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第260話 光射す 其の四

「そう難しいことを並べるなえ、雪の! 要は香彩(かさい)が心配だったのだろうえ」 「……」 「彼君は何も言っては来んよ。この子がいなくなって一番困るのはあの方え。あの方はあの方が臨む結果が出れば満足え。その過程のことなど、見向きもせんよ」    雪神(ゆきがみ)が言う台本という言葉に、何やら苦い物が香彩の心の中を過る。そして雨神(あまがみ)が語る『大局を見て個を見ない』彼君の考え方もまた、その通りだと思いながらも、苦い物が心を占めるのだ。  だがその台本ももう、無駄になっただろうと香彩は思う。 (……だって、僕は……もう)  ごくりと苦い物を咀嚼し嚥下するかのように、香彩は雨神と雪神の名前を呼んだ。 「御二方に夢床(ここ)に降りてきて貰えましたが……もう、無意味だと思います」  二神の視線が香彩を見る。  射抜かれるようだと思った。  洗練された清浄な空気を纏った真っ直ぐな神様に、人が故の傲慢で身勝手な心を持った自分を、射抜かれるようだと思った。 「……だって、僕には……」  香彩が言い掛けたその時だ。  香彩の声に反応したかのように、雪神から飛び出したのは三体の光玉だった。  光玉はまるで香彩を慰め鼓舞でもするかのように、香彩の回りをくるりと回転する。  やがて。  光玉のひとつが香彩の肚の上に止まったかと思うと、ゆっくりと中へと納まった。  そしてまた、ひとつ。 「……っ!」  最後のひとつを受け入れた時、まるで中からじわりと灼かれるかのような熱さと脈動を感じた。  光玉が胎内にある核と結び付いたのだ。 (……ああ、これでもう)  望みを絶たれた。  「僕には……もう」   だが発動しない『力』など無いも同然だっただろう。それでも『力』の源が無事であれば、もしかしたら術力を取り戻せたのかもしれなかった。  その為に招影を利用したというのに、その毒に病られかけて、雨神と雪神に助けられた。  二神が夢床(ここ)に降りた時点で、香彩に与えられた期限が終わったのだ。  この身の裡にある核は、元々は先程の光玉達の物だ。この二神はただ預かっていたに過ぎない。香彩の術力が食い荒らされないように。血の血脈の宿命によって、香彩の術力が失われないように。  だからこうして光玉と核が結び付いたのなら、三つの光核達は嬉々として、身の奥にあるはずの『力』の源を食べているはずだ。

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