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「あのっ、どこ行くんですか?」
今現在僕はシュウさんの腕の中に居た。というのも、僕とシュウさんの身長差は約50という驚きの数字で手を繋ぐには少々辛いのだ。
.......本当は僕が手を離して欲しいというのをオブラートに包んで伝えた結果、こうなったんだけど。
いや、身長差のせいで手が繋ぎずらいというのもあながち間違ってはいないなのだが、僕としてはこのシュウさんに触れているだけで背筋がゾワゾワするから触れないで欲しいというのが本音だった。
(横抱きじゃないのは喜ばしい事なんだろうけど、まさか片腕で抱っこされるなんて.....結構精神的にクるなぁ)
抱っこは抱っこでも片手での抱っこなため、僕は落ちないようシュウさんの首に手を回さざるおえないのだ。
辛い。
密着度が僕のSAN値を削ってくる。
しかもシュウさんが着けている香水なのか、柑橘系の爽やかな匂いが香ってきて.....なんだか落ち着かない。
そんな僕に対してシュウさんはというと、目的地を言わずただ悠然とその長い脚を無言で動かしていた。
ついにその無言に耐えきれなくなった僕が話しかけ最初のセリフに繋がるのだが、彼は驚くべきことに「どこ行く?」と逆に聞いてきた。
「ゲーセン?カラオケとか?.....腹減ってんならどっかの料理店に入ってもいいぜ。あ、なんなら俺の家行くか?」
僕の機嫌を取るように猫撫で声でそう聞いてきたシュウさんにぞわりと鳥肌が立つ。
まだ出会って数分の関係なのに、ただぶつかっただけの関係なのに......この人は何がしたいのだろうか?
「僕、もう帰らないと.....家でお義母さんが待ってるし」
「.......ふーん」
「あの......」
「ま、飯だけでも食ってこうぜ」
彼はそう言って、ちょうど目に入ったファミリーレストラン店に足を踏み入れる。
カランコロンと扉の鈴が鳴ると店員がやってきて僕達2人を見ると一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔で席に案内してくれた。
どう見ても兄弟に見えない僕達だ。まだ誘拐犯と被害者と言った方が納得するだろう。
でもあの店員さんが何も問題なしと判断したのは多分.....シュウさんのこの雰囲気だ。
「何食いたい?好きなもん頼めよ」
この僕を猫可愛がりするような雰囲気のせいだ。
他の席からチラチラと視線が集まるほどシュウさんの笑顔はかっこよく、そして甘い。
僕は早く帰りたくてすぐ食べれそうなアイスクリームを頼む。お義母さんに夜ご飯いらないって言ってないから、ここでガッツリ食べてしまうと家で残してしまうことになる。それは作ってくれるお義母さんに申し訳ない。
暫くすると店員さんが「アイスクリームです。ではごゆっくりどうぞ」と言って持ってきてくれた。
(ごゆっくりするつもりはないです....)
内心そう思いながらスプーンを使い急いで食べる。
「.......」
「.......」
気まづい。
ここに入ってからシュウさんの視線は一度も僕から離れなくて、なんなら食べている今も視線を感じる。なにか僕に言いたいことがあるのかと思い、チラリと目を合わせても彼はニヤニヤするだけで何も言ってこない。だから僕が食べて、それを一方的に見られるというどうしようもない状況が今も続いてしまっている。
「ご馳走様でした.....」
そして地獄のような時間を過ごした。せっかくのアイスクリームの味が全然わかんなかくて、なんだかお店の人に申し訳ない......。
その後ファミリーレストランを出て帰ることになったのだが、シュウさんは僕を家まで送ると言ってきた。
「いえ、いいです。1人で帰れますので......」
「送る」
「っ、僕の家ここから近いんですよ!だから大丈夫です!」
本当はここがどこか知らない。シュウさんがデタラメに歩いたせいでここがどこかだなんてとっくにわからなくなっている。
でもとにかく、この人から早く離れたかった。
「送るっつってんだろ。何度も言わせんな」
もうダメだ。叫ぼう。怖すぎる。
幸いここは人通りが多い。小学生の僕が叫べばきっと助けてくれる。
そう決断し口を大きく開いた瞬間ーー
「血が見たいなら叫べばイイ。俺にはその力があるからな」
淡々とした冷ややかな声が降ってきた。
顔を上げればまるで僕を見定める視線。
(この人は本気だ。本気でここに居る無関係な人を殺せるんだ)
周りに目をやると会社帰りなのかくたびれたサラリーマンが歩いていた。
子供と手を繋いで歩いている人もいる
互いに笑いあっている高校生も
赤子を抱いて歩いている人も
買い物帰りなのか荷物を持った主夫も
そこには色んな人の日常があった。
穏やかで、平和な日常が。
.......握る拳に力が入る。
そして僕はーーー
「誰か助けて!!!!!」
他人の命より自分を取った。
目の前の男はニタリと笑う。
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