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「新選組副長、土方歳三だ。クラス? そんなことはどうでもいい。俺がある限り、ここが___新選組だ」 まさか召喚に応じてくれるとは思っていなかった。 彼の存在は、もうずっと前から知っていて。生前、“鬼の副長”と恐れられていた、と既にカルデアへと()ばれている沖田総司の話を聞いていた立香は、そんな彼が怖くて怖くて仕方なかった。 いったいどんな鬼なのか。 女流剣豪の話を聞いてからは、立香の頭の中はそればかりが占めていた。 やはり般若のごとき恐ろしい顔なのか。性格も悪いのだろうか。…よもや酒天童子や茨城童子のように角が……。 「…い……先輩!」 考え出したらそれはつきることを知らず、マシュの問いかけにも反応が鈍くなってしまう。慌てて返事をするも、聡くてかわいい、この後輩には、どうやら心配を掛けてしまったようで。 「……先輩。少し気になっていたのですが、お疲れではないですか? 最近、今のように黄昏(たそがれ)てらっしゃる時が多いように思えます」 「…あ~、うんそうだよね………気を付けるよ…」 何で自分がそう言われるのか、おおまかな理由は分かっていただけに、マシュに対して申し訳ない気持ちがこみあがってくる。 そうだ……しっかりせねば。自分はこの世界にただ1人残された最後の魔術師(マスター)。多くのサーヴァントと契約を交わしているのだ。 こんな…、こんなまだカルデアにいもしないサーヴァントのことでうつつは抜かしていられない。 クラス:バーサーカー、真名:土方歳三。激動に揺れる時代を生きた、鬼の副長。 彼がこのカルデアに召喚を果たしてから、立香は目に見えて元気だった。……否、普段もあどけない笑顔を振り撒く、カルデア内の職員及び他のサーヴァント達の密かな癒し的存在ではあった。 だがずっと焦がれていた、と言っても過言ではない彼が現れてからの立香は………なんというか、笑顔がよりきらめいていた。 ことあるごとに彼の名を呼び、彼の後ろをニコニコとついて回る。本来、あるべき姿はふつう逆なのだろうが、ドクターロマニ含め、その光景は見ていて非常に穏やかになるものだった。 当の土方歳三の方も、自分の後ろに常にマスターがいる日常に、最初は困惑していたが、いまとなっては満更でもなさそうである。 誰かに気に入られ、それが目に見えてわかるというのは誰しも嬉しいものである。……例え、狂戦士(バーサーカー)であったとしても。 してあるからに、立香の土方歳三を見る目が、いつからかはっきりとした艶のあるものに変化したことに、カルデア内にいる誰もがあっという間に気がついた。 気づいていないのは、立香自身のみ。 隙あらば無意識に愛しい人の姿を視線で追ってしまう立香に、既に召喚されたサーヴァント皆、「かわいい…!」と同じ思いを抱いたことだろう。 もちろん、それに気づかない鬼の副長ではない。……そこまで鬼ではない、と自身では思っているそうな。 口にこそ出さない。 ……しかし、瞳が、表情が、身体全てで「好き」と訴えてくる立香を側におき、彼の狂戦士(バーサーカー)も半分ほだされかけた頃。 天才にして鬼才、かつ万能である美女、ダ・ヴィンチちゃんことレオナルド・ダ・ヴィンチが、とある質問を立香に投げ掛けた。 「マスターはあの狂戦士(バーサーカー)が好きかい? 何よりも愛しい?」 その一部始終を盗撮されているとは露知らず、立香は天才の問いに至極素直に答えた。 それのなんと熱烈なこと。聞いているこちら側が思わず顔を覆いたくなるような、そんな返事を見せられた土方歳三。こんなものを見せられて、こんなにもかわいい人を放っておけるわけがない。 「まったく、はたから見たら完全に想い合ってるのにねぇ。さっさとくっつかないと他のサーヴァントが甘々な雰囲気に耐えられなくなるよ」 「絶対に誰も近づけさせるな!!!」と言い残して立香の自室へと走った大きな背中に吐いた、天才のこんな台詞(セリフ)、彼が知ったらなんて言うだろうか?

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