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番外編【夏祭り】16 *奏斗
真剣な瞳。いつもほんわかしてる潤くんの瞳は、獲物を狙うみたいに、ちょっと凛々しくなってて。……というか、狙ってるのか。
ふふ、と笑ってしまう。真剣なのが、可愛くて。
今度は、金魚すくい。家で金魚を飼いたいらしくて、潤くんは、この上なく真剣な顔をしてる。オレは先にチャレンジして、一匹、小さくて可愛い金魚をゲットした。で、四ノ宮は潤くんに言われた、黒い出目金をちゃんとゲットしてる。
潤くんは、どうしても、オレとおんなじ赤いちっちゃい金魚をいっぱい欲しいらしい。オレ達がやるのを、最後までずっと見てて、今が潤くんの番なんだけど。真剣すぎて、まだ、すくう網を水中には入れてない。
「取れなくても一匹はくれるみたいだけど……絶対とれるまでやり続けそうな顔してる」
瑠美さんは、潤くんを見て、クスクス笑う。
四ノ宮が出目金を取ったまま、潤くんのとなりに座って、楽しそうに見守ってる。
なんか微笑ましすぎる。捕れるといいなあ。潤くんの手元が見えるところから、潤くんを見つめていると。思い切ってやったのが良かったのか、上手に網にのって、左手のお椀にうまく入った。やったーと拍手してしまうと、潤くんはめちゃくちゃ嬉しそう。「潤まだ、いけるよ」と四ノ宮が言って、潤くんがもう一度金魚に目を向けた。
で、結局、二匹ゲット。「すごいね、僕」と金魚すくいのおじさんにも褒められて、潤くんはご機嫌。オレと四ノ宮の金魚も、潤くんに上げることになってたので、瑠美さんに渡した。すると、めちゃくちゃ笑顔で、瑠美さんの腕の中で、金魚を見つめている。
ほんと、楽しそうで、のびのびしてて、良い笑顔。可愛いなあ。
「潤くんて素直だよね」
瑠美さんと潤くんが前を行くのを後ろから見つめながら、オレはそう言って、四ノ宮を見上げた。
「そうかも、素直すぎなくらいだよね?」
「四ノ宮もそうだった?」
「まだあの頃はそうだったんじゃないかなぁ……?」
うーん、と考えながら、四ノ宮がオレを見つめて、苦笑を浮かべた。
「素直じゃなかったと思ってるんでしょ」
「んー。どうだったのかなあって」
四ノ宮が少し考えてる顔をしてるので、じっと見つめていると。
「結構小さい頃から、好かれる方法を知ってて、実践してたかも」
「……そうなんだ」
ふ、と笑ってしまう。
「でもさ。四ノ宮は、今、毎日素直だよ」
「――――」
「こっちが恥ずかしくなるくらい。素直なんじゃないかなあ」
クスクス笑いながら、思ったことを言ってしまうと、四ノ宮も、楽しそうに、オレを見つめた。
「まあ、それはね。大好きな人と、毎日居ますから」
「……ほんと、恥ずかしい」
「でもそれ言ったら、奏斗も、結構素直になったと思うけど」
「オレはもともと素直だし」
「へー」
二人で、顔を見合わせて、笑った時。すれ違った人ごみに押されて、四ノ宮の手と触れ合った。あ。と、引こうとした時。
「はぐれそうだから」
四ノ宮がオレの手を掴んで、そう言って微笑んだ。
――――ますます増えた人込みの中なので、誰も、見えないと思うし。
いつもさんざん触れ合ってるのとは、すこし違う。
軽く触れ合う、四ノ宮の温度が、嬉しくて。すごく、ドキドキする。
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