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《no side》
ある場所で......
ザワザワザワザワと人々は大騒ぎする。
瓦礫の山が積み上がり、砂煙が舞っているそこは大きなマンションがついさっきまで建っていた場所だ。
そんな場所を一人の男がケホケホと舞う砂煙に咳をしながら辺りを注意深く見渡していた。男は瓦礫の山のそばに行っては耳を澄ましたり、誰かの名前を叫びながら瓦礫を慎重に退かしたりと必死な様子である。
.......それもそうだろう。
男はこの倒壊したマンション『ユーベラス』に家族が住んでいたのだから。
彼の妻と2人の子供.....。その日は休日ということもあり以前から子供達が食べたがっていた有名なオムライス店のテイクアウトを電話で注文していた。
そして取りに行き、帰ってきたら.....帰る場所が瓦礫と化していたのだ。
その光景を見た時、男は理解できなかった。
目の前に映る光景は現実なのかと疑うくらい信じられなかった。
だが、目の前の光景が真実だ。事実だ。現実だった。
昼の太陽が照りつける。
男は手に持った袋を投げ出し家族を探した。スマホにかけても妻が出ないことが男を更に追い詰め、絶望を煽る。
しかし男は顔をくしゃりと歪めながらも、喉が張り裂けんばかりに家族の名前を呼ぶ。
その時、男の目にぶらりと垂れ下がる手が見えた。
「オイ、こっちに人が埋もれているぞ!っ、待ってろ今引き上げるからなっ!!」
男は自分と同じように誰かを探している男達に声を掛け急いでその手に駆け寄る。
「大丈夫か!?おい聞こえてるか!?」
瓦礫に挟まれているのか隙間から見える手の持ち主にそう声をかけるが応答はなく、手もピクリと動かない。
男はその手を握り引き上げようとした。少しでも息がしやすいように、少しでも助かるという希望を与えたくて、男は救助しようとする。
ズルっ....ドスン!
「いてて.......な、に...?」
男は少し引っ張った。だがそのまますぽっと抜けた感覚に思わず後ろに尻もちを着いてしまった。
手を離しちまったか?と思い自分の掴んでいる手を見ると.....そこには変わらずに助けようとした手があるだけだった。
しかしその先に身体はない。
「うぁ、ぁぁああああああ!?」
思わず手を離す。すると地面にポトリと腕が落ちた。
サイレンが鳴り響く。
救急隊員や近所の人も力を合わせ生存者が居ないか捜索する。
このマンションの倒壊は突然だった。
「地震もなかったのにそれはおかしいのでは?」
「もしかして老朽化してたとか?」
「いや、あのマンションは建てられたばっかだ」
「カタラの仕業か?」
「誰かが戦闘でもしたんじゃないか?」
「聖域内にカタラだと?ありえん」
「不自然な崩れ方しなかったか?」
ユーベラスだったものを見て人々は口々に噂する。
そして瓦礫の中から1人の男が這いずり出た。
適当に切られたざっくらばんとした黒髪に血のように真っ赤な瞳。顔は血と砂で汚れていたがその男の顔は整っていた。しかし右目を通る縦状に大きく切りつけられたような傷が目立っており、右目は閉じられている。
そして男は何故かパンイチの姿をしていた。だが、この倒壊に巻き込まれたにしては体に傷一つついていない。
彼は這い出た場所で胡座をかきその顔を顰める。イライラしているようで「あ''ーっ」と呻いたり、髪を掻きむしったりしていたが、遂にはーー
「クソがっ!!!!」
自身の拳を地面に打ち付け怒気を露わにした。打ち付けられた地面は大きな音を立て陥没し、砂煙が舞い辺りを見えなくする。血が出てもおかしくない衝撃だったが男の拳は無傷だ。
「俺としたことがっ!!」
男は自身の詰めの甘さに腹を立て呻く。
(予想しておくべきだった。アイツが力を行使できる可能性を。なのに俺は子供だからまだ能力が発現していないだろうと決めつけ対策をとらなかった。つまりアイツを舐めていたんだ)
「クソっ、クソっ!!」
(ぬかった....!!)
あいつ.....弥斗の調査書を見た時、違和感を覚えた。孤児院から引き取られ今の家に養子として迎えられたと書かれていたが、孤児院出にしては教養と知識がありすぎる。それに弥斗が育ったのは普通の孤児院だ。異能の扱い方など教えれるわけないだろう。弥斗が今通っている学校も然り。弥斗が今いる家にも異能を使えるものはいない。
(なら弥斗は誰に教わった?)
それが示すのは弥斗の調査書は嘘だということ。その調査書に両親共にザントとあったが、マンションを崩壊させたとき弥斗は手ぶらだったことから疑問が湧く。それはザントなら魂写棒を顕現させ始動しなければあんな芸当不可能だからだ。
(ザントっていうのも偽の情報かもしれねぇ)
男――愁は頭を掻き空を見上げる。しかしその左眼は空を見ているようで見ていない。....虚ろだった。
「殺すならしっかり殺せよ.......」
愁の呟きは騒ぎにかき消される。
その日起きたマンション倒壊は多くの人々の命を奪った。その数何と数百人を超える。不幸にも前ぶりもなく突然崩壊したため対処出来た人は数少なかった。異能者でも自身の能力を咄嗟に使ってなお亡くなった者はいる。
この日の出来事はユーベラス倒壊事件と名付けられた。
《side end》
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