合ってるとかじゃ、ねーよ」 「うん。分かるわ」  「…………」  あーいやだ、ほんと。  ため息がまた零れる。 「大翔の片思いでしょ?」 「――――……」 「……好きな人、出来て良かったね」 「…………」  まっすぐオレを見つめてそう言う姉貴に、オレは数秒返せない。  好きな人、か。 「……そう見える?」  オレがそう聞くと、姉貴は一瞬オレを探るように見つめてから、クスッと笑った。 「そうとしか見えないけど……」 「……つかさあ。いーの、弟の好きな奴が、男で」  そう言うと、姉貴はますます面白そうに笑った。 「人めんどくせーとか。病んだこと言ってるより、ずっと良いけど」 「……そういえば最近、あんまり言ってないかも」 「へえ。……良い影響だね」  そう言われて、奏斗が潤を抱っこしたのを見ながら。 「……まあ、あの人が、一番めんどくさいんだけどね」  そう言うと、姉貴はオレを見て、また笑った。 「大翔が、めんどくさくてもいいって思えたなら、すごいことだけどね」 「……何でそんな色々いう訳。あんま言ったことないじゃん今まで」  そう言うと、姉貴は、心外なんだけど、と笑う。 「別に構わなかったわけじゃないし。だって、めんどくさいって言ってる子に、何て言ったって無駄でしょ。ほんとに好きな子が出来たらいいなあとずっと思ってたのよ」 「――――……」  ……口で、勝てる気がしない。    

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