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幕間3

《ある一室で part③》 そこは一見、普通の教室に見えるがよく見るとガラスにヒビが入っていたり、授業を受ける教室にしては机や椅子がなく代わりに大きなソファが置いてあったりとどこかおかしい。 まるで自室のように寛げる空間と言うのだろうか? まぁとにかく、改装された教室に二人の生徒が居た。 「つまんねぇ.....」 大きなソファにこの教室の王者だと言わんばかりにだらしなく座る青年が呟く。目の前にあるテーブルに足を乗っけるなど行儀悪い姿勢だが見た目も相まって様になっていた。 前髪を横に流した白髪のソフトモヒカンでサイドは長め。太めの眉はキリリとしており、青年を男臭く見せている。 「懲罰棟にでも行くか?」 まるで名案だとでも言うように青年は自分の言った言葉に笑みを浮かべた。 「えぇ~今の時期にそれやっちゃうんすか?風紀委員長が黙ってないっすよぉ」 しかしそこに待ったをかける声が。 白髪の青年が座る向かいのソファに寝転がる青年がいた。左サイドに×(バツ)剃り込み(ライン)がはいった黒髪坊主に琥珀色のにまっとした瞳。 そして彼は手に持つ雑誌に目を向けながら白髪の青年に続けて言った。 「ただでさえ戦闘狂捕縛すべし!って風紀に監視されてんのに、そんなことしたらもっと動きずらくなるっすよ~。オイラは嫌っす。これ以上見張られる生活は。この前トイレ出たら風紀のヤツらが目の前に居たんすよ!?なんでオイラも見張られてるんすかね?」 そう嘆いた青年は手に持っていた雑誌を丸め、いきなりひび割れた窓にへと投げる。雑誌は物凄い勢いで硝子を突き破り、投げた青年の視界から消えた。 と、同時に悲鳴が聞こえる。 「あちゃ~.....下に人がいたか。オイラはただ雑誌を棄てただけなんすけど、悪いことしちゃったなぁ」 「....お前は風紀に監視される理由あるだろ」 「えっ!?どこにっすか?」 「自分で考えろ」 心底分からないと言う顔をする青年に白髪の青年ーー戦闘狂はどうでもよさそうにテキトーに言葉を返した。しかし次の瞬間ひくりと鼻を動かし、バッと凭れさせていた身体を起こす。 「血の匂いだ....」 「うわマジっすか?」 戦闘狂の爛々と輝く赤い瞳に青年は顔を真っ青にさせた。 戦闘狂は異名の通り戦うことが大好きな男だ。強いと感じた者や戦闘狂の琴線に触れた者にはすぐ喧嘩を売る。しかしそれだけならまだ風紀の過剰な監視はつかない。じゃあ何故そんなに風紀に目をつけられているのかと言うと.....。 戦闘狂は血を見たり嗅いだりすると身体が疼いて誰彼構わず拳をふるう悪癖を持っているのだ。 この観式学園で血を流さない者はいない。そして戦闘狂は化け物じみた嗅覚を持っているのか血の匂いだけは遠くても嗅ぎ取ってしまう。その為、彼は歩く兵器として恐れられる。 彼がその悪癖を嫌悪するならまだしも救いはあるのだが、本人は嫌うどころか楽しんでいるため手に負えない。 「ちょっと!?異能を始動しなでくださいよ!?あっ、そうだ!天使!!天使を探してきたらどうっすか!?」 暴力の矛先が自身にへと向いているため焦りながら青年は戦闘狂に叫ぶように言った。 『天使』 その単語を聞いて戦闘狂の爛々と輝く瞳は落ち着きの色を見せる。 「天使.....オレの天使はどこにいんだろうな」 青年と戦闘狂は古参組で長い付き合いだ。しかし戦闘狂の性格を把握している青年でも目を剥くほど、この男が可笑しくなったときがある。 初等部の頃だ。 ストレス発散で森から帰ってきた戦闘狂は彼に天使の存在を信じるか?といきなり聞いてきて、自分が答える間もなく天使について語り出したのだ。艶やかな黒髪で吸い込まれそうな黒い瞳。目にも止まらぬ姿でカタラを狩りヘマをした自身を助けてくれたのだ、と。どうやら同じくらいの背丈をしていたらしいため、当時その天使とやらを探していた戦闘狂に同じ初等部の人間では?と助言した。 その瞬間彼は羽根があったと怒鳴り殴りかかってきたのだ。どこにキレるスイッチがあったのかわからなかったし、言っている意味もわからなかった。 とりあえず、わかったわかったと戦闘狂の言葉を信じることを伝え何とか落ち着いてもらった。死にかけたのはそれが初めてだった彼は天使についての言葉は気をつけようと心に決め、天使を探すという戦闘狂に協力することにした。 だが探しても探しても見つからずこのへんには住んでいないのではと結論がでた。 この男の戦闘狂が酷くなったのも助けてもらった時天使は強かったから、強いやつと闘えばいずれ天使に辿り着くんじゃね?というとち狂った考えが影響するのではないだろうかと青年は思っている。 「もしかしたらオイラ達が見落としてた可能性があるっすよ?また探してきたらどうっすか?」 ここぞとばかりに青年は戦闘狂をこの教室から追い出そうとした。こうして青年が五体満足で戦闘狂の友人をやっていられるのはこういう口の上手さと誘導の巧みさがあるからだろう。 現に戦闘狂は天使を探しに行こうと教室を出ていこうとした。 「天使探し頑張ってください!応援してるっす!」 「おう!」 戦闘狂を見送った青年は教室で一人、手を合わせ合掌する。 それは天使が見つからないことに対しイラつきながらも血の匂いに興奮した戦闘狂による周りへの被害を考えたからだ。暴力の嵐に巻き込まれる生徒達に「成仏するっす」と祈る自分は優しいと思っている青年だが、そもそもそう誘導したのは他ならぬ青年である。 やはり古参組。青年もどこかイカれている。

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