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《side 兎道 湊都⑤》

俺はただ走る。本当はもう走らなくても入学式に間に合うのだが、どうしても頭を真っ白にしたかった。全力で走ったら考える余裕なくすって聞いたことあっからやってんだけど、頭の中に何度もあの傲慢男の姿と言葉がリフレインされる。 効果ねぇじゃん!! いい匂いしたなとか イケメンだったなとか すっげぇ強かったなとか あの傲慢男を褒めるようなことを考えてしまう! 「消えろクソ~っ!」 ドンッ! 「わっ」 「うぉ!?」 やべっ....ぶつかっちまった 何してんだよ俺..... っていうか鼻痛てぇ。ぶつかった相手が俺より背が高いっていうのと、体幹がいいのはわかった。 だって俺が全力疾走してぶつかったのに吹っ飛んで尻もち着いたのは俺だけで、相手は壁のようにビクともしていないようだった。俺だって鍛えてんのになんかこういうのショック受けるな.....。 取り敢えず悪いのは俺だから謝ろう。ついでにどんなごついやつなのかも拝んでやる。 「悪いっ、怪我ないか!?」 痛む鼻を抑えながら顔を上げると....いかにも日陰で生きてますって感じのやつが目の前に立っていた。どこで買ったんだよ?と思わず聞きたくなるような瓶底メガネに、長い前髪。それに全然ごつくなかった。 (は?俺と同じくらいの薄さじゃん。なのに吹っ飛んだのは俺だけ?嘘だろ!?) そう驚いていると手を差し伸べられる。 「あ、うん。こちらこそすみません。よそ見をしていました。貴方こそ大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ?」 俺は差し出された手を掴み「あ~.....多分走ってたからかな?大丈夫だ」と起き上がる。 「走ってた....なにか急いでたんですか?」 「そういう訳じゃねぇんだけど、なんか記憶を消し去りたいというか、考えたくないというか、勝手に浮かんでくるのをやめさせたいというか....」 「なるほど。そういう時は.....」 バシッ! 「は?」 え、なんで俺は頬をぶたれたんだ? は、え?なんで? 「どうです?頭真っ白になりました?」 「どういうこと???」 「初対面の人に叩かれたら頭真っ白になりません?」 「あっ、ほんとだ!すげぇなお前!!」 「んふww」 「え?」 なんでそんな口元プルプルさせてんだよ? 「んんっ!いえ、君はとても素直な子なんだなと思いまして。良かったら一緒に入学式会場まで行きませんか?」 「おう!」 見た目は暗そうな奴なのに結構良い奴だな! 友達一号ゲットだぜ。 「俺、 兎道 湊都(うどう みなと)って言うんだ。湊都でいいぜ」 「僕は 一条 燈弥(いちじょう とうや)。好きなように呼んでください。あ、聞きたいんですけど君付けかちゃん付けどちらで呼ばれたいですか?」 君付けかちゃん付け?変なこと聞くな....。 「そりゃ君付けだろ。俺こんな見た目だからちゃん付けされることが多いんだけど、嫌なんだよな.......女の子扱いされてるみたいで」 「おんな?」 「いや!なんでもねぇ!!君付けでよろしく!」 「じゃあ兎君で」 「兎.......まぁいいけどよ」 自己紹介を終えた俺達は入学式会場へと一緒に向かう。その道すがらそれにしてもと並んで歩く燈弥のことを考える。 燈弥のベルトから魂写棒が吊るされてるから俺と同じザントなのは分かったが、どう見ても戦闘系に見えない。さっきはぶつかって跳ね返されたが、なんというかモヤシ(?)オーラだ。 つまりひ弱そうに見える。 身長も170を越して(羨ましい)いてパッと見標準体型より細く見えるぐらいだ。 俺が跳ね返されたのほんとになんでだ? これでも俺は腹筋割れてんだぞ!?なんだ、やっぱ身長なのか!?体重なのか!? 150後半と170越えの体重の差ってそんなデケェのか!? いや、きっと燈弥は着痩せするタイプなんだよ。本当はムキムキに違いない。決して俺が軽いわけではないんだ!! そう、悶々と考えていると隣から視線を感じた。 「なんだよ、俺の顔になにかついてるのか?」 「......兎君ってαですか?」 「.....なんでそう思ったんだ?」 「え?だってΩなら首輪してないと可笑しいですし、βにしては.....平凡さがない?でもαにしてはオーラないような気もしますね」 「燈弥って毒舌だな」 「βかαで迷いましたけど、勘でα」 「勘かよ!?まぁαなのは合ってるけどな!」 俺がケツを掘られない為の方法.....ズバリっ、αに擬態することだ!!!! Ωってだけでケツを掘られる確率が高くなるからな.....。だからΩと思わせないために俺は首輪をつけないことにした。 でも思ったんだけど、この学園に来てからもう既に襲われかk.....いやいや、あれは何かの間違い(?)だ。 うん、俺の企みは成功だな!!学園に提出した俺の資料はαと書かれているが、親がこの学園の理事長と仲がいいらしく話を通してくれたらしいから俺が話さなければΩとバレない!!理事長も(面白そうだから)手伝ってくれるらしいし、俺の学園生活は安泰だ。 燈弥を騙せれたぜ!うししししっ 「燈弥はβだろ!!」 「うん、正解です」 「ふふん!」 「ドヤ顔しないでください」 「あっ、あの空いてる席座ろうぜ!」 話している間に着いた入学式会場の体育館。丁度並んで座れる席を見つけて俺は燈弥の手を引きそこへ座った。 「うぉ~っ!ドキドキしてきた!!」 「ちょ、いきなり耳元で叫ばないでくださいよ。そんな興奮してどうしたんですか兎君.....発情期ですか?」 「殴るぞ?俺はこれからの学園生活が上手くいくか心配なの!燈弥はドキドキしねぇのか?」 「うーん、どうでしょう?まぁ入学式初日で友達が出来た時点で未来は明るいと思っています」 うぉぉぉぉ.......燈弥って平気で小っ恥ずかしいこと言うんだな。本当に見た目と中身が合わない。毒舌だし。 「あ、始まるみたいですよ」 「おっ、マジか」 壇上に白い軍服を着た男が出てきた。白ってことは教師か....汚れとかついたら目立つだろうなぁ。 俺は多分ラーメンとか怖くて啜れねぇ。 『今から入学式を始めます。全員起立――』 あ~またドキドキしてきたぜ

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