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エピローグ
雨が降る大通り、ある電気屋の店頭には大きなテレビが飾ってあった。そしてそのテレビの前には傘を差した少年が立っており、ボーッと画面を見ている。
その少年につられたのか、道を行く人が歩みを遅くしはチラリとテレビを見る。
中には足を止める者まで。
『はい、今日もやってまいりました。キヨちゃんの夕方お喋りのお時間です~!相方はお馴染みのタカくんでお送りしまーす!』
『タカです、どうも』
『いや~それにしても3日前はヤバかったね!!かの有名なユーベラスマンションが突如倒壊して、近くの廃潰森が燃えたんだって。一日でこんな大きな事件が起きるのは稀だよ稀!!』
『そうですね。まず無い事です。それにユーベラス倒壊事件は死傷者数が数百人を超えたと聞きます』
『そうそう!!ユーベラスは死傷者多かったよね!まぁ休日のお昼時間だったから外食に行かない人達は......うん。時間と曜日が悪かったんだ。まさかあんな真昼間に突然自宅が倒壊するなんて誰も予測できないよ』
『....キヨは原因はなんだと思う?』
『ユーベラス倒壊の原因.....僕が見た感じ結構不自然な倒壊のしかたしたよね?まだ建てられて5年も建ってないユーベラスが自然に倒壊するわけないんだよなぁ。質実剛健・絢爛豪華を謳うユーベラスはとてもセキュリティが高く、そして倒れにくい。耐震もバッチリなはず。それが自然倒壊するだなんて有り得ない!!』
『....有り得ないというのは有り得ないんじゃないですか?』
『いーや!有り得ないね!!それにほら見てよこの映像、ユーベラスは上から崩れてるんだ!それも豆腐を斬るようにスパッとね』
『まぁユーベラス倒壊は誰もが人為的だと思っているでしょうね』
『え~っなにさ!タカくんが有り得ないというのは有り得ないじゃないですか?って聞いてきたくせに~!』
『.....話を戻します。ユーベラス倒壊の犯人はまだ捕まっていません。犯人と思しき人物に繋がる証拠はまだ見つかっておらず、捜査は難航しております』
『そんなのあったり前じゃーん!普通の警察が捜査して証拠が見つかるとでも~?なになに?テロだと思ってる?複数犯だと思ってる?そこはどうなのタカくん』
『.....私は複数犯だと』
『タカくんってばわざと思ってることの反対言うよねぇー。どんだけ僕にしゃべらせたいの』
『喋るの疲れる....』
『はいそこ、聞こえてますよ~。キャラはちゃんと保とうね!!ゴホン....えーっと、僕は犯人は単独犯だと思います。それも異能者!!』
『それは何故ですか?』
『まず、こんなどデカいユーベラスを一刀できるのってどう考えても異能者だけじゃん?爆弾でこんな綺麗に切断できないし』
『では、単独犯というのは?』
『まずさぁ、なんでユーベラスが狙われたの?って思った。ユーベラスって結構有名な人が住んでるとか噂あったじゃん?テレビとかで特集もされてたしさ!だから誰か権力ある人を殺そうとしたのかも.....っていうのがネットでされてる推測』
『ネット界隈ではそんな推測が.....』
『僕は.....でも、これはほんとか分からないんだけど....ユーベラスは異能者が多く住んでるっていうのを耳にしたことがあるんだよね』
『異能者が?それは初耳です』
『いや、噂ね?ホントかどうかわかんないよ?で、もしその異能者が多く住んでるっていうのが本当だとすると....異能者同士の戦いとかあったんじゃないのかなぁって。ほら、彼らは例の学校出身者が多いからさ』
『あぁ~......』
『それなら復讐やらで殺し合ってても不思議じゃないよね!だから普通の警察に捜査は無理っ!!異能者取締り部隊....つまり執行人じゃなきゃ追えない』
『犯人が異能者となると確かに普通の警察では追えませんね。異能者同士の戦いと言っていましたが、それだと複数犯という括りになりませんか?結果ユーベラスを倒壊させた訳ですし』
『うーん、単独犯っていうは僕の勘なんだよね。今は瓦礫と化して戦闘痕が発見しにくいだろうけど、なーんか一方的に攻撃して倒壊したって感じがする』
『なるほど。では話は変わりますが|廃潰森《はいかいもり》についてはどう思いますか?』
『廃潰森ねぇ.....。なんかさ、廃潰森に火が上がったのってユーベラスが倒壊した後らしんだよ。だからさ、ユーベラスを倒壊させた犯人が廃潰森燃やしたんじゃない?廃潰森はユーベラスからまぁまぁ近い距離にある森だし』
『?......なぜ犯人はそんな森を燃やすようなことを?目立つじゃないですか』
『それは僕もわかんない。追ってから逃げるときに火をつけたのかもしれないし、執行人への挑発で燃やしたのかもしれない。.....うーん、犯人の思惑がわかんないなぁ』
『.....それはやはりおかしいです。廃潰森にあがった火は青かったそうですよ?ユーベラスを倒壊させた異能と青い炎は別人じゃなければおかしい。異能は一人一つが常識です。ユーベラスを倒壊させた斬撃と青い炎は系統が違い過ぎます』
『確かに......言われてみればそうだね。同一犯ではないとなると.....?』
『.....ここで新しい情報が入りました。どうやら執行人が動くそうです』
『あらら。ま、そうだよねぇ。なんせ数百人規模の死傷者を出した極悪人が逃走中だからね。安心して眠れないよ~』
『はぁ、では次はーーー』
店頭のガラス越しに放送するテレビは数日前起きたユーベラス倒壊事件と廃潰森の火事について話をしていた。そのテレビの前に集まっていた人々は事件の話が終わると興味が無くなったのかひとり、またひとりと自身の生活へ戻っていく。
その場に残ったのは最初から居た傘を差した少年だけ。しかしその少年も暫くしてフラフラと暗い路地へと足を向けた。
大通りの雑多の声が遠ざかる。
「あは......」
壁に背を向けズルズルと座り込んだ少年の口から乾いた笑いが漏れ出た。傘はそこら辺に放り投げられており雨が少年を濡らすが、彼は気持ちよさそうに目を細める。
「数百人規模かぁ.....その内何人死んだんだろうね?関係の無い人が。その中にシュウさんが入ってるといいけど.....あぁ、うん。そうだね。僕は間接的に人を殺したんだ。ひとごろし」
少年の近くに人は居ない。彼はただ独り空虚にそう呟く。
「.....もう殺しちゃったなら後戻りできないなぁ」
雨音が酷くなる。
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