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第344話「仲良し?」*奏斗
「美味しい。……な、葛城?」
「そうですね」
四ノ宮のお父さんと葛城さんが向かい合わせで顔を見合わせながら言ってるのを聞きながら、なんとなく四ノ宮とオレも視線がぶつかる。
途端、ちょっとむっとした口をする四ノ宮に、もう何、ムッとされること何かした? と、こちらもまたちょっとムッとする。
どれかな、さっきから仲良くないとか、話どうぞとか、とにかく突き放してるからかな。良く分かんないけど。ていうか、オレは悪くない、と思う。
「四ノ宮、次の、焼こうよ」
「もう入れる?」
「うん、入れて。タコ入れてく」
普通に話しかけてみると、少し声低いけど、普通に返してきてくれたので、まあよしとしよう。油を足してキッチンペーパーでふき取ってから、四ノ宮が液を流し込む。
「奏斗、焼いたこと、ある?」
「初めて」
「そっか」
四ノ宮がなんかちょっと楽しそうに笑った。
……初めてなの、嬉しいのかな。そう思うと、ふ、と笑んでしまいそうになるのだけれど、隣の二人が気になって、素直には笑えない。
「そういえば……潤が雪谷くんに懐いてたって、瑠美が言ってたな」
「確かに懐いてたけど。姉貴、どこまで話してんだよ?」
「瑠美は、大翔も潤も懐いてたって言ってたな」
「はー? 何それ。潤と同じくくり?」
四ノ宮ときたら、そんな風に言って、なんか不満気だけれど。くくりとかそういう問題じゃなくて。
お前が懐いてるっていうのが、なんか、超超、嫌なんだけどね、オレ。……そっちは良いの? 変じゃないの? もう「普通」がよく分からない。オレが後ろめたいから、嫌だなって、思っちゃうんだろうか。
「……四ノ宮、揚げ玉頂戴」
「ん」
「ネギ入れて、ネギ」
「ん」
話を逸らそうと、あれこれ言いながら二回目のたこ焼き、とりあえず具も入れ終わる。
「二回目の方が手際良いかもね」
クスクス笑いながら言う四ノ宮に、そだね、と言いながら、お皿のたこ焼きをぱく、と口に入れる。
「あっつ……」
少し経ったと思うのに、めっちゃ熱かった。口元押さえて、はふはふしてると、「何してんの」と、四ノ宮が水を差しだしてくる。
「……あっつー……」
涙目を少し拭うと、立ち上がった四ノ宮がコップに氷を入れて持ってきてくれる。
「やけどした? 氷なめてなよ」
「ありがと……」
受け取って、氷を口に含む。
「たこ焼きの作りたてって、熱すぎなんだね」
「だね、じゃないから」
苦笑の四ノ宮に、オレも苦笑い。
なんか舌、やけどしたかも……。思いながら、ひたすら氷をもごもごしていると。
「大翔が世話焼いてる感じ、レアだね」
四ノ宮のお父さんのセリフに、は?と四ノ宮が眉を寄せる。
「なことねーし。……むしろ大学ではそっちで通ってるけど」
「本当に?」
驚いた顔で四ノ宮の言葉に反応して、それからオレを見つめてくる。
「そう、ですね。頼られてるイメージあるような……」
まあオレはそれを、なんかできすぎてて、うさんくさいなぁなんて思っていたのだけれど。でも裏側知ってみれば、むしろ表よりも、マジで世話焼きだったような……。うーんうーん。よくわかんないよね、四ノ宮は。
氷をコロコロしながら、またひたすらたこ焼きをくるくる回すオレ。
「ヒリヒリしない?」
「……んー、多分平気……」
答えてると、葛城さんが隣でクスクス笑った。
「どうしたんですか?」
「いえ。なんでもないです。私が回しますよ。 雪谷さん、食べてください」
そう言って、オレの手からピックを受け取る。
「じゃあちょっと食べちゃいますね」
と葛城さんに言うと、また四ノ宮が笑いながらオレを見る。
「奏斗、やけどしないでよ?」
「もう熱いの分かったからしないって」
「それでも、しそうだから言ってる」
「しないし」
ムッとして言うと、四ノ宮はクスクス笑ってる。
「あれ、葛城、うまいね」
四ノ宮のお父さんがそんな風に言ってるのを聞いてそちらを見ると。
「うわーほんとですねー」
「やったことあんの?」
「経験者です」
「え、どこで?」
四ノ宮がちょっと眉を顰めて聞いてる。
何でそんな顔?と思っていると、葛城さんが、ふ、と笑う。
「まあ。ほんのしばらく手伝ってただけです」
「葛城、ほんと謎。今度、人生でやったこと一覧、提出して」
「嫌ですよ」
「謎すぎ」
「でも、雪谷さんも、お上手でしたよ」
「わー、プロに褒められた」
素直に喜んでると、葛城さんが「プロではありませんけど」と笑う。
「つか、オレは?」
「大翔さんより、雪谷さんの方が、かなり一生懸命やってましたからね」
……ぁ、それは。
この空間で、たこ焼き回し器と化してただけ、なんだけど。
苦笑してると、四ノ宮が笑う。
「まあ確かにさっき、めちゃくちゃくるくるしてたもんね」
うん。そーですよ、くるくるしてるしかなかったからね。
笑顔の四ノ宮に、小さく頷く。
「なんか、葛城まで仲良しなんだね、雪谷くん」
四ノ宮のお父さんのセリフに、思わず三人で、顔を見合わせた。
「仲良しというのかは、少し謎ですが」
少しっていうか。
……大分謎だよーと、心の中で叫びつつ、今度は少しふーふー冷ましてから、ぱくっとたこ焼きを口に入れた。
……まあこんな時でも。
たこ焼きは、美味しい。
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