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幕間1

《ある一室で part①》 観式(みしき)学園 そこは異能者達が通う専門学校である。ザント・サナート・ヴァイス....彼らはこの学園でカタラ狩り、対人戦について叩き込まれる。そして観式学園を卒業した暁には貪る影(カタラ)対策本部、通称『対影』に入ることが出来るのだ。学園ではもちろん一般教養もハイレベルな水準で行われているため対影に入らなくてもエリート街道を歩くことも可能。まさに夢のような学園で、数うちある異能者学校の中でもレベルが高く有名なのが観式学園だ。 しかしそんなハイスペックな学園でも、一般人なら顔を顰めたくなる側面もあった。 それは学園内での生死に関わる戦闘は法に問われないこと。例え気に食わないやつを殺しても無罪放免というわけだ。弱いものは死に強いものが生き残る。まさに弱肉強食の世界。 そんな観式学園は幼等部からエスカレーター式の学校でもあるのだが、普通に一般入試でも生徒を歓迎している。その結果とてつもない数の生徒を抱えることになるが、半年経つ頃には生徒数が半分になったりするので問題ない。時々途中入試を設け生徒を新たに補充することも。 ここだけ見ても観式学園が過酷な環境に置かれているのがわかる。 しかし死ぬのは一般入試で入ってくる者ばかりだった。幼等部からエスカレーター式で学年が上がる者達の中には蹴落とし・謀殺し・裏切り・殺すことに慣れた生徒が居り、彼らを『古参組』と呼ぶ。古参組は観式学園では畏れられる存在である。観式学園で生き残るには古参組に気をつけろと言われるほど危険な存在なのだ。 そんな古参組に頭を悩ませる者がいた。 「あ~っ!!クソめんどくせぇ!!!」 整頓された部屋は入った者が思わず背を正すような厳格さがあり、人を萎縮させる。しかしそんな部屋の最奥のデスクに足を投げ出し座る男がいた。 くすんだ金髪をアップバンクソフトにしサイドをツーブロックにした赤眼の男前。彼は『独裁者』という異名を持つこの観式学園の風紀委員長だ。 風紀委員長なのに独裁者と呼ばれるのはどうかと一部のまともな生徒達は思うのだが、彼の性格を知ると納得と頷く。 「なんでっ、こんなに違反者が多いんだ!?アイツらの処理で今日の俺様の睡眠時間3時間だぞ!?」 ガンッ!と投げ出していた足をデスクに叩きつけ、苛立たしげにそう吐き捨てた。この特殊な学園は違反者という名ばかりの異常者が大変多くいる。そいつらを取り締まり、罰する役目を負う独裁者は毎日のように違反者達に頭を悩ます。 「中でもあの古参組の奴らは全然しっぽを見せねぇしよォ.....もう古参組の奴ら全員片っ端から懲罰棟に収容するか?おし、そうするか」 「何言ってるんですか?」 今にも書類を破り捨てそうな雰囲気の独裁者に呆れたような声がかかる。声をかけたのは部屋中央に置いてあるソファに腰掛ける美青年。その美青年は肩口で切り揃えた茶髪に、可愛いと綺麗のその間の美貌を持っていた。首には赤い色のΩ特有の首輪をしている。 そして彼はカチャリと手に持っていた紅茶をテーブルに置き独裁者になんともいえない視線を向ける。 「貴方はもともと証拠とか関係なしに懲罰棟へぶち込むじゃないですか。何を今更」 「そりゃー『疑わしきは罰せよ』だからな。俺様が違反者っつったらそいつは違反者なんだよ。そいつは俺様にそう言われる行動をとったんだからな」 「はぁ....なら早く『蒐集家(コレクター)』を懲罰棟にぶち込んでくださいよ。今現在でもう十数名の被害者(仮)がいるんですけど?」 美青年の言葉に独裁者は忌々しそうに顔を歪め、手に持っていた書類をぐしゃりと握りつぶした。 「そんなんわかってんだよ。だが、被害者のどいつもこいつもが俺んとこに被害届を出してこねぇからなぁ!!俺だってイラついてんだよ!!」 ガンッ....バキッ! 「.....もう、デスク壊すのやめてくださいよ。私があと片付けしなきゃいけないんですから....」 「チッ!」 デスクを蹴り壊した独裁者はダルそうに脚を組み天井を見上げた。今、彼の頭の中では三つの厄介事がぐるぐる回っている。 一つ目は異名持ちの中でもタチが悪い違反者の捕縛。特に『戦闘狂』・『蒐集家』・『地雷原』の三人。いや、地雷原は今この学園に居ないため除外するが、あとの二人が問題だ。 二つ目はこの学園に入学・持ち上がる達のこと。上級生の違反者達について先代からの引き継ぎが機能してないないというのに、それはまた新たな厄介事を抱えることを示す。ただでさえ人員不足な風紀委員には発狂案件だ。 そして最後....常に独裁者の頭の隅に居座り苛立たせる問題事。生徒会の存在だ。 (あぁ、殺してやりたい。あの面の皮が厚くて胡散臭い野郎を....。苦痛を与え惨たらしく殺してぇ) 「委員長!!」 独裁者はハッとしたように天井から視線を部屋に居るもう一人に向ける。 「椅子の肘掛部分....握りつぶしてますよ」 視線を落とすと椅子の肘掛はヒビ割れ、一部分が欠けていた。独裁者は手を開くとパラパラと肘掛の破片が地面に落ちる。 「何やってるんですか....。結局デスクと椅子を新調する羽目になるんですね私は」 「.....ふん」 「委員長なにか私にご褒美を下さいよ」 独裁者がバツが悪そうに美青年から顔を背けたことに美青年はここぞとばかりに褒美を強請る。そんな美青年に対し、またかというような顔で独裁者はため息をついた。 「テメェの担当は変えねぇ」 「なんでですか?ただでさえ忙しいのに副委員長である私を雑魚に回すのは非効率です!私にも異名持ちの相手をさせてください!!」 「あぁ、それなら別にいいぜ」 「!!っ、なら私を戦闘狂の担当に...」 「それはダメだ。戦闘狂以外の異名持ちなら任せてもいい」 何度も繰り返すこのやり取りに独裁者はウンザリしていた。どうにも目の前の男は戦闘狂に執着しているきらいがある。風紀は公正公明でならなければならない。だから独裁者は副委員長の強請りを却下する。戦闘狂と副委員長の間に昔何があったのかは知らないが、風紀の長としGOサインを出すわけにはいかない。 言っておくが、独裁者が公正公明に風紀に向き合っていないことは風紀委員の誰もが知っている。 そのため副委員長は内心どの口が言ってるんだとキレているのだが、独裁者はそんなもの知る由もない。 「.....そうですか。それなら別の異名持ちで構いません」 「珍しいな。テメェなら戦闘狂を担当できないなら雑魚狩りでいいですっつーと思ってたんだが」 「別にいじゃないですか。気分ですよ」 「怪しいなぁ.....ま、いい。悩みの種の快楽殺人鬼(シリアルキラー)が懲罰棟に入ってっから、テメェが死ぬことはないだろう」 「私の事舐めてます?これでも風紀の副委員長を務めるくらいには実力があるんですが」 「快楽殺人鬼と戦闘狂......地雷原は別格だ」 「.....」 なおも不満そうな雰囲気を出す副委員長に独裁者はイラつきガタリと椅子から立ち上がった。それを見た副委員長は今まで出していた不満を押し殺しニコリと笑みを作り紅茶を手に取る。独裁者は例え姫と持て囃される副委員長であっても平気で殴る。それも顔面を。 だから副委員長は独裁者のギリギリを常に気にしている。どこまでがセーフでどこまでがアウトなのか。 「.....何かあったら呼べ」 どうやら今回はセーフだったようだ。 すれ違うようにこの部屋から出ていく独裁者に副委員長はホッと安堵の息を吐く。 「全く....委員長はある意味平等ですね」 憂うように伏せられた黒い瞳は紅茶の揺らぎをボーッと見ていた。

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